第53話
研究所の外は、自然が広がっていた。
というか、島だった。とはいっても近くに陸が見える程度の距離。
島の外周をぐるっと回ってみたところ、この島には研究所しかなく、隔離された立地であり、どうやら周りは海の模様。
「……で、ゾルドや。これからどうする?」
「どうするもこうするも……船でも探すか」
「んじゃ、ここでお別れだなー。……とりあえず研究所にあった食料は渡しとくよ。非常食もあるし役立ててくれ」
「そうか。……で、おまえはどうするんだ?」
俺? 俺はそうだな。
メニューにある『1stキャラに合流しますか?』という選択肢に『はい』を押そうと思ってる。
多分、ミーティちゃんのシナリオはこれでクリア扱いなんだろう。ペンペンもこうやってギンちゃんを合流させたんだろう。
「ま、もしまた会ったらよろしくな」
「おう。……ありがとうな」
「いいってことよ。元気でな」
ぽち、と『はい』を選択する。黒いゲートみたいなものが開いて迫ってきて、俺を、ミーティちゃんを飲み込んだ。
次の瞬間。そこはペンペンのハウスだった。
ペンペン、ギンちゃん、アルトちゃん、トリアちゃんが揃っていた。
「おかえりっす! 早かったっすね!……光輪の柄からしてトリア氏の2キャラ目っすよね?」
「おう? ただいま。……そんな早かった?」
ペンペンは今、ギンちゃんではなくペンペンちゃんに入っている模様。
「精霊様! おかえりなさい、です!」
「トリアちゃんただいまー。……すまんペンペン、とりあえず肉くれ。美味しいお肉が食べたいんだ……!」
「どうぞっす」
ペンペンがボアステーキをテーブルに置いた。良い匂いだ、暴力的すぎる。思わずスライムの姿に戻って飛びつきたくなった。というか戻って飛びついた。
皿の上でお肉を取り込む。
あああ、あ、うま、うまぁあ! ズドンと濃厚な脂! 旨みたっぷりソース!
スライムの食事、全身で味わうこの快感ッ! これこれこれぇ!! これが欲しかったのぉおお!!!
「おお! 獣人っ子でキャラ被ったかと思ったらスライムの擬態だったんすね!」
「ハッ! すまん、すっかりスライム操作の食事に慣れてて飛びついちまった」
『精霊様精霊様! これすごい美味しいぃいいーーー!!! 人間よりうまー!!!』
感動で身体が震えている。
よかった、人間の方が美味しいねとか言い出さなくて。
「はぁー、2日ぶりのはずなんだが、1、2週間くらいぶりくらいの感じだぁ」
「そうなんですか? お疲れ様です精霊様」
「あ、トリアちゃん。こっちはミーティちゃんね。仲良くしてあげて」
『あたし、ミーティっていうの! よろしくトリア! 妹にしてあげるね!』
「……妹? よろしく、ミーティ」
妹? と首をかしげるトリアちゃん。俺ももう良く分からん。
ペンペンがそっとおかわりをスライムボディの上に置いた。ぶくぶくじゅわぁ、と取り込んで消化。うまぁ! うまぁああー!!!
「なぁ、ペンペンから見たら俺はどれくらいで帰ってきてた?」
「30分っすね」
「日帰りってレベルじゃねぇな。ちょっとスーパー行ってくるってくらいの時間じゃん……」
30分って。出発した日から1日も経っていないとは、最近の時空ってば乱れてるなぁ。
……そういやペンペンの2キャラ目も、俺とトリアから見たら気付かないうちに増えてたっけ。あれも俺達からしたら1日どころか30分だったんだろう。
「アルト氏はまだ帰ってきてないっすけどね」
「このまま待ってれば数分で帰ってきそうだな」
「っすね。トリア氏が戻ってきたならアルト氏もすぐっすよ多分」
あっちはさらに1、2週間は経ってそうだな。
仕事で雑談したときにそう言ってたし。
「ペンペン、無茶苦茶美味い肉用意しておいてやって。なんか穢れとかいうヘドロ食ってるらしいから」
「口直しっすね。甘味も用意しといた方がよさそうっすね」
ペンペンが有能過ぎる……
「せ、精霊様」
「ん?」
呼ばれてみると、トリアちゃんがこちらをじーっと見ていた。おっと、スライムモードで皿の上に乗ってるのはお行儀が悪かったな。
降りつつよいしょっ、『擬態(人)』!
「うん、何かな?」
「お、おててつないでください!」
「うん? うん」
握手を求めて差し出してきたトリアちゃんの手をぎゅっと握る。
「お、おお、精霊様だぁ……! 精霊様ぁ……はぁ、はぁ……っ」
『トリアちゃん、かわいい妹だねっ!』
「ミーティ? トリアはミーティの妹になった覚えはないよ?」
『今なった! 異論は認めない!』
「精霊様がいいならいいけど」
「……まぁ、じゃあそういうことで?」
というかペンペンには聞こえてないよなミーティちゃんの声。分離するか。
「とう、分離! GO、ミーティちゃん!」
「やたー! えへへ、こんにちわっ! あたしミーティ、お姉ちゃんだよ!」
ぷりん、と2人に分裂した俺とミーティちゃん。これでペンペン達にもミーティちゃんの声が聞こえるかな。
俺は俺で身体を動かせるので、実質3人!
「そっちの3人も妹だー!」
「ええ!? 私も妹っすか?」
「……あなたは大きいからやめとく!」
最大サイズだったらペンペンよりも大きいんだろうけどね。
「残り2人は妹!」
「ちょっと? どうみても私の方が大きいのだけど?」
「自分は精霊様にお仕えするメイドなので、精霊様がいいならいいですよ」
「ダメっす。ギンちゃんは私のメイドっすからね!」
「むぅ。妹がトリアちゃんしか増えなかった」
しょぼん、と落ち込む。トリアがミーティちゃんを撫でて慰めていた。
これトリアの方がお姉ちゃんだな。
「にしても、スライムってどんな感じっすか?」
「面白いぞー。腕がうにょーんて伸びる感じが。リアルにあったら布団に寝ながら部屋中のものに手が届くだろうな」
「おお、そりゃ良いっすね。電灯のヒモがなくても届くのは地味に便利そうっす」
電灯のヒモ……??




