とある商人の命懸け2
商人はこのところ駆けずり回っていた。
例の土地についての手続き関係である。そもそも郊外なので好きにしろと言いたいところだが、そうもいかないのが国や税金やそういうアレコレなのだ。
「ふぅ……とりあえず土地の手続きはこれでいつでも大丈夫。厩舎等は建材だけは用意できそうじゃが……大工が手配できていない。早く見つけなければ……」
鍛冶師に頼んで、使い道がないと言われていた無駄に硬い鉱石を使ってのツルハシ開発もした。案外使えるのでは? とその鉱石の新しい使い道となってひと稼ぎできそうだが、それはそれ。
そして。審判の時がやってきた。
「ちわーーっす! 牧場くださーい!!」
そう、例のアイツがやってきたのだ。
……慌てるな。慌ててはいけない。そう、ここまでしっかり準備をしてきただろう? これはただの商談だ。壺もちゃんと安物に替えておいたので割られても大丈夫……と自分に言い聞かせる。
「これはこれは、ようこそいらっしゃいま……せ」
大声を、悲鳴を上げなかった自分を褒めて欲しい。
6人。6人だ。やつらが増えている。なにこれ。戦争でも始まるの?
最終戦争?
「うーん、これは妹にはできそうにない。食べて良い?」
「つまみ食いはダメだぞー? 帰ったらペンペンにステーキ作ってもらおうな」
「お店ってこういう所なの? 初めて来たよ」
「こっちはどちらかっていうと商談用だぉね。ショッピングは別のとこだぉ」
商談と理解しているならアポを取ってから来てほしい……と思いつつ、獣人のメイドを侍らせたメインの相手が席につく。
「はい、約束の金貨5枚っす!」
「……確かに受け取りました。ではこちら権利書になります。あ、ここに名前のサインだけ頂けますかな」
「はーいっす。サラサラ……っと。これでいいっすか?」
「確かに頂戴いたしました」
あの不良物件だった土地が金貨5枚になった。それだけを見ればとてもいい話に聞こえる。が、そう。あの土地には何もない。何もないのである。
そう、本来金貨5枚の価値など、ないのだ。
「……郊外なのでモンスターの襲撃にはお気をつけ下さい」
「まぁそのくらいはどうにでもなるっすねー」
「そーだぉね。防衛イベントもありそうだぉ」
「ミーティちゃんの餌だな」
「妹にできない?」
「モンスターは妹にはできないんじゃないかなぁ」
目の前の災害達を騙しているようで胃が痛む。
良心の呵責? そんなものではない、命の危機を前にしたストレスでだ。結局あの土地に何もなかったと気付かれた時の報復を考えると……夜も眠れない日々になりそうだ。
「念のため言っておきますが、あの土地は……あくまで牧場用。牧場は作れるかもしれませんが、何もないかもしれないので、ええと」
殺さないでくださいね、と頼みそうになった。が、それを口にしてしまえば、その瞬間『用済み』だと、それこそ命を奪われるような気がして、口を噤む。
「ぎゃ、逆に言えば、何か出た時でも追加料金は発生しないのでご安心を」
商人はなんとか平静を装い、それを口にした。
「おっけーおっけーっす! あ、でも何か出た時に何か頼むのは当然できるっすよね?」
何か出た時何か頼む、って、何が!? 何を!? と背中に汗をかく商人。
「は、ははは。そうですね。あ、でも急な話だったもので大工はまだ手配できていないのですよ。建材はご用意できたんですが」
「なるほど、そういう事っすか」
何が!? 何がなるほどなの!? 不手際で死ぬ系の「なるほど」じゃないよね!? ね!?
「つまり別料金なんっすね!?」
「え? あ、え、えっと。はい……」
それは当然そうなのだが……そうなのだが?
「ん? どういうことなんだペンペン?」
よくぞ聞いてくれた! と心の中で猫獣人を抱えて止める少女に感謝を送る。
一体どういうことなのだ?
「つまりこれは、建物レベルで自分好みの牧場をクリエイトできるってコトっすよ!」
「え、ペンペンって家も建てられるの?」
「よくわからんけど建てられるんじゃないっすかね? 大工やったことないっすけど」
よくわからんで家を建てて良いわけがあるか!? それで壊れたらこっちに何か責任が及ぶヤツだわッ!! 建物が壊れたのはこちらの責任だ、と言われて殺しに来るやつじゃよねぇ!? と商人は焦る。
「……よ、よろしければ大工を紹介しましょうか? 交渉はそちらでしてもらえれば……」
こうなったら責任の分散をはかるしかない。
あの頑固者の大工共も道連れにしてやる。上物に何かあった時はそちらに対応してもらいたい。
「うーん。これはどっちっすかねぇ?」
どっち!? 何がどっちなの!? 死or生!?
「ペンペン、何がどっちなんだぉ?」
よくぞ聞いてくれた! と心の中で黒髪ツインテールの少女に感謝を送る。
ところでそっちの壺つついてるピンク髪の少女はほっといても大丈夫なんですかね?
「うん。大工スキルを得るために弟子入りするパターンか、それとも落ちこぼれ大工と協力して最高の厩舎を作ったりするシナリオかっす!」
「あーなるほど。あるあるだぉ」
なんで落ちこぼれ? あるあるなの? 金に飽かして一流の大工を親方として雇えばいいではないか。と首をかしげる商人。
だがそれならどちらでもウチには関係なく済みそうだ。
「あー、まぁ、それはそちらの方でお確かめください。えーっと、地図のここですな。ここが大工の親方をやってるヤツの家なので……儂からの紹介といっていただければ話を聞いてもらえるかと」
「そっすね! ありがとうっす!」
「あ、土地の図面をどうぞ。……まだ柵とかもないので、その図面の範囲で好きに柵を建てるなりしてください」
「……ところで! 穴を掘るならどこが良いっすかね!」
あ、穴? 穴……そ、そうだった。何か掘り当てようとしてて、それで儂はツルハシを開発してたんじゃった……
……分からん。何も分からん。口から出まかせだったし。
「う、うーん。それは儂からはなんとも」
「むむ。そこをハッキリさせてからじゃないと牧場建てるのは難しいかもっすね」
そ、そんな!
こ、こうなったら適当でも! 端っこの、こ、ここだぁ!!
「お、そこっすか!?」
「は、はぁ、まぁ適当ですが……土地の中心に穴をあけると不便ではないかと」
「確かに! よーし、じゃあここを掘ってみるっすよ!」
「……スコップやツルハシ等は隣の商店で売ってるので、よろしければどうぞ」
「うっす! じゃあ行くっすよー!」
そう言って立ち上がり、他の5人を連れていく。
……
嵐が、去った。
今日もまた生き延びた。そう思って椅子に深くへたり込む。
「あ。商人さーん」
「ひぃ!? な、なんですかな!?」
戻ってきた!? なんだよもう!
「まだ先の話っすけど、土地の拡張って……どうなるっすかね!?」
「と、土地の、拡張……?」
「ほら、手狭になったら隣に増やすアレっすよ」
「……調べておきますね」
「よろっす!!」
そう言って、今度こそ嵐は去って行った。
つまり、買収して簡単に受け渡せる状態にしておけと。そういうことか。
「正直郊外ならあってないようなもんだが……まずは土地の持ち主を探すことから始めねば……はぁぁ」
まぁ精霊憑きの隣人なんてお断りだろうし、交渉が簡単そうなのが幸いか。
というわけで商人はまた土地関係の手配で東奔西走することになったが、命には代えられないのである。




