第32話
大亀のヘイトは完全に俺達に向いている。これならアルトは隠れながら撃ってもらえば安全にダメージを重ねられるだろう。
「後方支援は任せるぉ!!」
ばしゅん、ばしゅん、と岩を撃ちだし反動で下がるアルト。しかもその岩もちゃんと大亀に当たってるんだから流石すぎる。
『さて、それじゃあ俺達も……やるか!』
「うん、精霊様。トリアはやります……!」
大亀が頭を出してこちらを睨む。怒りの籠った強い視線だ。視線で人を呪い殺せるなら既に殺されてるかも……ってHPゲージがジリジリ削れてるが!? マジで殺せる視線かよぉ! ライトヒール!
『HP回復ポーションもペンペンに用意してもらっといたが、無理はするなよ!』
「うん、精霊様……はぁああああ!!!」
ショートダッシュで距離を詰める。最初に大亀と対峙した時とは比べ物にならない戦闘力を備えたトリア。そのまま、アゴをカチ上げるように殴りつける――25! バチンとエンチャントサンダーのエフェクトが散ると同時に、更に首根っこに蹴りを加える。ズドン! と重い音がして、ビクともしていないが47のダメージ表示が出た。
……相手の残りHPがどれくらいかは分からないが、子亀よりもかなり防御力は高いようだが、ちゃんとダメージは通る!
『いいぞ、効いてる! だがあちらの攻撃には気を付けろ!』
「ふっ……はっ、うん!」
「ブモォアアア!! アアアアア!!! ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」
思わず耳を塞ぎたくなる大絶叫と共に、首を振り回す大亀。破城槌のような巨大な質量。それが鞭のように振るわれている、当たったらタダでは済まない。
が、バゴンッ! と岩が飛んできて一瞬動きが止まる。
「っしゃ、10ダメ! 二桁だぉー!!」
『さすがアルトだ、頼もしいぜ!』
その止まった瞬間にトリアが蹴りをかます。喉を潰すような膝蹴り、加えて俺もサンダー!! 合わせて40ダメ……少なっ! あまり弱点じゃないのか、それとも通常の魔法は効果がないのか? 折角のサンダーキックだが、電撃エフェクトは中に入らず表面をぬるりと流れていくような感じだった。
ブルンと震えてトリアちゃんを弾き飛ばす。おっと、噛みつこうとしてきたな?
『折角だ、これも試す!』
ぽい、と、インベントリからペンペンの作ってくれた爆弾を出し、口に投げ入れる。口の中、吐きだそうと舌を動かすのが見えたが、そこに更に岩が詰め込まれた。ドゴン!! 70ダメージ!! 岩と合わせて77ダメ!
いやこれマジで頼もしすぎるなアルトが。安心感が違う。一人で挑まなくて良かったぁ……
『ナイスショットだ! サンキューアルト!』
「へへっ、当然だぉー」
「精霊様、来ます!」
首を縮める大亀を見て、バックステップで距離を取るトリア。大亀は首を仕舞い、ぐる、ぐる、ぐるるるんと回転し始めた。
さらに距離を取る。後ろに邪魔な子亀が居るのは俺が教えて避けさせる。大亀が突っ込んできた。
『おいおいおい、子亀いるのにお構いなしかよ!?』
「ブチ切れてるぉねー! うわ、ダメージ通らねーぉ!」
流石のアルトも高速回転+突撃中の亀には当てられないのか――と思ったが、普通に当ててるっぽいのはなんなんだろう。俺にはどこが甲羅の穴なのかも見えないんだが。
そして子亀は今まで見たことがないほど素早く甲羅に籠って、弾き飛ばされていた。ああ、一応亀なら死なない程度の攻撃ではあるのか……って、そっちにはアルトが!?
「あ、大丈夫避けたぉ。嫌な予感してたからぉ」
「……アルト様、強すぎでは?」
『頼もしさが過ぎるなぁ』
というか、取り巻きの子亀がそう言う風になるギミックだとは……最初少し減らしておいて正解だったわけだ。
『止まった! チャンスだ!』
「お、頭出したぉ! やるぉトリアちゃーん!」
「うん。や、はい」
頭を出してきた大亀。その瞬間を狙うトリアちゃん。その右足のつま先は左の目玉を的確にとらえる軌道。が、大亀は避けようと首を急いで振り上げ――ようとしたところを、やはり岩がそれを止めた。アルトの援護射撃! そしてブーツナイフの一撃――1500!! クリティカルの桁違いに大きな数値と共に、亀の目玉にブーツのつま先にあるナイフが突き刺さった!
「ブモァォォォオオオオァァアアアアアア!!!!!!!」
「んぐっ、うっ!?」
バチ、ブチンッ! と糸の切れる音。何かと思えば、ブーツにつけていたナイフが千切れ取れる音だった。残ったナイフが亀の左目に刺さって血の涙を流させている。
元々、事故防止にある程度大きな負荷がかかったら取れる設計になっている。
目玉をえぐり取ることはできなかったが、左目は完全に潰せた。
「オイオイオイ、なんとも分かりやすい弱点ができちまったぉねぇ!」
そして、アルトがそこにめがけて撃つ。撃つ。74、80、と今までの10倍以上、こちらの殴りよりも高いダメージ値を叩きだす。目玉に、刺さったナイフに直撃させる腕前があってこそだ。
『オートエイムのチートでも使ってるのかってくらいに当てるじゃん。さすが』
「ハハッ! アルトちゃんの身体が優秀なんだぉ! 身体が思った通りに動く、完璧にエイムを当てられる、視界明瞭! ならこんなノロマに当てるくらいヌルゲーだぉお!」
アルトが射撃を外すのは、それが牽制となって動きを封じる時だけだ。その次で必ず目に当ててる。……オートエイムどころじゃないな、未来予知してるだろお前。
「……っと、キタ! こっちにヘイト向いたぉ! 今だぉ、右目も完全に潰しちまえ!」
『おう、ナイフはまだもう片方あるからな!』
「うん……!!」
前線で対峙し続けていたトリアから、ついに気が逸れた大亀。確かにお前、片目で1500を越えるほど大量のHPを持っていたならアルトの1桁ダメージなんて気にする程ではなかったのだろう。
もう無視できない。だからこそ、それが決め手だ。
「……シッ!!!」
『サンダー!!』
赤く充血していた右目。そこに、先ほどの左右を完全に入れ替えた焼き直し。よそ見をしていた目玉に吸い込まれるように、左足のつま先のナイフが突き刺さった――1500ッ!!……さらに、まるで棚に足をかけるかのようにぐいんと膝を曲げ、刺さった目玉を足場のように駆けあがり、ぐるんっ! ぶちぶちぶち!!
今度千切れたのは、ナイフを留める糸ではなく、大亀の目玉の方だった。
「ぶぁ……ブゥァアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」
激しい音。ぐわんと風が吹く。同時に、突然の土砂降り。
まるでゾンビのように右目をだらりと垂らした大亀が、吠えた。
「やっべ、さすがに視界が悪いぉ!……んぐっ!? ぺぺっ、なんだこれ、雨が赤いぉ!?」
『っておいおい、なんか甲羅も赤くなったぞ!?』
「本体は黒くなりました」
赤い雨。それとは別に、甲羅自体の色が赤くなり、そこから出る手足や頭が影を固めたかのように黒くなっていた。
……第二形態! ボスにはお約束だよなぁ!!




