第34話
【ボス討伐おめでとうございます。『2人目』が解禁されました。システムメニューから追加キャラを選択できます】
どうやら、新たなシステムが解禁されたようだった。
頑張ってボスを倒した甲斐があるってなもんよな……!
「システムメッセージかぉ! 2人目解禁だってぉ!」
『アルトにも聞こえたか』
「……ふたりめ?」
ああうん、こっちの話ね。
『とりあえず、死骸になった子亀だけ回収して町に戻るか』
「だぉね。2人目はそれからだぉ!」
アルトもオートモードに切り替え、大亀の巻き添えを食らってくたばった子亀もちゃんと回収しておいてもらった。……さーて、帰るかー。
え? 生き残りの子亀はいいのかって? 狩り尽くすとリポップしなくなるかもしれないから見逃そうね!
* * *
町に帰る、ということで、2人の精霊様はすんと静かになった。
その代わりにどちらに進めばいいかの導きの矢が浮かんで見えている。
「精霊様のお導きが出たわ。いくわよトリア」
「ん、うん。……おやすみ、精霊様」
アルトとトリアはその導きに従って進むだけだ。この山に来る際も、町を出た時は夜だったが、この導きの矢のおかげで迷わず進むことができたのだ。信じて進めばいいだけの簡単な話だった。
アルトは後ろ向きに銃を放ちつつ、トリアはその足で走っていく。
示された方向に向かえばいいだけ。何も考える必要はない。つまり、雑談する余裕があった。
「……大亀、倒せちゃった」
「私の精霊様が手伝ったのよ、当然でしょ? 感謝してよね」
「うん。ありがとう、アルトの精霊様」
無理だ、無茶だ、無謀だと思った。赤黒く変身して、さらに死を感じた。
しかし精霊様は挑んだ。だから信じて挑んだ。そして、勝ち取った。勝利した。達成した。大亀の目玉も捧げることができた。消えてしまったが。
終わってみれば、危なげない勝利。せいぜいたった十数分の交戦。
だがどこかで一瞬でも躊躇えば、死んでいたのはこちらだっただろう。やはり精霊様は凄い。精霊様の言う通りにしておけば間違いはない。愛と尊敬が高まった。
「……いいなぁトリアは。私も精霊様のお役に立ちたかった」
「アルトも凄い活躍だったよ?」
「私は精霊様に身体を委ねていただけだもの。トリアのように、自分で精霊様のために動きたかった……でも私だと、これを万全に扱えないの」
と、アルトは銃を撫でる。大きな黒い塊のそれは、古代文明の銃だ。
もし銃を撃っていたのがアルトであったら、大亀に与えるダメージは半分以下になっていただろう。あの大雨の中、大亀の頭に掠らせられるかどうかも怪しい。
「あれは、アルトの精霊様が凄すぎ」
「くっ! 私の精霊様が偉大すぎて尊い……!!」
「もっともトリアの精霊様も凄い。全てを見切ってトリアに任せてくれた。これは愛」
「それは純粋に羨ましいとしか言えないわね……」
「ふふん」
尚、この2人の出会いは最悪とも言えた。
なにせ2人にとって初対面、いきなりの殴り合いである。敵か。お互いにそう思った。
のだが、それは2人の精霊が特別親しいが故の過激な挨拶だったようで、その後2人の精霊様達は仲良く話し合っていた。
であれば、二人も敵対することはない。精霊様が望まないだろうから。
「アルトはアルトで、精霊様に求められる仕事をすればいい」
「そうね。例えば……精霊様は私達の身体で私達には触れないみたいだし、そっち?」
そう言いながら、アルトは自分の胸に手を伸ばした。特に壁に阻まれることなく、ぷに、と女特有の柔らかな身体に触れられた。自分の身体である、当然だ。
「私の全ては全部、精霊様に捧げてるのに……どういう事なのかしら」
「れべるを上げたら触れるようになるかも、って言ってた」
「……れべる。って、精霊様達の言っている強さのことよね? つまり鍛錬……」
「うん、鍛錬。鍛えて、もっと、精霊様との繋がりを強める」
「やることは決まったわね……!!」
「うん」
ぐっとこぶしを握る2人。
「……それにしても、ペンペンは精霊様に無茶苦茶撫でられてて羨ましい」
「ホントそれよね。……色町について詳しく調べておこうかしら。それとも精霊様に捧げる女を手に入れるべき? 言動からして男よりも女の方が好まれそうだし」
「うーん。それを精霊様が望むかどうか、による?」
「! そうね。勝手に集めても私以外の女は要らなかったらご迷惑よね」
うんうん、と頷くアルト。
だがここで一つ思い出す。思い出してしまった。
「……ふたりめ。と、言ってたよね?」
「……そうね」
先ほどの精霊様達の会話を思い返す2人。
そう。2人目。2人目だと言っていたのだ。1人目は、たぶん自分達。
つまり……自分たちのような、あるいはペンペンのような、そんな2人目の元に精霊様が行ってしまう、という事ではなかろうか。
「精霊様が、私以外のところに……?」
「トリアには精霊様しかいないのに……?」
「…………ぐぅぅう!」
「でも、精霊様がそう決めたなら」
「従うだけ……全てを捧げたんだもの……この感情、心も! 寂しさも愛も!」
精霊様の決定を妨げること、それだけはできない。してはいけない。させてもいけない。たとえ相手が自分であっても。
「でも考えるだけで寂しいぃー!! 今から泣きそう!」
「……! トリア、ひとつとんでもないことに気付いた」
「何よトリア?」
「もし精霊様がトリア以外の子に入ったなら。……精霊様とおててを繋げる?」
「!!!」
くわっとアルトの目が見開かれた。
おてて、とはカワイイ表現だが。なんならもっと先までいけるのでは。やれるのでは? ご奉仕が捗るのでは!?
「あなたは天才よトリア。それは……いいわね!」
「だよね!」
2人目。ふたりはそれを、少し前向きに受け入れられるようになった。
と、ふとトリアは自分が今走っている場所がどこか見覚えがある気がした。
「……ん?」
「あら、どうしたのトリア?」
「うーん。前に住んでいたところのように見えたけど……気のせい?」
「こんな、何もないところに住んでたの?」
そう。そこはただの広い場所だった。剥き出しになった土が平らに均された平地。
昔住んでいた場所は村だったはずなので、多分違う。
「気のせいか」
「そうね。それに前は前よ。どうでも良いでしょ? 私達は、精霊様さえいれば」
「それはそう」
そう言って、トリアはニコリと笑みをこぼした。「それはそう」と、言いたかったのだ。言ってみたかったのだ。精霊様がよく言っている言葉だから。
トリアは嬉しくなって、ふと感じていた懐かしい何かを忘れた。




