第42話
結局研究員の錯乱による見間違いだったのではということになり、責任を追及すべく研究員は独房に閉じ込められることになるらしい。「嫌だ、私は死にたくない! 逃げないから拘留するならこの施設の外にしてくれ!」と叫んでいたが、研究所内の独房に閉じ込められるご様子。
まぁスライム逃がしちゃった大戦犯だし、仕方ないね。
え? 強引に脱走した側が言うな? こっちはこっちでミーティちゃん生存に必死なんだよ。
とりあえず、さっき思いついた分裂したダミーを倒させてやり過ごす作戦をやっておこう。
食糧庫を襲撃して結構デカくなった、と判断されているはずだから……結構な体積を放出しなければなるまい。
一旦穴を通り、最初の部屋まで戻るか? 多分そこで出しておくのが一番自然な気がする。
……あ、でも途中で倉庫通らないとかぁ。うーん、キツイぞこれ。
「居ないぞ!? どこにもいない!」
「どこに逃げたんだ、スライム野郎!」
そして倉庫のところで兵士に逃げたのがバレている。
うーわ。これどうしようかね……あ、そうだ。
そういえば今のミッションは『研究員を襲撃しろ』だったね。ってことは、あの連れていかれたハゲをスライムが襲うってのが固定のイベントとみた。
なら、あのハゲを襲撃するスライムが必要だ。そう、それは別にミーティちゃん本体、つまり俺でなくていい。
むしろ、俺でない方が良い。そいつが『逃げたスライム』で、『研究員に復讐した』というストーリー。そう仕立て上げてしまおう。
ミッションをこなせて、かつ警戒を解くことができる。うん、いいアイディアだ。
分裂したスライムが倒しても経験値ってミーティちゃんに入るのかな?
まぁいいや。独房へレッツゴー。
床下をうにょうにょゴロゴロ移動し、ホコリを取り込んで喉がイガイガするような感覚を味わいつつあのハゲが閉じ込められている独房へとやってきた。
閉じ込められている、といってもそれは人間基準だ。監視のための小窓、換気や水回りのための配管等、スライムにとっては滑り込める隙間はいくらでもある。
さて。独房内でハゲは何をしているかというと……落ち着かない様子でウロウロしてるな。
たまに頭を抱えたり何かに怯えたりしている。「自分は確かにスライムを処分したはず。部屋の中身が消えていたのは間違いなく侵入者の仕業……研究資料も全て消えていた、何者がどうやって……」とブツブツ言ってるな。
見えない暗殺者に怯えているようだ。むしろスライムに対する警戒はそれほどないのかもしれない。
さて。どうやって殺すか。
実のところ、レベルは上がったがスライムのミーティちゃんに攻撃手段はほぼ無い。火の玉を吐いたりもできなければ、風の刃を飛ばすこともできない。
できるのはぺたぺたくっついたり移動したりじわじわ齧ったり。あと小型化スキルだ。
SPでスキルを増やしてもいいのだが、ホームを取りたいし節約したい。
『よし。決めた』
そう、逆転の発想だ。小型化スキル。これを解除すれば? そう、デカくなるね。
この独房とミーティちゃん、どっちが大きいかな? 物量で押しつぶしてやんよ!
というわけでするすると触手を伸ばして独房の天井へ移動。ウロウロしてるので逆に死角ができて、簡単に忍び込めたぜ。……んじゃ、天井から『小型化』を解除しーの、がばー! っとぉ!
「む? ひ、あっ……!! ーー!! ーーーーッ!!!」
頭が完全にスライムボディに埋まっている。頭、どころか全身だ。これぞ圧倒的質量!
独房が死のスライムプールと化しちゃったねぇ!!
おうおうジタバタと藻掻いとる。でもそれ、スライムボディの中をかき混ぜてるだけでなーんの意味もない。
お、魔法か? 魔法を使おうとして……が、ダメ! 俺が少し身体を揺らせば手足が強制的に動かされ、集中力が続かない!
さ、あんまりやりたくはなかったけど鼻の穴や口の中にもスライムを流し込んでいこうね。酸素君にバイバイしようね。さよなら、また会う日まで。
そして次第にジタバタも少なくなって、動かなくなった。
人はスライムに溺れると死ぬ。ひとつ勉強になったね。
お、ミッションクリアと同時にレベルアップした。
……さて、『分裂』っと。オッサンの鼻の穴に突っ込んだとことか取り込みたくないから、そっちは囮として共に処分してくれてかまわないよ。じゃあね。
俺は結構な量のスライムボディを切り離し、再び床下へと隠れた。
さて。その後無事スライムに溺死したオッサンが発見され、消化中だったところを退治され、警報は収まった。
原因究明のための調査もはじまり、少し調べたのち、どうやら分裂体のコアが小さかったことから『配管を通って抜けだしたのだろう』と推測されている。大正解だ。
こうして、スライム脱走事故は片がついた――
――かに思えた。って続くんだよね。俺がまだ潜んでるからさ。
とはいえキリもいいし、一旦ここらで切り上げようかな。今日はもう良い時間だろうし。
オートモードを『バレないように待機。危険を感じたらコッソリ逃亡』と指定しておく。
スライムスクワットをさせておこうかと思ったけど、下手に運動して物音を立てたら見つかっちゃうかもだし。
というわけでミーティちゃん、またねー。
ゲームからログアウト。『カイト・ア・ルイセ』の終了画面の『データの調整を行っています、電源を切らないでください』の文字を眺めつつ、俺は椅子に深く背を持たれた。
「……ふぅ。あー、人間の肉体ー」
そう、人間の身体だ。何か久々に人間に戻った気がする。
座ったまま棚の上に手を伸ばしても、もちろん届かない。手が伸びたりはしない。ちょっと不便かも、と感じてしまう不思議。
「……うん、このゲームマジでオカシイ」
体の構造が違いすぎるのに、思い通りに身体を動かせた。それこそ、マウスでドラッグ下方向に身体を引っ張る、といった操作感と大差ないくらいの容易さで。
これ、医療分野に応用したらとんでもないことになるんじゃないか? リハビリとかさ。既にされてるのかもしれないけど。
「それにしても、2人目をクリアするまでトリアちゃんが使用不可、かつフレンドチャットも無効ってのは不便だなぁ」
そう。ミーティちゃんのシナリオに片がつくまでトリアちゃんには会えない模様。事前にペンペンから情報貰ってなかったら文句交じりの不具合報告メールでも送ってたかもしれない。
色々と砂みたいなマズいものを食べまくったので、ペンペン特製ステーキで口直ししたかったのに……
うーん、仕方ない。パック飯食うかぁ。……はー。ぬたぬたしてるぅ。もちょもちょ。




