第43話
翌日の仕事中、俺は同僚にチャットを送る。
「同僚ー。2人目楽しいけど辛いー」
『ぉー。こっちは楽しくもなくただただ辛いぉ?』
「まじかよ」
ゲーム内では連絡禁止でも、リアルで連絡がとれるのはかなりのアドバンテージだろう。
『はやくアルトちゃんに会いたいぉー……』
「俺もトリアちゃんに会いたい……そしてペンペンのご飯食べたい」
『それ! それだぉ! まじそれだぉぉぉ!!』
バンバンバン、と机をたたくスタンプが送られてきた。
『こっち、なんか洞窟で「穢れ」ってのを食べてるんだぉ。なんていうか、泥。これがゲロマズでぉ……』
「はぁ、穢れ? オートモードで食べてもらったらいいんじゃないか?」
『そうすると不味さだけが伝わってくる不具合……マジキツイぉ』
「おうふ」
なにそれVRモードの感覚システムの悪用か。
『他に食べ物は無くて、食べなきゃ死ぬぉ。んで、運動して鍛えてHPの減りと消化がギリギリのラインで、昨日は結局体力アップが軌道にのるとこまでで終わったぉ。ずっと洞窟の中で視覚的にも変化なくてやべーぉ』
「ゲームとしてあるまじき苦行だな」
『時間の感覚もなくなって、気が付けば一週間が過ぎていたぉ……』
「……うん?」
『死ぬか一週間経過するまでログアウト不可だったんだぉ……』
「やぁ同僚、昨日ぶり」
『だぉねぇ。日付見た時5度見したぉ……ぉぁぅ、戻りたくねぇぉ……』
やっぱり時間歪んでるよこのゲーム。
『んで、同僚氏の方はどうだぉ? 楽しい、って言ってたぉねぇ?』
「モンスターアクションだな。スライムが捕食してデカくなって、さらに襲って捕食して、みたいな」
『なにそれ裏山だぉ! 楽しそうこのうえねーぉ! 代わるぉちくせう!』
まぁ実際食ったもんが砂っぽかったり石っぽかったりホコリっぽかったりする以外は楽しい。なんかその、ごめんな?
『こっちが苦行でトレーニングしているあいだにスライム娘ちゃんとキャッキャウフフかぉ』
「あ。そういえば2人目、全然喋ってくれてないなそういえば」
『ぉ? うちの2人目、ニカちゃんは結構しゃべってくれるぉ。割と泣き言だけど』
「いいなー。うちのミーティちゃんはストーリー時点で自我消滅寸前っぽかったしなぁ……そこも含めて育成しなきゃだ」
いっそ元気な子に育てたいかも。明るく元気なスライムちゃん!
「ま、いずれは人型にするとして。スライムアクション楽しいぞー。国際的に違法な研究をやってる国営施設。そこを徘徊する脱走した化け物。それが俺ことミーティちゃんだ」
『ぉっぉ! 囚われの被験者も食べるかどうかでルートかわるやつだぉね!』
「ハッ、そうか。ミーティちゃん以外にも被験者とか居ておかしくないんだよな」
なにせあの部屋の家主は研究所のいち職員でしかなかったのだから。
ほかにも研究者や実験室があって、別の研究をしててもおかしくない。
そこに囚われのヒロインが居る。定番じゃあないか!
『ぉー。ヒロインちゃんをモグモグしちゃうルートかぉ?』
「さ、さすがにしないよ? セーブ&ロードできないし、ヒロイン生存ベストエンドを狙うぞ。あればだけど」
『がんばれぉー……うう、こっちは帰ったらまたあのゲロマズの泥を食べて筋トレする作業だぉ。アルトちゃんやペンペンに会うためにもクリアしなきゃだぉ……』
「なんかSPで耐性スキルとかとったら?」
『……苦味耐性ってのがあるけど、SPで取ったら負けな気がするぉ』
そういやコイツ、自分から苦行に突っ込んでいくタイプの変態ゲーマーだったな。
この『カイト・ア・ルイセ』もその勢いで見つけてきた謎ゲームだったわけだし。
『脳みそがザリザリ削れるような感覚だけど、耐えられないほどじゃねーからな』
「でもそれってお前の感想だよな? んでそっちの子ってお前と味覚共有なんだよね。そりゃ泣き言も言うわ」
『まぁそのうち慣れるぉ。食わなきゃ死ぬだけだし? つーかボクはだいぶ慣れたぉ』
「リアル苦痛耐性がヤバイ」
さすが営業、覚悟が違いすぎるぜ……
『そういや同僚氏。Wikiはチェックしたかぉ?』
「あ、そういやここ数日見てなかったな。なんか面白い情報あった?」
『世界地図を作ろうとしたんだけど、なんか情報に食い違いが発生してうまく合わないらしいぉ。とあるプレイヤーがいる町が他のプレイヤーから見たら存在しない、みたいなレベルで』
「時代でも違うのかね」
『あり得るぉねー。ボクらはちゃんと合流できてよかったぉね』
ってかソシャゲなのに他のプレイヤーと全然遭遇しない、っていうね。
過疎過ぎるよこのゲーム。採算取れてんの? と思ってたけど、そもそもサーバーがバラバラになってるのかもしれない。……まさか少人数プレイヤー毎にサーバーが1つずつ用意されてる、とかないよな? もしそうならそれこそ採算取れない話だぞ。
……
でもそもそもあのVR機能を考えたら採算とかそういうの超越してておかしくなかったわ。
「あ。そういえば地図。研究所にあった資料に地図載ってたぞ」
『マジかぉ!? そうか、現地の地図。そういう情報源もアリだったぉ!』
「で、それによると、俺の2人目は今マジャーク共和国ってとこにいる」
『へー。……なんやかんや国名が出たのって初かぉ?』
「かもしれん。合流したら地図の情報共有するよ」
町の名前はあったけど。そもそもツードンやワントスがなんて国にある町なのかも知らないな。
2人目シナリオに片がついたらそこらへんを調べてみるのも良いかもしれない。
「他にはなんかあった?」
『ぉー。あと、プレイヤーじゃない精霊憑きもいるらしいぉね』
「え、そうなの?」
『そいつがカタリじゃなければ、だけど。レースゲーやってる奴のコメントだぉ』
「レースゲーかぁ。2人目選択肢のにそれっぽいのがあったな」
『レースにエントリーできる馬獣人はみーんな頭上に輪っか浮かんでるんだってぉ。総勢は数えきれない程、少なくとも30人以上だってぉ』
なんと。
え、総勢数えきれない程に精霊憑きが集まってるって……30人以上って……
「そのサーバーに精霊憑きが無茶苦茶集まってて、俺らんとこが過疎サーバーって可能性……?」
『あり得るぉ。特にボクら初日スタート勢だし、特別扱い的な』
「優遇なら嬉しいとこだけど、ゲームとしてどうなんだそれは。ソシャゲじゃなかったのかコレ」
『ソーシャルとは一体……だぉね』
まぁあのVRモードが遊べるなら、もうそれだけでなんでもいいのかもしれないけど。
あー、お肉食べたい。砂埃は嫌だぁ。帰ったらさっさと2人目シナリオ進めて早く合流しなきゃ……
『今日帰る時は日報と併せてちゃんと業務内容のメモ残しとかないとだぉね』
「長期休暇のときの対応で草」
『明日のボクは、たぶん一週間後のボクだぉ……!』
何かのタイトルかな? 詞的だね。




