女騎士ヴァレリア
私、ヴァレリアは、アウレスト王家に仕える近衛騎士だ。
畏れ多くも姫の近衛とさせていただき、自分で言うのもなんだが多大なる信頼を得ている、と思う。
ただ、アウレスト王家には敵が多い。それは国内外問わず、さらには王位継承の争いにおいても同様だ。
栄光ある黄金、アウレストの歴史を継ぐには、強くあらねばならないのだ。
敵国に襲われた村。救援として、王家自らが動くことになった。
なんでも、王族が直接向かうことで威厳が示され、民の安寧につながる……という名目で押し付けられた仕事だ。
勿論何かあるだろうと警戒し、部隊を引き連れてその村に向かった。
村から避難してきた男手も兵士として参加しており、姫が同行していることもあって、たしかに士気は高かった。
そこは元々我が国の村で、奪還のため兵とともに向かうと、敵は抵抗することも無く逃げて行った。
村出身の兵は自分の家の無事を確かめに走り、あまり荒らされていない家内に安堵のため息をついていた。
しかし井戸にはネズミの死体や、毒が入れられ使えないようにされていた。
厄介なことをしてくれたものだ、復旧には多少時間がかかりそうだ……
だが日が落ちかけていたので、村を拠点として一晩滞在することにした。
可能であればこのまま復旧作業をするのも良いだろう。人手が必要で、兵士たちは丁度良い人手だった。
しかし、それが間違いだったのだ。
何人かの兵士が手持ちの水が尽きて、煮沸すれば大丈夫だろうと毒の井戸水に手を出して腹を壊していた。そこまでならまだ笑い話で済んだのだが……
深夜のうちに瘴気が広がっていたのだ。
奴らは、禁忌の技術に手を出していたのだ。悪魔の兵器に。
その文明は下剋王により徹底的に破壊されたはずだが、古代遺跡でも見つけたのだろう。
もっとも、各国に伝わる伝承では人が人である限り悪意の滓は絶えず、いずれ悪魔は復活すると言われているが……すぐに誰も動けなくなってしまった。
体力が低いものは、夜明け前にまるで吹雪に晒され凍り付いたかのように、ぴくりとも身体が動かせなくなっていた。生きてはいるが、死ぬのも時間の問題だった。
姫はさすが王族というべきか、まだ瘴気に抵抗力があったのか、多少動くことはできたが……鍛えている騎士ほどには、耐えられなかった。
なんとか伝令を、助けを呼びに走らせはしたが……馬も全滅しており、徒歩ではどこまで戻れるだろうか。
せめて動けなくなる直前に。と私は姫をベッドに寝かせたが……そこで私も動けなくなってしまった。
そして。
姫が、うわごとを言っているのを聞いた。
「いいえ、王族として……全てを捧げることは、できません……」
そいつは、何か姫に取引を持ち掛けているようだった。
姫は拒んでいる。拒んでいた。
しかし。
「……わかりました。それで、皆が助けられるなら」
姫が頷いた直後、姫の身体から『何か』が抜け出るのを、私は見た。
姫が叫ぶ。声は出ていない。が、無言で泣き叫んでいる。
身体が動かせない。瘴気で弱り切っているのだ。
その後私は意識を失ってしまった。
身体が動かせず、来るはずもない助けを待つしかなかったはずが。
いつのまにか、瘴気が晴れていた。ベッドに額を付けたまま頭を上げられなくなっていたが、肌で空気が正常に戻っていることが分かった。
助けが、来たのか?
まだ身体が動かせないが、徐々に体力が戻ってきている気配があった。
「おーい、入るよー。お邪魔しまーっす」
何者かが無遠慮に家に入ってきた。そちらに顔を向けることもできず、動けないまま私はベッドに額を置き浅い呼吸を繰り返す。
こいつが敵であれば、我々の命はない。味方であることを祈る。
「なんだよお姫様と女騎士じゃん。そうならそうと言ってくれればよかったのに……そういやミーティちゃんモンスター側で大暴れした悪役っ子だったわ。好き好き大好き可愛いぞー」
誰かと話しているのだろうか? だが床の軋む足音は、一人しか気配を感じない。せめて声のする方を向けたら良いのだが……
「あ、ああ……神様……? 天使様……?」
姫に何かをしたようだ。薬を飲ませてくれたのだろうか?……話している内容からして、味方のようだ。少なくとも敵ではなさそうである。
依頼を受けた? 伝令は町へたどり着いたのか?
いや、それにしては早すぎる。そんなたまたま瘴気を浄化できるような神官を連れて来られるだろうか。
そしてもう一本貰った解毒薬を、姫が私に飲ませてくれた。
……
動ける、うん、動けるようになった。
「あ、あの? 天使様?」
「ん? ああ、いや、追加報酬が貰えるならもうちょっと働いてもいいかなーって。敵をぶっ倒してくる、とかさ」
「……っ、う、あ、それは……」
丁度、ここで私は顔を上げることができた。
ああ、姫様が、姫様が震えている……そうか。昨晩の、取引。
あれで、姫様の中の『何か』が、何か大切なものが、奪われたのだ。
いいや、正当な取引だったのだろう。本来は助かるはずのないのに、命だけでも助かったのだから。
しかし、そんな『何か』を受け取り依頼を受けたというこの者は何者か?
魂、寿命と引き換えに願いをかなえる……
それは、悪魔……だろう。
ぐぐ、と首を動かすと、そこにはどこにでも居るような猫獣人の子供がいた。ただ普通と一つ違うのは、頭の上に光の環が浮いていること。
「ん? 追加報酬は……無理そうか。じゃあここまでで」
「わ、私から取ればいい!」
相手が悪魔であれば、契約でもなんでもしてやる。
姫をこんな目に合わせた敵に、報復を……!
あ、で、でもせっかく助かった命は惜しいので、寿命の半分でどうにか……ならないか!? ならないだろうか!?




