第35話
「おー、帰ってきたぉー」
「一瞬だったなぁ」
ワントスに戻ってきた。体感5秒だが、移動時間はかかっていたようですっかり夜になっていた。
ペンペンにフレンドチャットでワントスに帰ってきたことを告げると、冒険者ギルドで合流しようということになった。やっぱりいつもの冒険者ギルドよね。
「お帰りっすー。いやー、今日は丸1日VR堪能しちゃったっすよー」
「ただいまだぉペンペン氏ー」
「ただいま……ん?」
今、ペンペンなんて言った?
「なんか今、丸1日って聞こえたんだけど。俺らせいぜい1時間くらいしか戦ってないよね?」
「だぉ? ゲーム時間では確かに1日だけどぉ」
「え? 私はお2人が昨日出発した後、フツーにVRで色々遊んでたっす。料理修行もして、気が付けば1日経ってたんでそろそろ落ちようかなって。あ、ケーキ作ったんすけど、食べるっすよね?」
……んんん?
「ちょ、ちょっと待つぉ。すぐVR解除して時間確認してくるぉ」
「だな。少し席外す。あ、ケーキは食べるから待ってて」
「あ、はいっす」
そしてVR表示を解除する。……そして時間は。
……うん、まだ休日の夜だ。お腹のカンジからしても、せいぜい2時間くらい。体感と大差ない。むしろハンバーグがちゃんとお腹に残ってる感じがするし、トイレに行きたい感じもしていない。
携帯端末を見ると、冒険者ギルドの酒場で俺達3人が集まっていた。
あ。置き配届いてる、なんだろ……あー。VRのやつ。キャンセルするの忘れてたわ……
時間が問題なかったので……ケーキを食べるべく、再びVR表示に入り直した。
「ただいま。いやー、焦った」
「ふー。よかった、昨日の出発から1時間しか経ってなかったぉ。ペンペン氏のケーキ楽しみだぉ! 何ケーキだぉ? 早く出してぉ! 早く早く!」
「おかえりっす。……じゃーん! イチゴのショートケーキ! 生クリームから作ったっんすよ! レシピ作成モード使わず手作りしてみたんすけど、メチャ大変だったっす!」
と、テーブルの上に6ピースにカットされた古き良き生クリーム&イチゴのショートケーキを取り出すペンペン。さらにカットされたピースを小皿に1つずつ分けて俺とアルトの前に置いてくれた。
「……えっと? ペンペンは俺達が出発してから1日遊んでたんだ?」
「っすよー? いやー、今日は楽しかったっすねぇ。ぶらぶら散歩して無駄に雑貨屋で色々買っちゃったっす! そしたら砂糖見つけて、牛乳もあって、卵とイチゴも。こりゃもうケーキ作るしかないなって」
ふーん。と、目の前のケーキをフォークで一口分切り分け、突き刺す。ふわっとした感触。そして、白いクリームと黄色いスポンジを口に運んだ。
「な、なにこれまろやか! これに比べたらリアルのケーキなんてハリネズミじゃん! ケーキって甘味が舌に刺さるもんだと思ってた、コレ滑らかに口の中にふわっと広がるんだけど!」
「うめ、うめぇぉ! こんなんいくらでも食べられるぉ!!」
「おいおいアルト。それはステーキの二の舞になるから程々にしとけよ」
「へへ、喜んでもらえて私も嬉しいっす! 作った甲斐があるっすねぇ」
……ふう。美味しかった。まだ食べたいが、こういうのは「もう少し食べたい」で止めておくのがいいとステーキの時に学んだからな。
さて、と。
「…………このゲーム、意識カットだけじゃなくて、意識加速もやってんのか?」
「脳への負荷ぁ………………ちょっと待つっす。…………ん、確認してきたっすけど、そんなログないっすよ? っていうか普通にVR抜けたらちゃんと夜だったっす」
んんん??? あれ、じゃあペンペンは元々昼だったってこと? 時差?
「ちょっと聞きたいし答えられたらでいいんだが。時差があるのか? ペンペンどこ住み? ていうか今日って何月何日?」
「あー、最近のネトゲは自動翻訳が優秀っすからねぇ。私は国は■■で、日付は■■■■っす」
「なんて?」
「国は■■■で、日付は■■っす。■■■■年の……ノイズ入るっすね」
「なんで日付にもフィルターが入るんだよ。わけ分からんね」
ザリザリとした音声にしか聞こえず、判別できなかった。
「……もはや違法技術とかそういうレベルの話ではねーぉ! 時空が捻じれてるぉ! 特殊相対性理論かぉ!?」
「だよな。まぁ今更だけど……」
「今更っすねぇ……」
「おまえら結構図太ぇ神経してるぉね?」
アルトがジト目で睨んできたが、特に反論する程の事でもない。
「とりあえずそういうもんだと受け入れる。原理の解析はお偉い学者先生がやる事で、俺の仕事じゃないということを思い出しただけだ」
「……うむむ。神様が作った謎のゲームってことにしとくかぉ。何でもアリだぉね……」
「神はいる、ネット上に。昔からよく言われてるだろ?」
「意味違ぇぉね。ま、そういうことでいいぉ」
「うん。私も色々見ないで楽しむことに決めたっす。考えるのをやめたっす」
携帯端末の機構を知らなくても、端末は使えるんすよ。そう言ってペンペンはやれやれと肩をすくめた。原理がどうあれ、このゲームで遊ぶってことは変わらんもんな。
「あれ。今の動き、もしかしてペンペン氏、3D表示にしてるぉ?」
「っすね。リアルに料理したくて変えたままっす。……これもう生身っすよ生身」
「だぉね。でも倫理フィルターで女の子に触れないんだぉ!」
「シャワーシーンもカットされるしな」
「あ、それについては裏技を見つけたっすよ。服を着たままならお風呂に入れるっす! ちょっと変なカンジだったっすけど!」
ペンペン、なんでそんなことしたん???
「え? 3Dのクリエイト系ゲームではスキン変えずに風呂に入った気になるのは常識っすよね?」
「それはそう」
ブロック組み合わせる系の、「池作って下にカマドとか置いてお風呂ー、いえーい、ざぶーん!」とかやる感覚かぁ。確かに。
「でもこれ重大な発見っすよ? つまり、水着装備ができればよりリアルなお風呂体験ができるってコトっすから!!」
「!! すげぇ。その発想はなかった」
「やはりペンペン氏、天才だぉ……!」
「ただ、現状だとなんか下着・肌着扱いになるんすよね……要研究っす」
「研究に出資しよう。世界を変える大発見を期待している」
「一筋縄ではいかないかぉー」
次の目標が決まったな……っと、目標で思い出した。
「そういやボス倒したら2人目解禁されたんだよ。そっちも進めたいんだった」
「ボクもだぉ」
「え? そーなんすか、おめでとうっす! 私も付いて行けば良かったっすかねー?」
「いや、ペンペンは来なくて正解だったぞ。即死してたと思うし」
「そんなヤバかったんすか?」
「ヤバかったぉー」
でも現場には来なかったものの、功績的にはペンペンが一番ってレベルだよなぁ。薬とか、爆弾とか、装備とか。
「デバフ回復ポーション助かったぉ。なかったら負けてたぉ」
「お役に立てて良かったっす! あ、大亀の素材は?」
「死体は光の粒になって消えて、ドロップ品が……これが残ってただけだね」
ペンペンに濃い青色のクリスタルを渡す。これ、このまま預かっといてもらおうかなぁ。ペンペンはホームもあるし。
「ううーん、『水のエレメント』……効果は分からないっす。属性武器でもつくれるんすかね? あ、大事なもの扱いっぽいから素材にはできないか」
「名前からすると他の属性のも集めろって感じだな?」
「っすかねー? たぶんトリア氏が持ってると良いっす」
預けてしまおうかと思ったのだが、返された。
「そういえば俺、最初のスタート地点でこんな石も拾ってたんだ。ついでに見てくれ、何か関係あるかも?」
「あ、これはただのペリドットの鉱石っすね。特に効果もないっす。宝石としてもそんな高くない方っすね」
「換金アイテムか。じゃあコレクションだな……ペンペンにあげるよ。今回の報酬には少ないから、追加で狩った亀素材もあげるわ」
「お、やったっす! 宝飾品はまだチャレンジしてなかったんで、レベル上げが捗るっすねぇ! そうだ、装飾を付ければ水着になるかも……!?」
「ぉっぉ! 必要なら鉱石でも宝石でも掘ってくるかぉー!」
こうして色々と謎は残るものの、次の目標もできた。
……2人目というのもどういう感じになるんだろうか? 楽しみだねぇ!




