第48話
操作を俺に戻し、地下3階を探る。
ここにアネットちゃんの妹が居ればいいんだが。と、すっかり慣れた要領で探索をしていく。
……お。獣人の子供が何人も閉じ込められてる牢屋発見!
首輪もつけてて、奴隷っぽさ満点のボロボロの服。ビンゴだ。
あんまり衛生的じゃないその牢屋には、生ごみの入った箱が置いてあって臭いを放っていた。これ、もしかして餌箱か何かなんだろうか……腹壊すだろコレ。獣人は頑丈だから大丈夫とかなのかなぁ。
あー、でもお腹抱えて苦しんでる子もいる。だめそう。
それで、アネットちゃんに似た猫獣人の子は、えーっと。
うーん、居ないなぁ。あれは犬男、あっちは兎女子。鳥娘。
お、あれは!……うーん、残念、あれは猫だけど男の子だな。
「……猫の女の子はいないかぁ」
俺がそうぽつりと呟くと、ギロリとした視線がこちらを見てきた。おう、猫耳の少年だ。
「おい、おまえ」
しかも話しかけてきた。
「え、君、スライムに話しかけてる?」
「そうだ。おまえ、スライムなのに喋るとか……何者だ?……猫の女の子は心当たりがある。教えてやるから俺をここから出せ」
「出すのは別にいいよ。でも先に教えて」
「いやだ、先に出せ」
何だ生意気なやつだな。
「俺はアネットちゃんの妹を助けなきゃならないんだよ。お前みたいな騒がしいヤツを出すのは後回しだ」
「アネット! アネットを知っているのか!? 無事か!?」
がしゃん! と鉄格子につかみかかりこちらを見るネコ男。
おいおい急に大きな音を立てるなよ。他の子がビクッと驚いてるじゃないか。
「無事かどうかは、正直よく分からん。けどまだ生きてて、妹も逃がして欲しいって言われててな」
「そうか、妹……妹? アイツに妹なんていたのか?」
「え? 双子だって言ってたぞ? いっしょにここに買われたって」
「そんなわけ……あぁ、そういやたまに壁に向かってブツブツ独り言言ってたな……」
おぉぅ。そうきたか。
イマジナリーフレンドか? 妹なんて最初から居なかったんだ、っていう。
……あるいは記憶の混濁? あの赤い角による幻覚というか、存在しない記憶というか。
「オーケー、事情は少しわかったよ。それで、お前はアネットちゃんのなんなんだ? 名前は?」
「何といわれても、同じ猫人の仲間だけど? 名前はゾルドだ」
それだけかな? まぁ、それだけならそれでいいか。
年齢的に恋心の自覚があるかどうか怪しいトコだもんな、ゾルド君。
「とにかく、アネットちゃんに妹がいないって言うなら今のところ用はないな。んじゃ、俺はこれで」
「おい! 俺達を出していけよ! ちゃんと話しただろ!」
「……今、アネットちゃん頭に赤い角生やしててね。それどうにかしないと多分死ぬんだ」
「し、死ぬ? アネットが?」
動揺したところに「なのでそれを除去するための情報を探している」と告げると、ゾルド君はスッと静かになった。
「悪いな、俺の優先順位は先着で気に入った順だ。アネットちゃんを逃がす時には開けに来てやるから大人しく待ってろ」
「……わかった」
あと俺の事は内緒ね。脱出までは、バレると動きにくいからね。
……さて、妹ちゃんが本当にいないのか、もう少し探すかぁ。
『せいれいさま? いもうと、いないんじゃないの?』
『ゾルド君が適当なコト言ってる可能性もあるからね。アネットちゃんとゾルド君、どっちのいう事を信じられる?』
『アネット』
『そういうこと。ま、それでもゾルド君の言ってる事が本当でも話に矛盾はないわけだし、アネットちゃんがあの状態で正常な記憶が思い出せてるかっていうと怪しい。それら含めたら半々ってとこかな』
『おお……せいれいさま、かしこい。さすが』
イマジナリーフレンドだと、それはそれで筋が通る。奴隷として強いストレスにさらされたアネットちゃんが、架空の妹を作った。十分にあり得るのだ、これも。
だからまだ両方の可能性を念頭に置いて、調べておくべきだろう。
実際の現実がどっちの方がいいのかは、ちょっと判別つかないなぁ。コレ。
しかし結局、地下3階を探索しきったもののそれらしい子は居なかった。
こうなってくるとゾルド君の言っていた方が正しいのかもしれない。
さらに下の階、地下4階はどうだろうか……と、下り階段を進む。
魔獣の住処、ゴミ捨て場になっているのを確認し、引き返した。
魔獣の住処は鉄格子の向こう側、さらに奥まで続いているようだが、いまだザコザコなスライムの身ではそちらへ行くのは難しいだろう。
それに、ここから先は天然の洞窟のようで。灯りは付いているものの、壁の裏側といった安全地帯がない。
もしかしたらダンジョンなのかもしれないな。素材の調達が簡単なダンジョン、その上に研究所を建てた、というのは、非常に考えやすい流れだ。地下階の無駄に歩かされる階段間取りも、ダンジョン相手の安全対策なら納得がいく。施設を囲う高い壁もだ。
そしてこの地下4階には防護服のような全身を覆う服を着た作業員が一人いただけ。
これはおそらく使用人にカウントされる側の人間だろう。
これ以上は見る必要はないか……うん。せっかくなのでゴミを少し捕食して体積を増やしておいた。
さて、アネットちゃんに妹が見つからなかったこと、報告すべきか否か……
……別の施設にいる、とかなら救いはあるんだけど。あるかなぁ、救い。
なんかなさそうな気がしてきた。




