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異世界人育成ゲーム ~生贄の少女たち~  作者: 鬼影スパナ


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第3話




 身体に精霊様の力が馴染む。しかし、身体の操作権は既に少女のモノではなかった。

 今、少女は髪色の変わった自分の頭を、自分の目で見ていた。

 元は地味な茶色の髪だったのだが、秋空のような薄い青白色に、所々くっきりとした青色の毛が入っている。


 ……いや、それを見ているのは『目』ではなかった。訂正しよう。移動せずとも身体を正面からも『視』れた。拡張された感覚であり、既存の体の部位ではない箇所。少女の意識は、頭の後ろに浮く光輪(ハイロゥ)となっていた。

 視界もあれば、聴覚もある。不思議な感覚だったが、幼い頃に母に読み聞かせてもらった本を思い出した。


 『精霊憑き』――精霊に身体も心も、意志さえも捧げた、あるいは奪われたらしき存在。

 人類のものと異なる行動原理で動くそれは、命が惜しくばあまり関わってはいけない。


 どうやら自分はそういう存在になってしまったらしい、と少女は思った。

 また、髪の毛をはじめとして別人のように変わってしまった見た目だが、これが自分の身体だとしっかり認識できていた。



 精霊様は、手足を押しつぶしていた岩の前に立つ。それは立った自分より大きな岩だった。こんな岩4つに押しつぶされていたのか。


「お、操作できるな。これからよろしく、トリアちゃん」


 トリア。それが自分の新しい名前らしい。今までの名前は――精霊に捧げたからだろうか、思い出せなかった。そもそも、今の自分が新しい名前を覚えて使う機会があるのかも不明だが。


「まず周りを調べてみるか」


 そう言った自分の身体は腕を下敷きにしていた岩をげしげしと蹴る。――というか、進もうとしてつっかえているようにみえた。


「ここは障害物があって通行不能……こっちは通れるな。攻撃も試すかな。武器はSP足りなかったんだよなー」


 岩をべしべしと殴り始める。『自分の身体を動かしている』という感覚と、『自分の身体が動かされている』という感覚が同居している。

 新しい腕は丈夫そうだし、石を殴っても痛みはさほどない。大丈なのだろう。


「よしよし。お、フリック入力でローリングできるっぽい。……でもこれ携帯端末じゃない方がプレイしやすいか? しまったな、後でクロスプラットフォームかどうか確認しておこう。えーっと他は……」


 精霊様が呪文を唱えながら、岩壁に向かってゴロゴロと前転を始めた。飛び込むような前転で、しかしその場で移動しない、ザリザリと地面の上を空回りしている。かと思えばジャンプしたり反復横跳びしたり。しゃがんだり立ち上がったり。

 これはどういう儀式なのだろうか? はたまたちょっとした奇跡? 精霊様の考えることがただの村娘だったトリアに分るはずもない。


「よし、一通り操作は確認できた。じゃあ……何をすればいいんだ?」


 はて、と首をかしげる精霊様。

 そう言いながら、しゃがみ、立ち、ジャンプ、を繰り返している。もとの自分であったなら5回も繰り返せば息が切れ始めていただろうそれを、何回も。


「お! 今、筋力が上がったぞ!? そうか、基本動作だけ繰り返しててもパラメータが上がるタイプか。いやまて、初期だけのバグ――もとい、仕様かもしれないな……うん、一旦これ続けてパラメータ稼ぐ。目標は筋力と体力、それぞれ15とする!」


 そういうや否や、動作の速度が上がった。

 精霊様の御言葉の半分も分からないが、筋力、目標、体力といった言葉から推測するに、身体を鍛えるということだろう。何が目的かは分からないが、強いことに越したことは無い。

 強ければ、トリアが生贄にされることもなかったかもしれない。村を逃げ出して、冒険者として独り立ちできただろう。



「おっと、もうこんな時間だった。ちょっと風呂ってくるかな。一旦ログアウト……ん? ログアウト中の行動指針を決めてください? ああ、放置も可能なのか。じゃあこのまま筋トレしてもらうか。よろしくトリアちゃん」


 精霊様がそう言うと、ブン、と視界がブレて、『身体』に吸い込まれた。

 元々の目を、眼球を使った視界になる。それは今まで通りなのに、光輪(ハイロゥ)だったときの自由に周囲を見渡せる視界と比べてどこか不便にすら感じた。


「……ぁ、身体が、動かせる」


 それはトリアの意志が発した言葉だった。精霊様が消えてしまったのかと一瞬焦ったが、上を見れば光輪(ハイロゥ)が浮かんでいるのが分かった。そこに確かに精霊様の気配を感じ、安堵した。

 どうやら身体の制御をトリアに任せ、お休みになられているようだ。


「……えっと、さっきまでのを続ければいいんだよね?」


 キントレ、という言葉は良く分からなかったが、このまま、と言っていたのは分かったので、トリアはしゃがみ、立ち、ジャンプする動作を繰り返し始めた。

 不思議なことに空腹や疲労は殆ど感じず、身体は何度の繰り返しでも全く同じに動く。普通なら疲労で動作はブレるし、そもそも息が切れて続かなくなるだろう。

 これが精霊様の御力なのだとトリアは実感する。


 1時間ほどそれを続けていると、精霊様の気配が強まるのを感じた。

 直後にびゅんと、今度は身体から光輪(ハイロゥ)に意識が引っ張り出される。精霊様が休みを終えられたのだろう。


「ただいまーっと。……お、上がってる上がってる。筋力15達成してるな。体力も14か、十分そうだな。これ一晩放置したらどこまで……いや、流石にそろそろ先に進めるか。普通にレベル上げた方がパラメータ上がる説もあるかもだし、明日も仕事だからテッペンには寝たいし」


 良く分からないが、精霊様の求める仕事ができたらしい。

 ホッと胸をなでおろす――今は光輪(ハイロゥ)なので身体はないが。


「それじゃ、チュートリアルすすめようかな」


 そう言って、精霊様はトリアを祠に進ませる。苔むした祠だ。今にも壊れそうな。


「し・ら・べ・る!!!」


 次の瞬間、祠をガボッと引き抜くように持ち上げて、投げた。当然の事ながら祠は砕け散り、その破片がばらりばらんと散乱。御神体であったであろう緑色の鉱石が破片に紛れてごろんと転がったと思えば、次の瞬間それはポインという軽快な音とともに浮き上がり、消えた。

 鉱石は精霊様の領域に取り込まれたのだと理解できた。

 

「ポインターが出てる箱はこうやって調べられる、と。積極的に調べていこう」


 どうやら苔むした木の祠は……精霊様には『ただの箱』に見えていたらしい。

 人間の勝手な信仰など、実際に信仰を受ける精霊様のような上位存在にはそんなものなのかもしれない。


「ゲットしたのは換金アイテムっぽいが……チュートリアル記念品か? とっておくべきか悩むわぁ。アイテムはコンプリートとかしたいし、後々手に入るかどうかだけ知りたいなぁ……」


 村人如きの想いなど精霊には関係ない。中のご神体だった鉱石も、精霊様への貢ぎ物に過ぎないのだ。自分を生贄にしようとした村人達を踏みにじるようで、トリアは少し胸のすく思いがした。








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