閑話:メイド喫茶ごっこ
自分の拠点に帰る前に、ペンペンのところに寄る。
ギンちゃんがペコリと頭を下げる。
「おかえりなさいませご主人様。コン」
「えっ」
「……おかえりなさいませご主人様。コン」
「た、ただいま?」
「席にご案内いたします、コン」
「席? コン?」
とりあえず案内されておく。あ、普通の、いつものペンペンのホームだね。少し片付いてるけど。
いつものテーブルにつくと、そこにはペンペンが先に待っていた。
「おかえりっすトリアちゃん。あ、今はトリア氏っすか」
「おう、ただいま。……なんだいペンペン、あのご主人様って。メイド喫茶でも始めたの?」
「ちょうどそういう気分だったんで、メイド喫茶ごっこしてるっす! トリアちゃんもアルトちゃんもお呼び出しで行っちゃってたし」
なるほど、メイド喫茶ごっこ。
……いい趣味してるね! すごく良いと思うよ! オムライス、オムライスが食べたいわ! 魔法もかけて頂戴!
というか同僚もアルトちゃんを助っ人に呼んだんだろうね。
「でもペンペンはギンちゃんのガチご主人様じゃん?」
「ちっちっち。あくまでお客ポジで仮ご主人様を楽しみたい、そんな気分だったんすよ! ギンちゃんの無理なキャラ付け語尾もそんな感じのアレっす」
「なるほどね?」
そんな気分だったなら仕方ない。ギンちゃんも嫌がっているというよりかは困惑してるだけっぽかったし、俺から言うことは何もない。
だって銀狐メイドに「ご主人様」って呼ばれるの、悪くないもの! 悪くないもの!!
「ペンペン様! あたしはご主人様じゃなくてお姉ちゃんって呼んで欲しい!!」
「いやいやミーティちゃん。メイド喫茶はあくまでご主人様って呼ばれるのが醍醐味……あ、しまった。そういや女の子はご主人様じゃなくてお嬢様だったっすね!?」
「おぉ、拘るねぇ。まぁ俺はご主人様でよろしく」
「承りっすー。というわけでギンちゃん、私はお嬢様で!」
「かしこまりましたお嬢様。コン」
うーん、ペンペンがお嬢様って見た目じゃないことを除けばサマになってるなぁ。
「ミーティちゃんもメイド服着るっすか?」
「うん! 精霊様のことご主人様って呼ぶー!」
『トリアも精霊様のことご主人様と呼びたい。あとで交代希望』
「うん、あとでねトリアちゃん!」
というわけでミーティちゃんもメイド側になった。
服……自分で擬態して変わったな。そういうのできるんだ、便利だねぇ。すまんなペンペン、そのメイド服はあとでトリアちゃんが着るから置いといてくれ。
「というかペンペン、お嬢様名乗るんならもっとそれっぽい格好したらどうだ?」
「……おう、言われてみれば今の私はお嬢様というより取引先の農家っすね。ちょっと着替てくるっすー。えーっと、このあたりに『童貞を殺す服』が……」
ペンペンがゴソゴソとホームの倉庫を漁って服を取り出す。
清楚で可愛らしいデザインの服だ。白いシャツにコルセットを付けつつ、落ち着いた黒スカート付き。
やばい、ペンペンの恵体でその服着られたら殺されるかもしれん……!
「装備変更っすー……ひゃぅ、これ、どうやって着るの? ぎ、ギンちゃん手伝ってぇ」
「はいはい。お任せくださいペンペン……よいしょっと」
「……うぎゅぅ!……」
あ、ちゃんとクローゼットルームに移動して着替えてるね。うんうん。
「着替えたっす!!」
「うわお嬢様だ。お嬢様が来た。なんて完璧なお嬢様なんだ、見た目は!」
「お嬢様ですわーっす!」
田舎娘から大変身してきたペンペンが戻ってきた。でも言動がペンペン! 残念! 喋らなければ殺されていたところだった。
「トリア氏もお嬢様になるがいいっすよ! はいこれ、トリア氏の分」
「うわ、ボタンの縦ライン両サイドがフリフリしてるお嬢様シャツだ。オシャレぇ」
「サスペンダーとスカートを……黒とチェックのこれでいくっす! ベレー帽もつけちゃう!」
「いやー、お嬢様になっちゃうー。装備変更ぽちっ」
一瞬暗転し、着替え終わる。
そっと姿見を見ると、そこに映っていたのは無茶苦茶可愛い女の子だった。
……キャラクリエイトに時間かけた甲斐あって超好みなんだがー!!
「ひゃっほう! ピアノのコンクールに出ててもおかしくない感じっすねぇ! 似合ってるっすよ!」
「これが……俺……!? お嬢様じゃん、お嬢様じゃーん!」
「よーし、これでお前もお嬢様になったなっす! トリア氏の事もお嬢様と呼んでやるっすよギンちゃん! ミーティちゃん!」
「かしこまりましたコン。……お嬢様、お飲み物はいかがですか? コン?」
「いかがですかお嬢様ー!」
「ごほんっ……んん、では紅茶をいただこうかしら? ミルク多めでよろしくね。……どう?」
「お嬢様っすー! 可愛いー!」
「ミルクティをどうぞ。搾りたてです、コン」
あっはっは! こういうのは楽しんだほうが勝ちなんだよなぁー! あ、ミルク多めの紅茶おいしー。
「お、アルト氏達も帰ってきたっぽいっすね」
「ん? 分かるのかペンペン」
「グループチャットでオンライン通知が入ったっすよ。トリア氏も依頼中はオフラインになってたっす」
その通知俺入れてないな。
というかそうか。あの依頼ってインスタンス空間みたいなのでソロ専用なのかなぁ。
あ。あらかじめパーティー組んどけば別かも?
「――おかえりなさいませ、お嬢様。コン」
「ぉ、ただいまだぉー……コン?」
おう、すごいなアルト。お嬢様呼びに一切動じてねぇ。
そしてキャンディーを舐めているニカちゃんを連れて入ってきた。
「んおおぉ? なんだぉ? 今日はオシャレする日かぉ?」
「メイド喫茶ごっこっすよー」
「今の俺達はお嬢様なんだよ。ですわー」
「なるほどだぉ。でもメイド喫茶なら呼び方は『ご主人様』じゃないかぉ?」
「アルト氏、メイド喫茶では女子は『お嬢様』っすよ」
「へー。ゲームでしか行ったこと無いから知らなかったぉ」
ああ、メイド喫茶が出てくるようなゲームだと主人公って大体男だもんなぁ。
メイド喫茶で働く側のシミュレータなら別だけど。
「……ん? じゃあアルトは普通にお嬢様呼びを受け入れてたってコト?」
「もしやリアルお嬢様!? や、やべーっす、媚び売るっす!」
「やめるぉペンペン氏。今のボクはただの営業だぉ……フッ、昔は地上1万平米の大豪邸に住んでいて、白くてデカい犬を飼ってて、風呂上りにはタオル地のガウン着て膝に猫を乗せて、高層ビルの窓から庶民の営みを見下ろしつつワイン片手にニヒルに笑う系のお嬢様だったんだぉ……あの大災厄ですべてを失うまでは……」
「や、闇を感じるっす……!」
それは絶対嘘だろお前。お嬢様がワイン片手にニヒルに笑うなよ。
ペットで犬と猫両方飼ってるのはともかく、せめて住居は大豪邸か高層ビルのどっちかにしろよ。
「まぁ冗談はさておき、フツーにアルトちゃんは可愛くてお嬢様だぉ?」
「そういやアルトちゃんの元ネタの元ネタ、世界で一番お姫様な歌姫だったな。姫ってことはお嬢様だわ」
「だぉ。というわけでアルトちゃんにもその清楚系お嬢様衣装を寄越すぉ! 金なら払うぉー!」
「ハイ喜んでっす―!!」
その後アルトも無駄にクオリティの高いお嬢様をした後、2人目とお嬢様役を交代したりして楽しんだ。
ケチャップでハート書いたオムライスはとても美味しかった。




