第49話
戻る途中、地下3階。研究員が使用人2人に命令し、牢屋から動かない獣人一人が連れ出されているところだった。
ゾルド君たちは奥へ追いやられつつ、それを見ても大人しく何も言っていない……いや、既に反抗した後なのだろう。ゾルド君のほっぺたには大きな殴り跡があり気絶していた。
防護服を着こんだ研究員によって運び出されているのは死んだ獣人らしい。こちらは外傷が見当たらない。……ということは俺達がさっき通りかかった時には既に死んでいたのだろう。
「上へ運べ、実験体の食料に回す」
おっと。つまりこれ、アネットちゃんのゴハンになるのかぁ……?
つまり巡り巡ってミーティちゃんのゴハンか。
『ごはん? たべる? もぐもぐ?』
『まだダメだよミーティちゃん』
そしてこいつらもいずれミーティちゃんのゴハンにしてやろうね。あと20人くらい食べないといけないからね。
まだ、もう少しだけ泳がしておくけれども。
アネットちゃんの所にいくなら、アネットちゃんの研究の関係者だろう。ついていけば何か資料が探せるかもしれない。
天井裏からそっと追いかけていくと、アネットちゃんの牢に行く前に別の部屋に寄るようだ。
……色々と資料のある研究室。ここがアネットちゃんの研究をやっている場所か? と、天井裏から覗き込む。
机に座って書類を出して読んでいるな。……あの不気味な角が描かれている。
「培養は順調だ。幸運にもライバルだった合成魔獣計画は上級研究員が事故死し頓挫。次のコンペでは我々の人工魔人こそが軍の主力であると決定することは間違いないだろう」
先ほど調べた時には机の中までは漁っていなかったので見落としていたが、ここがアネットちゃんに関係がある研究室で間違いなさそうだ。
「活性剤は?」
「こちらに」
「よし。注入しておけ」
死んだ獣人の子の首筋に、何かを注射している。
活性剤。名前から察するに、あの赤い角を刺激する何か、なんだろうか。
……もうやっちゃうか? 食べちゃうか?
使用人っていうより助手っぽいし、ここにいる3人とも全員さぁ。
選択肢的には、研究員を残して事情を話させるか、全部片づけて自分で調べるか、あるいはまだ手を出さずの様子見だが……
……さっき研究員っぽいやつ食べちゃったし、様子見はもう良いかな?
もうバレる前に行動するべきか?
あ、でも研究所を囲う壁の外がどうなってるか一ミリも分かってないんだった。
……うーん。
……
そうだ! 良いことを思いついた! あの防護服、中に入っちまえば人のフリもできるんじゃないか? つまりスライムによる人への擬態である。
防護服の強度が弱いなら穴をあけて入り込んで中の人間を襲う……ということもできるだろう。ちょっと試してみよう。
俺はコッソリと動き、ロッカーのような箱をみつけた。というかロッカーだろうこれ。中には別の防護服が入っている。丁度いいので穴をあけられるかを試す……むむむ、齧ろうとしても穴が開かない! 齧るというか酸だからか……
どうやらこの防護服、薬品系に強そうだ。面倒なやつめ。
『せいれいさま。ナイフあるよ』
『お。ホントだ。借りるか』
幸いここは研究室。色々な道具が置いてある。……最初の部屋の道具は全部溶かして食べちゃったから、インベントリ内にあるガラスの破片くらいしかのこってない。
ガラスの破片でも切れたかもだけど、とりあえずナイフをこれまたコッソリ拝借。無事防護服を破けることを確認できた。
じゃ、やろうか。あの1人で獣人の死体を運んで廊下に出た、助手の一人に向かって……
足元からそろりそろりと近づきつつ、ナイフを持った触手を伸ばして……
……あ、これ足首んとこから入れるじゃん。ナイフいらんかったわ。インベントリにしまっとこ。
「ん? 何か足に引っかったか――ぺッ」
はい素早くトゲ触手でガスッと頭を刺す。倒れそうになるところをスライムで支える。や、やることが多いな! だが、これで、よし! あとはずるんと本体のコアも防護服に収納すれば……
この身体を乗っ取ったぞーー!! と両腕を上げてみる。重い。
『ごはん?』
『ご飯だけどまだ食べちゃダメだからな』
うん、人形を動かす感じで大変だが慣れればいけそうだ。
『ミーティ、こうやって動かすんだけど、できる?』
『やってみる。かして』
オートモードに操作を切り替える。……うん、たどたどしい。
あ、こけた。
っていうかこれ背中に光輪突き出ちゃってるじゃん、あぶね。気付かれる前に気付いて良かった。
『ん……ん! どうだ!』
『おぉー、動かせてる動かせてる』
『ふふん。あたし、天才』
順調に動かせるようになった。よし、これでオートモードに切り替えても大丈夫かな。というか得意げで可愛いぞミーティちゃん。
『それで、こっちのごはんはアネットに届ける?』
『うーん、どうすっか……活性剤、って変な薬注入してたしなぁ……食べちゃうか』
『たべるー!』
知らない犬獣人の子よ、成仏してくれ。オートモードのままいただきまーす。ミーティちゃんが足元から触手伸ばしてもぐもぐもぐ……あ、カウント進んで5になった。この防護服の中身もカウントされてるな。
どうやら心臓や脳あたりがカギ、か……? こりゃ死なない程度に齧ってカウント進めるのはできなさそうだ。
『にんげんっておいしいね』
『あんまりそっち方面美味しく感じちゃうと今後が不安なんだけど』
『せいれい様に嫌われたくないから、気を付ける!』
うん、活性剤がミーティちゃんに効いてるのかな? なんかミーティちゃんが元気になってきたぞ。
「おい、エサは運んだのか? ならさっさと戻ってこいよ」
『おっと?』
防護服を着た助手2に話しかけられた。幸い背中は見られていないようだ。危ない危ない。
「……? おい、大丈夫か? なんか体調が悪そうだぞ」
だがそういって助手2は近づいてきた。……やべ、怪しまれてるか? それともまだ心配だけ?
『任せてせいれい様。あたし、できるから!……んしょっと』
『おお?』
「おい、大丈夫か? ほら掴まれ、肩を貸そう――ん? ぼへっ」
ミーティちゃん、もたれ掛かった上でナイフで防護服の首元を裂き、その隙間から入り込んで頭を貫いてのキル。
『……からの、ぶんり!』
『あたし、にごー! もぐもぐ、こっち動かす! 任せて! もぐもぐ』
なん、だと!? 分離からの、ミーティちゃん2号!? お、すごい。ちゃんと助手2の身体を動かしてる。……確かに体調不良でフラフラしてるように見えるなコレ。でも動かし始めてすぐでコレだから、すぐに良くなりそう。
どうやらこっちが本体で、2号の方は独立した存在のようだ。
あ、カウントも進んでるね。あっちが食べても有効なんだ。
『これ、3号は出せるの?』
『ううん。これが精いっぱい』
少なくとも今は、ちゃんと動かせるのは2号までか。……どういう原理かはわからないけど2号までは知識を、というか意識を共有しているらしい。
そう声を出さずに話をしているうちに、もう2号側の動きが洗練されてきた。
『どう? 良くなった?』
『おお、良くなったな。これなら普通の人に見える……かな? うん』
『せいれい様に褒められた。うれしい! いちごーにコツを共有する……ん、よし』
『おー。こうやって動かす。だいたいわかった!』
ミーティちゃんは2号と腕を組んでぐるんぐるんと回って踊る。
なんか順調に進化してる! この成長速度……間違いなくヤバいモンスターだね?




