第50話
アネットちゃんの所へ戻ってきた。
相変わらず、禍々しい赤い角が左上に生えている。……なんというか。助ける方法は無いらしい。
それどころか、既に限界を超えているらしい。活性剤とやらを一回分摂取しなかったから、その分だろう。すなわち、本来であればギリギリ会う事すらなかったはずだったのだ。
なのに、会ってしまった。
だからやはりこれは、ゲームなのだと思う。そんな都合のいい事、そうそうない。プレイヤーが会いに行かなければいつまでも発生しないイベントのような。そんな話だ。
アネットちゃんは、ゲームシナリオ的に、初めから死ぬ前提のキャラだった……ということだろう。
そう割り切ることにした。
だけどそれを本人に何と伝えたもんか。
それに、妹も居なかったし。少なくとも、この施設では。
うーん、選択肢のあるゲームならポチっと選ぶだけで済むのになぁ。
「おかえり……ミーティちゃん」
「うん、ただいまアネット」
今はオートモードでミーティちゃんにアネットちゃんの相手をしてもらっている。
これどうしたもんかなぁ。相手してもらっている間に今後の行動について考えるとしよう。
「アネット。これ食べる?」
「おいも。ありがと。半分こしようね」
受け取った芋をジュウと手で焼いて、半分をミーティちゃんに渡すアネットちゃん。
焼けた芋はホクホクして美味しかった。
「アネット。妹、いなかった」
「妹? ミーティちゃんの? それは残念だったね」
「ちがう。アネットの妹」
「え? 私、妹なんていないよ?」
首をかしげて不思議そうにミーティちゃんを見るアネット。
……うん?
「アネット、妹居るって言ってた。嘘だったの?」
「……あ、うん、いる。ごめんごめん。冗談だよ。このくらいの小さな子でね。可愛い年下の」
「双子だって言ってたよ?」
「あはは。私の方がお姉ちゃんだから。……あはは」
そういって力なく笑うアネット。しかし、その笑みはすぐに消えて、困惑の表情に変わった。
「……なんで? そうだよ、居たよね。妹の、名前も、顔も、思い出せない……?」
「アネット? 大丈夫?」
「大丈夫じゃない……」
「……」
「私、おかしいんだ。ねぇ、助けてスライムちゃん。私、私、ああ、だめ」
そう言って浸食部分、頭を掻きむしるアネット。ジュウジュウと髪が焦げる。焦げたが、ほぼすぐに治っている。髪なのに。何かが暴走しているかのようで。
そしてがしっと左上に生えている赤い角を掴んだ。引っこ抜く勢いで、握り込む。
「これ、これだ、これが悪いんだ! ああああ!!!」
「アネット、まって。それは危険!」
「……ぇぁ、おえっ、うげ、おっ」
先ほど食べた芋を吐きながら、角を引っこ抜こうとするアネット。左目が白目をむく。ずり、と1センチだけ、角が外に向かってズレた。接合部から血が溢れる。
それが、限界だった。
アネットは、胃液を吐き散らかして、倒れた。ぴく、ぴく、と痙攣している。
「ぐぅ……ぅぅ……」
「あ、アネット……?」
「あー……ぅん……はぁ……はぁ……んぐ、お、どろかせちゃった、ね……ごめんね……」
角は、どくん、どくん、と脈打っている。
「……あはは……だめだなぁ……だめだよぉ……私、妹、大切な。ああ、あれ? 大切な? 思い出せないよぉ……」
ぽろり、ぽろりとアネットの目から涙がこぼれ落ちる。
「……ミーティちゃん。2つ、お願いがあるの」
「なに?」
「妹の事……覚えててくれる? 私の代わりに。私には、妹が居たんだ。ぜったい、居たんだ。居たんだよ……」
「うん。わかった。覚えておく。……もうひとつは?」
ごろん、と石畳の上で仰向けになるアネットちゃん。
「……ミーティちゃんのこと、私の妹だと思ってもいいかなぁ?」
「それは、好きにしたらいいよ……せいれい様。いいよね?」
『ああ』
流石にこれをダメとは言えないって。断る理由も、ないし。
「うん、いいって」
「……よかったぁ。私には妹が居るんだ。可愛い妹、大好きな妹……ミーティ……」
アネットはそう言って、安らかな表情を浮かべる。
そして……息を引き取った。
「……アネット?」
『……』
「起きないと、ここから逃げられないよ? ね、アネット? いこ?」
どくん、どくん、と赤い角だけが脈動している。
じわりと浸食が広がるのが見えた。早い。
『ミーティ。アネットを食べよう』
「せいれい様!? どうしてそんなこと言うの、アネットは寝てるだけ!」
『早く食べないと、赤い角に全部持っていかれる!』
「…………っ! ほ、捕食っ」
物言わぬアネットの身体に手を伸ばすミーティちゃん。赤い角に浸食された部分を触ると、ジュッと水分が蒸発する音がした。
アネットの頭の半分、胴体を捕食する。ミッションのカウントが、1、上がった。手足の先は赤い角が埋め込まれていたようで、浸食されていて、触れられなかった。
食べ残しともいえる箇所は、全て赤い角に浸食されきって、赤黒く干からびた肉になった。
ころん、と檻の中で支えを失った赤い角が転がる。
ミーティちゃんでは赤い角には触れられない。
この赤い角を捕食することは……少なくとも今のミーティちゃんではできない。
「……妹のとこ、連れてってあげるからね。アネット」
ぽつりとミーティちゃんが呟いた。
全部あの赤い角に持ってかれるよりは、多分よかった。
多分だけど。
「精霊様」
『ん?』
「これからどうする? 全滅させる? させるよね? こんなことしたヤツら、全員」
『お、おう』
「だよねだよねっ! あは、あははっ!」
まぁあと18人食べないといけないし、その予定だけども。
てかあの、ミーティちゃん? なんか急に饒舌になったね? アネットちゃんの身体に活性剤とかが堆積してたのかな、生物濃縮的な感じで。
「任せて精霊様。あたしにやらせて? 全部、食べちゃうんだからっ」
そう言って、ミーティちゃんはしゅるんと鉄格子に触手を巻き付けて……ジュッと消し溶かした。
わ、わぁ、頼もしいー。でも俺もモンスターアクションの本番やりたい……
「あ。分裂つかえばいいじゃん。どっちがいっぱい食べられるか競争だよ精霊様っ」
『お、賢いなミーティちゃん! よーし、負けないぞ! アネットの弔い合戦だ!』
「おー!」
アネットの事を吹っ切るために、あえて明るくそう言った。
多分ミーティちゃんも無理して明るく振舞ってるけど、アネットの弔いのためにも暴れる気は満々だった。




