第40話
家主にバレないように部屋のすべてを飲み込むミッションだが、まずは家主が邪魔である。
……というかこの素材棚の中身食べたらバレるよな? 大人しく待つか……それとも視界の外でつまみ食いしていくか……
うん、ゲーム的には視界の外でつまみ食いしていくのが正解だよねぇ。
というわけで、こっそりと触手を伸ばしていく。幸い、スライム触手は透明で気付かれにくい。
まずは、ふんぞり返った家主の、背中にある本棚に移動する。触手を乗せて、コアを天井に沿ってゆっくり移動。無事に本棚へと乗れた。
『ククク。では後ろの資料からコッソリ食べていってやる……が、表紙はそのまま残しておこうかね!』
本というものには表紙が存在する。家主が見てもバレないようにするには、まず中身だけを食べていくのが良いだろう。……本棚の天板から、コリコリと穴をあけるように齧っていき、その穴に触手を通す。そーっと、積み木の塔から一本分を引き抜くような慎重さで本を探り、はむり。もぐもぐ。
お、これ羊皮紙じゃん。タンパク質ぅーなお味。ついでに食べた本のデータがメニュー経由で記録されていく模様。
こりゃあいいや。気にせずガンガン食べていける。
俺はさらに触手を伸ばし、本をカジカジしていく。あんまり美味しくはないが、『捕食』スキルの効果で経験値がポチポチ加算されていくのが良い感じだ。……お、レベル2になった。
一番上の段が食べ終えたので、次の段も食べていく。家主は……気付かないね! ヨシ! もぐもぐ、もぐもぐ。
よーし、ここの本棚制覇! この本棚は表紙だけ残っているハリボテと化した。
と、ここで家主がガタンと急に立ち上がった。
びっくりしつつ、そっと触手を引っ込めると、家主は部屋の中を歩き回り始めた。おっと、これは次のステージってことか? フフフ、よかろう。ならばこちらも相応の食べっぷりを見せねばなるまい。
家主がこちらに背を向けている瞬間を狙い、本棚の上からごろんと落ちる。触手を使って衝撃を殺して静かに軟着陸し、机の下に潜り込んだ。そこを新たな拠点とし、そっと触手を伸ばして様子を窺う。
……ふむ、どうやら実験機材のメンテナンスを始めたようだ。フラスコ以外はほとんど無事だからな。
では俺は今のうちにこの机の中身を食べてしまおう。横から穴をあけて、引き出しの中身をもぐもぐだぜ!
いっただっきまーす! コリコリコリコリ……
……本棚の方が食いでがあったな。ただ、書類データ的には結構な収獲ではあった。本棚の方がほとんど辞書や辞典、図鑑だったのに対し、こっちは研究費等の運営に関する書類だ。
えーっと。何々? 素材の代金? ほうほう、レプラコーンの角にサハギンのヒレ。スライムの体液に、ゴブリンの……うん、まぁスライムはなんでも食べられるからね。見つけたらあまり気にしないで食べちゃおう。
で、あのハゲ家主がマジャーク共和国という国の上級研究員である、という事が分かった。
研究目的は不老不死やら究極の生命体兵器やらを作る事。予算はそれなりで、追加して欲しければ結果を出せと催促されている状況。
そりゃお高いフラスコ壊されたら愚痴も言いたくなるよね。分かる分かる。いつの時代もどの世界も、予算には限りがあるもんなんだよな。……まぁ全部食わせてもらいますけどーー!!
さて。書類はこのくらいにして、そろそろ素材の方を食べたい所存。だが素材は家主の側にいかなければならない……そろそろまたステージが変わるのでは? と思ったら、家主がこっちに戻って来ようとしている。やっべ。どこ隠れよう。……床だ!
俺は急いで床板を削る。1枚分開ければ、コアもギリギリ滑り込める……急げ急げ急げ……よし!
床板を剥がしてあけた穴に素早く潜り込み、床板をパタンと戻しておく。ふぅ、これで一安心。
あ、床下ホコリ溜まってんじゃん。はぁー、ま、一応食べるだけ食べときますかね。捕食捕食。あ、ネズミさんちーっす。ばくっ。ごりゅ。おぇっぷ。
……はぁ、ペンペンの焼いてくれたボアステーキが恋しい……
さて、床下に潜り込んだわけだが、ここはかなりのボーナスステージだ。
なぜなら床板の下からコリコリと穴を開ければ、どこにでも触手を伸ばして捕食できる。ついでにネズミもいる。
光輪が床上に出ないように姿勢を気を付けないといけないが、仰向けになっておけば大丈夫そうだ。……スライムの仰向けってなんだ???
まぁいい。とりあえず家主に見つからない程度に、床に散らばっている書類を間引いて食べちゃおう。
もぐもぐむしゃむしゃ。っていうかネズミが居るようなトコで羊皮紙の書類とか、普通に齧られて損壊するんじゃねーの? 管理が甘すぎるんじゃねーの? と思いつつ、更なる情報を得た。
魔人兵計画? ふーむ。色々と混ぜる、その基礎研究っぽい。
ストーリーで『自分が何だったのか知りたかった』みたいな話が書いてあったけど、資料だけ見ても色々混ざり過ぎててどれがキャラクターとしてのベースなのか分からん。スライム、ゴブリン、魔族、獣人、胎児、人骨、獣骨、角、魔物の内臓、魔石、土、木、草。鉱物も混じってる。うーん、凄くね? あらゆるもの食べてるよ。これぞスライムって感じだね。
元がゴブリン説も出てきたな。もぐもぐ。
ただしガラスだけは食べられないようだ。酸で溶かして食べてるってコトなのかな? ガラスは最強の酸である王水でも溶かせないからねぇ。
……ん? おや。ハゲが席を立った。そして、部屋から出ていった。
……
これはボーナスタイムでは?
俺は即座に床下から出て、部屋の中に舞い戻った。
『ひゃっはー!! 食べ放題だぁーーー!!』
まずは素材棚に手を伸ばす。
どーれーにーしーよーぉーかーなー……全部ゥ! 捕食捕食ゥ!
もーぐもぐもぐ。うん、苦い。固い。マズイ。味がない。ぱさぱさ。
どれもこれも食べモノじゃないなぁ。と思いつつ、捕食していく。スライムでなければ食べられないよね。
ちょっとレアな素材もあったのだろう。棚の中身をすっからかんにした頃には、Lv6になっていた。
『いやー。ハゲが居なくなるまで粘ったかいがあったわ』
味はともかく、経験値的にはウマウマである。
……フラスコの欠片は食べられないか。でもインベントリには収納できるね。貰っとこう。
他に食べられそうな物はないかなー。あ、机いける? いや、まだ無理そう。でも引き出しなら~? いけた! もぐもぐ!! 次、椅子! もぐもぐもぐ!!
床を転がりながら、触れた本や書類を取り込んで消化していく。もぐもぐもぐ、まずーい! でも消化する!
おお、身体が大きくなった。そろそろ机いける? んん、まだ! 先に本棚のハリボテ表紙たちを全部捕食捕食ぅ! おおっと、そういえばベルも止めとかないとな。もぐもぐ。
『おら! 薬品棚ァ! おめーも栄養になるんだよォ!!』
ごりっと隙間に触手をねじ込み、内側から鍵を破壊して開けて……薬品棚オープン!!
フゥー、色々とお薬あるじゃん。まるでドリンクバーだぜぇ!
触手でフタを開け、ちょんと紫色の液体に触手を付ける。
ビリリとした苦み。毒だね、吸収できるやつ。ざばぁと浴びるように体にぶっかけて吸収しておく。ガラス瓶は食べられないのでインベントリにぽいっと。こっちの緑のは……お、回復ポーションっぽい。いただきまーす。ごくごく。
片っ端から開けていく。ごくごく、ごくごくごく。ついでにゴロゴロ転がりながら床にある資料、カーペット、そしてついに机や本棚までもを取り込んでいく。ごき、めき、ゴシャッ! もぐもぐ!
陽気に歌いたくなってくるねぇ、らーらららー!
『レベルアップレベルアーーップ! いいぞ、元の大きさまで成長した!』
そして気が付けばLvは8に、部屋の中身はすっからかんになっていた。
ミッション達成、いぇーい!




