閑話裏:超上客
このツードンには夜のお店がいくつもある。
しかし、精霊憑きの相手ができるような店はほぼない。あるとすれば最上級店。あるいは、精霊憑きの怖さを何も知らない新参者。そして、キャストが死んでも別に構わないというブラックな店だろう。
(例外で『精霊憑きが運営に関わっている店』というのもあるが、この色町にはなかった)
さて。ではこの店はどれか、といえば、新参者だ。
頭の上に光る輪っかを浮かべた冒険者が荒稼ぎしている、という情報くらいしか持ち合わせていない。
他店でとある商人が「あいつらには関わらない方が良い。が、怒らせるのは厳禁だ」とヤケ酒しつつ忠告していたのも知らない。
そんな店にやってきた、頭の上に光る輪っかが浮かんでいる3人。3人とも女で、うち一人は明らかに子供。
それを除けば、ぜひともスカウトしたいほどの上玉3人だった。……あ、子供はさすがに問題があるか。
というかこの店に男のホストはいないのだが、女3人で何をしにきたのか。
……え、女の子と遊びたい? お触りOKな子で? ああ、じゃあ確かにこの店であってますね。
店内に上げてしまった。
女性の相手をするのを嫌うキャストは当然多い。
分からない男性がいたら、男で言えば「お前あの男(しかも初対面)の相手して来い。身体触られても文句言うなよ」という話だと考えれば分かるだろう。
しかし、来店した3人の見た目が良かったのもありあっさりと3人のキャストを用意することができた。
「風呂に入ってない野郎の相手するより100倍マシ」
「あの子可愛い、妹にしたい」
「なにあのおっぱい。興味しかない」
そんな3人がそれぞれ接客を行うことになった。
そして……
「ふぉー、お姉さんにお尻叩かれるのも悪くないぉー。新たな扉の目覚め?」
「えー、変態的ですねぇ。こうですか? こう?」
「んぉっ! ぁ、ボク結構頑丈だから、もっと強く叩いていいぉー」
「も、もう結構全力なんですけど……えーい!」
「あむ。もぐもぐ、ごくん。はぁー、食べさせてもらって食べるの、楽しいかも」
「それじゃ次はこっち食べる? あーん」
「あーん。……膝の上に乗っけてもらうのはOKっぽいなぁー。はぁー」
「うふふ、可愛い……」
「冷え性にはここのツボが効くんすよ。……ふむふむ、医療行為は大丈夫そうっすねぇ」
「ペンペンお姉様……! しゅき……!」
「あと白湯を定期的に飲むといいっす。中から温めるのが一番効くっすからね。コーヒーとかとちがってノンカフェで身体への負担もないし。飲み物をお湯割りにするのも良いっすね、アルコール若干飛んで内臓の負担も減るっす」
「神……ペンペンお姉様マジ神……」
うん、なんだかんだでお楽しみいただけているようだ。
追加の飲み物やおつまみも頼んでいるし、順調にお金を落としてもらえる上客である。
このまま何事もなければよかったのだが――そうはいかなかった。
「んだぁ? なんで女の子が女の子と飲んでるわけ? こっちこいよー」
「ぁ?」
お酒の入った他の客が、そのテーブルに絡んできた。
まぁ、確かに特に、尻を叩く音なんかは店内によく響いて目をひいていた。叩かれる側も楽しそうに可愛い声を上げていたら尚更だ。
「嬢ちゃん、俺がその尻叩いて可愛がってやるよ」
「は? 死ぬかぉテメー?」
「まーまーまてまてアルト。銃出すな。楽しく飲んでんだぞ俺は。ジュースだけど」
尻を叩かれていた少女が絡んできた男に黒い鈍器を向けたのを、一番幼い少女が制止した。
キャストの膝から降り、間に立つ。
「いいかオッサン。オッサンが自分の身になって考えてみろ。可愛い女の子に尻叩かれるのと、酔っ払いの男に尻叩かれるの、それは同じだと思うか?」
「ぁ?……なんで俺が酔っ払いに尻叩かれなきゃならねぇんだよ」
「つまりそういう事だ」
「そうかー……じゃあ尻叩かせろ!」
「だめだコイツ話が通じねぇ」
そういや酔っ払いだったわ。と肩をすくめる少女。
「ぉっぉ、やっぱぶっ殺すぉ」
「店に迷惑かかんだろ、やめろって」
「んー? トリア氏、アルト氏、ここは私に任せるっす!」
「ぉん?」
と、このタイミングで一番の大人がニコリと笑って割り込んだ。
「飲み勝負っすよ! おっちゃん、もし私に勝てたら店の外でお相手してあげるっす。ただし、負けたら私達の支払いはおっちゃん持ちっす! 受けるっすか? それとも逃げるっすか?」
「ヘッ……ごくり。いいぜ、やってやろうじゃねぇの!」
「交渉成立っすね。ボーイさん、そういう感じでヨロっす! 一番強い酒ボトルで持ってきてー」
「は、はい!」
突然の飲み勝負が始まった。ルールは簡単、お互いに同じ酒を飲み、先に潰れた方が負け。ショットグラスに酒を注ぐ。
「はいまずは一杯目、カンパーイ!」
「おうよ、カンパー」
「2杯目カンパーイ!」
「えちょ、早」
「3杯目カンパーイ! まだまだいくっすよ? あれ? あれれ? まだ2杯目っすか?」
少女はまるでザルに水を灌ぐが如く酒を飲み干していく。ドワーフの火酒。そんなガパガパ飲むような酒ではないはずなのだが。
「はい10杯目カンパーイ! あっれー? どうしたんすか? まだ4杯目じゃないっすかー」
「うぉえっぷ……な、ちょ、ちょっとま……って」
「人の金で飲む酒ウメー! 11杯目カンパーイ!」
ザザー、と見せつけるように、ショットグラスから火酒を口の中へ注ぐように流し込んでみせる。
圧倒的であった。
「ん? 顔色悪いっすよー?」
「……」
「ん? ん? 吐いちゃう? 吐いちゃうっすか?」
「おぼぇ」
そして、少女は圧勝した。ギャラリーからは拍手喝采。どーもどーも、と答えつつ、手に持っていた12杯目も飲み干して、悠々と席に戻った。
「ペンペンお姉様、素敵です! カッコいいです! 抱いて!」
「あっはっは、抱けないんすよねぇ。ハグで勘弁っす、むぎゅー」
「きゃー!」
平然と席に戻ってキャストとハグ。それと、途中でそっとボーイに掃除代だと銀貨を渡していた。
「つーわけでここはあのおっちゃんの奢りっす! やったね! 食べ放題飲み放題っすよ!」
「さすがペンペン氏だぉ! フルーツ爆盛追加だぉー!! 一番高い酒もってこぉーい!」
「おいおい、ペンペンってばどんだけ酒強いんだよ。ビックリだわ」
「おやおや。トリア氏は食べきれないご飯はどこに行くかご存じっすよね?」
「ああ、なるほど」
……何か仕掛けはあったらしいが。そんな騒動も平和に解決した。
「ボクもその火酒飲んでみたいぉ! ストレートで一杯おくれぉ!」
「いいっすけど、強いんで気を付けてくださいね?」
「ん。んく、くぴ……ぉ、ぁ、あぉぉ……こ、これは、キクぉぉぉ……うぷっ!?」
「あ」
「わぁご褒美!?……じゃなかった。大丈夫ですかお客様!?」
「す、すまねぇぉ……今ので限界こえたっぽいぉ……ぉ。ぅぷ、一気に来たぉ」
「水と薬っす。手巾もどーぞ。お姉さんも」
「用意いいぉね……ありがとだぉー……」
やはり保護者なのだろう。そう思わせる貫禄だった。
さて、無事……? 無事に3人の少女は満足し、会計を行った。
支払いは絡んできた男持ちになったが、一応、と払って行ってくれたのだ。
なにせ歴代1日売り上げの記録を大幅更新したのである、あの男が払いきれない可能性も高い。少なくとも支払いは分割になり、運営資金に影響が出ただろう。
流石にオーナーが挨拶に出てきた。
「あのおっちゃんが無事払えたら次はこのお金で飲むってことで頼むっす! 先払いっすねー」
「その、なんというか……とても助かります」
「次もまたよろっす!」
「はい! またのお越しをお待ちしております!」
なんという上客だ、いつか自分もこういう風に飲める傑物になりたい。オーナーが頭を下げて礼を示す姿を見て、ボーイはそう思った。
「おろろろろ……」
「だ、大丈夫? アルトちゃん……お薬、飲む?」
「うう、い、いらない。精霊様の苦しみは、わた、私に与えられた、ご、ご褒美……だもの、おろろろ」
「そっかぁ……なら心配はヤボ、だったね。堪能して。お、お尻も叩こう、か?」
「……それは今度ね」
「いいな。トリアもお酒飲みたかった」
「……だ、だめだよぅ。精霊様がダメって言ってたでしょトリアちゃん」
「それはそう。だから飲まない。ジュース美味しかった」




