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異世界人育成ゲーム ~生贄の少女たち~  作者: 鬼影スパナ


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第2話





 乾いた風が、ひび割れた木壁の隙間から吹き込んでいた。


 村の集会場には幹部連中が集まり、重苦しい沈黙が漂っている。床板は軋み、油の切れかけた灯火が揺れ、誰もが目を伏せていた。


「……もう2月(ふたつき)も雨が降っておらん」


 ひとりの老人が声を絞り出す。ご意見番、前村長の長老だ。


「畑の収穫はなんとか間に合ったが、川は細り、井戸も底を見せておる。このままでは冬を越せぬ」

「腕のいい水魔法使いを呼べないか?」

「無理だ。収獲量もギリギリだった。この上一人滞在させることもできん」

「領主様に助けを求めるのは?」

「どこも同じような状況と聞く。望みは薄いだろう」

「ならば――」


 別の男が言葉を継ぐ。


「――ああ。ならば、大亀さまに祈るしかあるまい」


 その名が出た瞬間、場の空気がさらに重く沈んだ。

 大亀――山の奥深くに棲む、神とも怪物とも呼ばれる存在。雨を呼ぶ代わりに、生贄を求めると伝えられてきた。


「しかし本当なのか? 本当に、大亀さまに祈れば雨を降らせてもらえるのか?」

「儂が子供のころ、似たようなことがあった。……大亀さまは魔力を好む。その時は儂の姉が生贄になり、村に雨が齎もたらされた。儂が証人だ」

「爺様のいう事なら、そうなのだろう」

「……だが誰を差し出すか、それが問題だ」


 神妙な顔で頷く長老。


「幸い、今この村には居るではないか。……身寄りのない者が」


 長老の言葉にざわめきが広がる。誰もが心の奥で思い描いていた答えを、口にしてしまった。皆が、ひとりの少女を思い浮かべた。


「アレで魔力は足りるのか?」

「その時はその時考えればよい……こういう時の為にアレの面倒を見てきたのだ」

「だが、奴隷になるのと生贄で命を落とすのでは……」

「では全員で死ぬか?――必要になったから、使う。それだけの話だ」


 本来は、もう少し育ててから奴隷商に売るつもりであった。しかし、天候という逼迫(ひっぱく)した事態が少女の出番を別の形に歪め、早めてしまった。


「村の為に犠牲になるのだ。アレも本望だろう」

「……いつやるのだ?」

()は急げ、だ。雨は1日でも早く降ってくれた方が良い、だろう?」


 集会場の空気はもはや決定を覆す余地を許さぬほどに暗く、濃く、重く。

 冬を前にした冷たい風が、壁の隙間から吹き込んでいた。





 山道を登る一行の足音が森に響く。一人の少女が抵抗虚しく、大人の男に抱えあげられて物のように運ばれている。

 これ以上暴れるなら手足を折って運ぶか、と大人たちに囲まれて言われては……抵抗するだけ無駄だろう。それを思い知るには、殴られ腫れた頬ひとつで十分だった。


 山道を進むと、やがて、苔むした祠が現れた。

 石段の上に鎮座するその祠は、村ができた時に村人が作ったらしい木製の祠だ。もとは木の箱に屋根を付けた程度のものだったが、長い月日を経て苔が生え、祠らしい神秘性を得て村人に信仰されていた。少女は恐怖を覚えて震えた。


「そこにうつ伏せで横になれ」


 長老にそう言われ、少女は一枚岩の平たい石の上に横たわる。更に、手足を広げろと言われて、そのまま言う通り大地に抱き着くように手足を広げる――直後に、ミヂッ、と肉と骨が潰れ壊れる音。一瞬遅れて激痛が走った。手足の上に、巨大な岩が落されていた。


「――ッッヅァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 少女よりも、周りの大人たちよりもはるかに重い岩。下敷きになった両手足はもはや欠片も動かせない潰れた肉になった。叫びが周囲に木霊する。


「これで逃げられまい」

「な、なぁ、ここまでする必要――」

「ある。生贄を自由にさせていたら、食われる前に逃げるだろう?」


 冷酷な老人の声も、自分たちで岩を落としておきながら怯える大人たちの声も、少女にはもう聞こえていない。激痛でそれどころではない。喉から血が出るほどに叫び続けている。

 その声が呼ぶのだ、大亀を。大亀さまを。


「おい、少し黙らんか。まだ儂らが逃げてないじゃないか」

「アアアアアぐぇっ!!」


 長老が、少女の喉をぐっと掴んだ。

 老人とは思えない力に喉を潰され、音が止む。



「ではな。村のために生贄の務めを果たしてくれ」

「……ッ」

「さぁもう行くぞ。大亀さまが来る前に。……どうした、早くしろ。お前達は大事な労働力なんだ、食わせたくない」

「……ああ」


 恐怖と狂気と凶行。

 その場から逃げるように、大人たちは去って行った。



「ぁぁあぁぁ……」


 喉は多少治ってきたが、痛みで叫ぶ気力が先に尽きた。

 涙も枯れ、地面に顔を擦り付けるしかできない。涙と涎と鼻水が石のベッドを濡らした。


 次第に、痛みも麻痺してきた。

 ふと何かの気配を感じた。大人たちが戻ってきたのか、はたまた大亀が現れたのか――と思ったが、恐ろしい気配ではなかった。顔を上げると、そこには光が浮いていた。


『精霊に全てを捧げますか?』

「……」

『精霊に全てを捧げますか?』


 その問いかけは、頭の中に直接届いた。


「たす、けて……ささげる、から……ぜんぶ、ささげる……から……」

『同意を確認しました。接続します――はいはい、救いますよっと』

「……ぇ?」

『お、結構色々変えられるな』

「ひぁっ……あっ、あっ、あっ……ふゃっ!」


 そこからは別の痛みが始まった。ガキゴキ、と身体が伸びたり縮んだり、髪が伸びたり色が変わったり戻ったり、潰されたのとは別の腕が生えたり、足が生えたり。やはり無かったことになったり、無かったことになったのがまた起きたり。


 まるで手探りで身体を作り替えられているような。肉体の変更は特に痛みを伴うものであった――あったのだが、それは、嫌な痛みではなかった。岩で押しつぶされた時とは違う、甘い快楽を伴う痛みであった。


 これが『精霊に全てを捧げる』ということなのだろう。今までの自分が、全部作り替えられていく。その実感があった。



 そうして1時間ほど身体をこねくり回され、その時間は終わった。








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