トレーニング
「んじゃ、今日はそろそろ上がるかぁー」
「だぉね。明日も仕事だし。まただぉペンペン」
「っすねー、おやすみなさいっすー」
精霊達が離れ、身体の制御権を貸与された精霊憑き達。
もちろん彼女達がやることは決まっている。精霊様の言いつけ通り、だ。
今日の所はホームの整備。精霊様2柱分のホームで畑を耕したり、牧場の牛の世話をしたりするのだ。
あと、新しく穴を掘り進めてもいる。まだ先に何か埋まっている可能性を信じて。
2人目たちは自己研鑽だ。ミーティは無駄に良く分からないポーションを合成しまくり、ギンコはモンスターを狩ってレベル上げ。ニカは……ニカだけは気力回復のためにぐったり寝ている。精霊様がホーム取得を目標にSPを稼いでいる最中で、SP依頼で『穢れ』を食べまくりで、オートモードで働かせると回復が間に合わないので。むしろ甘いものを摘まんで休むのが仕事だ。
そんなわけで、1人目達は簡単な業務をしつつ、会話する余裕もある。
アルトが穴をスコップで掘りながら、トリアに話しかけた。
「精霊様達が話をしている時の事なのだけど。たまにトリアやミーティって割り込むわよね? 不敬じゃないかしら」
「ん?……そんなことはないはず。精霊様もトリア達との会話を楽しんでくれている」
「あ、その、トリアちゃんの精霊様はお優しい、から、見逃してくれてるだけ、じゃないかな? だけど不敬には、変わりない、よ?」
「むぅ。ペンペンまで」
しかし実際、精霊様達が会話している時にアルト達、ペンペン達は割り込まない。話を振られたときだけ、会話に参加している。
「で。不敬についてトリアはどう思ってるの?」
「……精霊様、精霊様達のことはもちろん尊敬している」
「それは言うまでもない前提よ? どういうつもりで不敬してんのか、って聞いてるのよ」
その質問に対して。トリアは逆に質問を返す。
「……アルトとペンペンはむしろ精霊様とお話ししたくないの?」
「したいに決まってんじゃないの!!! だからアンタだけずるいって話でしょうがよ!!!」
「そこは、そこを、ぐっとガマンしてるに、決まってるよぅ……」
「精霊様達が、そこのガマンを望んだことがあった?」
そう言われて、思い返してみる。……なかった。
黙っていろ、なんて、そういえば命令されたことがない。
「むしろ『ミーティは元気にしゃべってくれて嬉しい』と言われていた。つまり不敬じゃない。むしろ精霊様の御心に従っている」
「で、でも精霊様たちの会話を遮って話しかけるなんて、邪魔だなんて思われたら生きていけないわ!?」
「アルト。それこそ不敬。邪魔はともかく、生きていけないかどうかは精霊様が決める事」
「うぐ、確かに私達には私達の生き死にを決める権限が無かったわね……」
「だったら、わ、私達も、精霊様達の会話に、す、好きに入ってい、いい、って、コト?」
むむむ、と悩まし気な顔をするアルトとペンペン。尚その間もスコップは止まらず土を掘り返していく。
「……精霊様達の会話に入るには、タイミングを見計らう必要がある」
「タイミング。た、確かに。声を出して精霊様方の会話に被ったら最悪だものね」
「そっ、そそそ、そんなことになるくらいなら、喋らない方が良いよね」
「そのために、とてもためになるトレーニングがある。精霊様から教わったトレーニング」
「……聞こうじゃない。トレーニングなら、私達共通で言いつけられている事。しても問題ないわ」
「わ、私も聞きたい、そしてやりたいです!」
「うん、ならトリアが教えてあげる。穴掘りはこのくらいにして、トレーニングする」
そう言って、スコップを仕舞う。
そしてトレーニングの準備に取り掛かった。
「……これがその、トレーニング?」
「うん。一人じゃできないから、いままでトリアもできなかった。助かる」
それは、細く長い縄だった。一本の反対側が柵に結ばれている。
「……これをどうするの? ひっぱるの?」
「こう、回す」
ぐるん、ぐるん、とトリアが縄を回す。レモンのような軌道を描き、縄がぺち、ぺち、と地面をたたいた。
それはいわゆる、大縄跳びであった。
「ここにタイミングを見計らって入る。何回か縄を飛ぶ。そしてタイミングを見計らって出る」
「……なるほど。誰かに回してもらわないといけないから、一人じゃできないわね」
「会話に入るタイミングを見計らうのに、身体で覚える、ってわけ、だね!」
ぐっとやる気を出すペンペン。
「早速やってみましょう。……っ!?」
「あっ」
ばしん、とアルトは長縄に足を払われスッ転んだ。へそを軸にした見事な側転を決めてしまった。
「……む、難しいじゃない、意外と」
「今のはどうみても縄に当たりに行ってた」
「くっ、次はペンペンの番よ!」
「わ、は、はいっ……えいっ!」
するん、と長縄の中に入りこむペンペン。
「や、やた……びぎゃっ!?」
「おっと」
頭を縄ではたかれ、ペンペンは倒れた。
どうやらトリアが回す長縄ではペンペンの身体には小さかった模様。
「……大丈夫? 頭の方は想定外だった」
「な、縄を丈夫に作り過ぎた、かも、です……痛いぃ……」
「トリアは背が小さいのよ。貸して、次は私が回すから」
そしてトリアがお手本を見せることになった。
トリアはするすると縄に入り、ぴょん、ぴょんとタイミングよく跳ねて縄を飛ぶ。
「……ほっ、はっ、とう。どう? トリアは、余裕。なにせ精霊様達の会話に入れる有能だから」
「な、し、身体能力の差よ! アンタ今素早さいくつよ!?」
「300は越えているとだけ言っておく」
「くっ、私は100超えたあたりから筋力と器用さを伸ばしてるから……!」
その割には器用さが仕事していないのでは? と思わなくもないトリアだったが、黙っておく。
「スピードをあげるわよ!」
「望むところ」
ブンブンブンブン、と縄を回す速度を上げるアルト。ぴょいぴょいたしたしと跳ねて縄を飛ぶトリア。
縄の残像が、レモンかラグビーボールの形を浮かび上がらせていた。
「わわ、なんかもう違う事に、なってない?」
ブンブンブンと高速で縄を振り回すアルトに、もはや足先がちょんちょんと地面に触れるのみで空中に静止しているようにすら見えるトリア。
ペンペンは縄を目で追うのをやめた。目が回りそうになったので。
「これはこれで結構いいトレーニングになるかもしれないわ。腕に効いてる感じよ!」
「トリアも足が鍛えられていいと思う。続けよう」
「……あの、私も、か、会話のタイミングを測るトレーニング、したいんだけどー?……あれ、でもこれ……」
その後ペンペンはこれ別に会話のタイミングとは関係ないのでは? ということに気付いて別のトレーニングを始め、アルトとトリアはしばらく縄を回し跳びまくっていた。が、柵が耐えきれず壊れてしまいお開きとなった。
壊れた柵についてはペンペンが無言で直してくれたそうな。




