第36話
3人の精霊が揃って場を離れた。
何やら難しい話を色々していたが、また明日、とのことらしい。
揃って離れたので、急にスン……と静かになった。
「……えひっ」
ペンペンが卑屈な笑みを漏らした。この中で身体は一番大きいが、性格は一番の小心者だ。空気に耐えられなかった。
しかし沈黙を破るには丁度いい切っ掛けだった。
「……ペンペン。精霊様達が期待してるわ、応えてね」
「ひぅ……がんばりまひゅ……」
「トリアもなんでも手伝う。精霊様のために。ペンペン。ミズギ、とはどういうもの?」
「え、え、えっと、水に入る時に使える服だって。私も良く知らない、けど、精霊様の作った試作品があるので、ホーム、来る? さ、採寸も、したいし?」
「うん、いく」
「いきましょうか。精霊様の求める水着、完璧なものを用意するため、準備も大事だわ」
誘われて、ペンペンのホームへと向かった。試作の水着モドキを着たり、採寸したりするために。
* * *
「……ペンペン、これは下着よね?」
「え、いや、その。……ですね。ミズギ、を作ろうとしたけど、下着になっちゃう、って言ってた、ので……ふへへ……」
そう。下着だった。……下着だったのだ。ペンペンのホーム、その試作品を集めた一室は、今、ランジェリーショップと化していた。
「ねぇ。アルトはミズギを知ってるの?」
「一応、前は商人の娘だったから。でも、これは私の知ってる水着とは全然違うわ?」
「せ、精霊、界のミズギ、らしいです……えへへ。私達に、こんな、こんな格好させたいんですね精霊様……ふひっ、嬉しい、嬉しい、嬉しい……!」
一般人が見たら頭の中身を心配するような急な恍惚顔を披露するペンペンだが、精霊憑き同士の間では特に驚く事ではない。
「そうよね、精霊様の好みを知れるなんて、最高よね」
「……これってこう着る?」
と、ペンペンサイズのブラを肩に装備しようとするトリア。勿論違う。
「あ、ご、ごめんトリアちゃん。まだ私のサイズしかなくて。あとそれは、おっぱい隠し、だよ」
「……!?」
トリアからブラを受け取ったペンペンが服の上から自分の胸に当てる。ぴったりだった。
「……なるほど。トリアにはないおっぱい」
「トリアにはこのリボンの方が似合うんじゃない?」
そう言って、赤いリボンを手に取るアルト。リボンなのだが、輪になっているようだ。2つの輪が繋がっている。途中に少し太くなっているところもある……? とリボンにしてはオカシイ構造にアルトは首を傾げた。
「あ、それ、スリングショット、ってミズギ」
「これも水着だったの!?……これ1つじゃないわよね? 他にはどれを着るの?」
「え、それだけ」
「……こ、これだけ? ほぼ紐よ?」
「うん。そういうミズギ、だって」
こう着て、ここで隠すんだって。と手で吊るして説明するペンペンだが、それは一切隠れていないに等しく見える。
「……つまり、精霊様は私達を、裸にしたいのかしら?」
「うん。で、でも、お風呂に入る、のに着るには、その方が都合がいいでしょ?」
「ああ。そういえばそういう話だったわね。そういう事か」
どうやら人前でこれを着ろという話ではないようだ。
無論、精霊様が人前で着ろというなら否やは無いのだが、流石に少し覚悟が必要だ。……色々と覚悟はできてるけど、なにか別種の覚悟が。
トリアは服の上からスリングショットの水着をあてがった。
「……にあう?」
「トリア、ごめん。私それリボンだと思ってたけど違ったみたいだから」
「にあ、似合ってるよ。かわいい、えへへっ!」
「そう。トリアは可愛い。精霊様がそう作ったから。ふんす」
得意げに鼻息を吹いて胸を張るトリア。絶壁だが。
「と、と、とりあえず、採寸しちゃうね。そしたらトルソー用意できるから、サイズ調整も簡単……ふひっ」
「ん。任せた」
「丁度いいし下も測っておく? 今後も装備を作ってもらうわけだし、正確な値があった方が良いでしょ」
「あ、あ、あ、じゃあ、服を脱いでこういうポーズしてくれる? うんと、その、全部。下着も。ミズギ作るため、だから」
「わかったわ」
と、T字のように手を横に伸ばす、いわゆるTポーズをとるトリアとアルト。
少し恥ずかしいな、とアルトは思ったが、ペンペンは同性だし、精霊様も水着を作るのに協力を惜しまないと言っていた。採寸は必要だろう。
「全身詳細採寸!……んん、よし、もう服着ていいよ、トルソー作っちゃうね」
「採寸ってこんな早く終わるの? 凄いわね、昔服を作ってもらった時にはもっとかかってたわよ」
「ほ、ホームだし、特別? あと全部脱いでもらったから、かんぺき……ふひっ、乳輪のサイズや尻穴の皴の数まで、ばっちり記録」
「!? ちょ、何よそれ聞いてないわよ!?」
「ひゃう!? だ、え、あ、悪用は、しないから! ごめんなさいごめんなさいっ!」
怯えるペンペンの前にトリアが立ち、荒ぶるアルトの肩をポンと優しくたたいた。
「大丈夫。アルトもトリアのようにかわいい。尻穴の皴の数もきっと精霊様の好み。誇るべき」
「……むぅ。急に怒鳴って悪かったわねペンペン。確かに胸の隠すところ隠れなかったら大変だし必要よね……でもその情報、絶対外に出さないでよ!?」
「ひゃいぃ」
アルトは服を着ながら、まだ涙目で怯えるペンペンに謝った。
尚、精霊憑きの尊厳はそもそも精霊様に捧げているので、ここには無いのだ。
トルソーは1分で完成した。2体分。手足と頭の無い白い布のマネキンだ。
ペンペンの分も並べて3体。……大、小、無。いや何とは言わないが。
トリアはふと自分の手足が無いのを想像し、懐かしく感じた。まだ半月も経っていないし潰れた元手足がインベントリに入れっぱなしで、生々しく鮮明に思い出せる。精霊様に出会えた良い思い出を。
うん、人生最高の日と言っても過言ではない。
「ト、トリアちゃん? だいじょぶ? と、トルソーになにかあった?」
「はっ。精霊様の事考えてた」
「幸せそうな顔してたからそんな事だろうと思ったわ。なんでトルソーでそうなるかは分からないけど」
ともあれ、採寸も終わったしトルソーもできたので、あとはペンペンに任せればいい。最低限の用事は終わったことになる。
「……えと、あの、な、何か食べる?」
「いらない。精霊様のためにお腹はあけておきたい」
「私も」
「だよね……私達、お腹すかないもんね? でも、でも、お、お腹を広げるためにも、いっぱい食べられるようにも、いっぱい食べないとダメ、なんだよ?」
食べきれない肉を前に涙した精霊様達を思い出す。
なのでいっぱい食べられるようにするため、胃を空にしておくべきだと思っていたトリアとアルト。
だが、使わなければ衰えるのだ。胃袋のサイズも。
そして使えば育つのだ。胃袋のサイズも。
現に、ペンペンはトリアが食べきれなかった肉をペロリと平らげていた!
それは、精霊様にいつまたいっぱい食べろと言われても食べられるように鍛えた結果だったのである!
「……! 確かに!」
「さすがペンペン……精霊様に天才と称されるだけのことはあるわ……食べるわよ、トリア! ペンペン!」
「うん。トリアはいっぱい食べる。そしていっぱい狩ってお腹を空ければいい」
「レベル上げもできてイッセキニチョーね」
「イッセキニチョー? アルト、なにそれ?」
「1撃で2匹の飛行モンスターを仕留めた時に精霊様が仰っていた言葉よ。多分、お得ってこと!」
そういうことになって、いっぱい食べて、狩りもして、次の精霊様の降臨まで楽しく過ごす精霊憑き達であった。




