第64話
井戸を全部すっかり綺麗に片付け終わった。
全部の井戸にきっちり毒の元っぽい死体が沈んでたね。回収した分裂体もそれを食べきったらしい。
村に漂っていたモヤモヤも消えている。バッチリ片付いたな!
タイムをあと30分残してクリアだ。
……カウントダウン止まらないんだけど?
これって依頼主を見つけて確認してもらわないとダメなタイプの依頼なのかな。
「くっそ面倒な。折角井戸を綺麗にしたのに報酬貰えなかったら骨折り損のくたびれもうけだ!! 依頼主を探すぞミーティちゃん!」
『おー!』
どいつが依頼主だよ畜生!
こういう場合は倒れてる兵士どもの親分に違いない。適当に兵士を蹴り起こし、腹いっぱいに溜まってる水をぶっかける。
「うぅ……っ!」
「おい、助けに来たぞお前らの親分はどこだ?」
「た、助け……? あ、あっち……一番大きな家に……」
こいつらが村を襲いに来た兵士だとして、一番立派な家を親分のために接収したんだろうな。
にしても、井戸に毒を入れられた程度で全滅するとかどうなってんの? ザコなの?
戦闘跡らしいものも見当たらないし……
というかこの様子じゃ井戸を綺麗にした程度では手遅れだと思うんだけど。
まぁ俺は依頼を受けて井戸の毒を綺麗に掃除した。報酬を貰えればどうでもいい。そう思っている。
そう思っていた。その親分を見つけるまでは。
「おーい、入るよー。お邪魔しまーっす」
村長の屋敷の中、ベッドに横たわって弱っているのは……虚ろな瞳で天井を見つめる金髪猫耳の可愛い女の子だった。ベッドに似合わない布の多い上等な寝間着で、ベッドに赤いポニーテールの兵士がもたれかかっている。
『やった、妹だ! 妹がいるよ精霊様ー!』
「なんだよお姫様と女騎士じゃん。そうならそうと言ってくれればよかったのに」
『あれ二人とも妹にするー!』
かわいい子は大好きなので、こうなればもうちょっとだけ助けてあげたい気もしてくるというものだ。
ヒロインを助けるのはゲームの基本だからねぇ!
侵略者側だったとしても可愛いが正義なのがゲームなんだよねぇ!!
むしろ悪役で歯がギザギザしてるような子だと人気出ちゃう!
『歯がギザギザ? あたしみたいな? 精霊様これ好き?』
「そういやミーティちゃんモンスター側で大暴れした悪役っ子だったわ。好き好き大好き可愛いぞー」
『えへへー! 嬉しい!』
まぁそんなわけだから、オマケでポーションくらいはあげちゃう。
ミーティちゃんが錬金術の練習で作ったポーションだ。解毒のやつ。お姫様の可愛いお口に、せいっ! とポーション瓶を突っ込む。
「むぐっ!?……がはっ! は、は、ぁ……はぁっ」
「お、効いた?」
「あ、ああ……神様……? 天使様……?」
「頭に輪っかはついてるけど人違いかなー」
とりあえず会話はできそうだ。
「依頼を受けて井戸を掃除しに来て、掃除し終わった所なんだけど確認してもらえる?」
「え?……井戸を、綺麗に……して、いただけたのですか?」
「? そういう依頼だからね」
「瘴気が消えてる……! たす、かった……!?」
なんか知らないけど助かったらしい。じゃあ依頼達成なのかな?
「じゃあ依頼達成でいいのかな?」
『妹にしてあげるね! っていってあげて精霊様!』
「依頼……? あ、は、はい。ありがとうございました」
「それとこれはオマケ。もう一本解毒ポーション渡しておくね」
「あ、ありがとうございます」
この女騎士さんにでも使ってあげて欲しい。
……お、タイマーが止まった。依頼達成、帰還するってボタンが増えてる。
「それにしても何があったらこんなあっさり全滅しちゃうわけ?」
「……罠にかかりまして」
「うん、なんでこんなあからさまな罠にかかってるのさ」
「私達がこの村を奪還した時には偽装がされていたのです」
奪還。へぇ、侵略じゃなかったのか。
『私の妹になんてことを! 精霊様、敵をぶっ殺そう!』
「いや、依頼は井戸の掃除だけだから……」
『暴れたりない!!』
「依頼の外だから勝手にやるのもちょっとね?」
『むむむ……!』
そこまで助ける気もない。それにトリアちゃんならともかく、ミーティちゃんは実は戦闘力はあまり高くないのだ。こちらに有利なフィールドならともかく、正面から殴り込みは無理ゲーである。
奇襲したりこっそり潜入して毒をバラまき返すくらいしかできないだろう。
……トリアちゃんが来れればなぁ。
『よぶ?』
「ん?」
『トリアちゃん呼ぶ?』
呼べるの? と思ったが、メニューに『仲間召喚』があった。
……呼べるのか、1人目。
いやまぁ、そこまでやるのはなんか肩入れし過ぎな気もするけども。
ううーん、せめて追加報酬とかもらえるなら良いんだけどなぁ。
「あ、あの? 天使様?」
「ん? ああ、いや、追加報酬が貰えるならもうちょっと働いてもいいかなーって。敵をぶっ倒してくる、とかさ」
「……っ、う、あ、それは……」
顔を青くしてガクガク震えるお姫様。
……どしたん? 急に?
「ん? 追加報酬は……無理そうか。じゃあここまでで」
『精霊様! 妹だよ!? 助けてあげようよ!』
といっても、報酬貰えないんじゃなぁ……
「わ、私から取ればいい!」
「ん?」
薬を飲んで復活した女騎士さん。
『やった! 報酬があるなら助けて良いんだよね? ね?』
やれやれ、仕方ないなぁ。
報酬貰えるならって言っちゃったし、トリアちゃんも呼んで暴れたいのもあるし、お姫様っぽいし。ちょっとした報酬で助けてあげようじゃないの。
「このアウレスト王家が近衛騎士、ヴァレリアが……! 姫の、姫の代わりに代償を支払おう!」
「ほう。いくら払う?」
「……」
「報酬も貰わずタダ働きする気はないぞ」
「じゅ……寿命の半分を差し出す! 持って行け!」
……
「いや寿命とかどうやってもらえばいいの?」
「ん?」
「悪魔じゃあるまいし……ほら、お金とかアイテムとか、そういうのが欲しいんだけど」
「えぇっと……?」
「じゃあもう今履いてる靴下とかでもいいから」
「!? なんで靴下を!? い、いや、その程度でいいなら構わないのだが……」
うん? 登場キャラの衣類はゲームにおける定番コレクションアイテムだぞ?
……ハッ!? でもVRモードだとただの変態じゃねぇか!?
「ごめんやっぱ靴下はナシで」
「……む、そ、そうか。……靴下程度で働けというのは、アウレスト王家の沽券にかかわるものな」
『あたしは靴下でもいいよっ! 妹のならもぐもぐできるよ!』
しなくていいからね。




