第25話
肉。肉。肉。
俺達の目の前にあるテーブルには、分厚いステーキが山に積まれていた。
「うっわ、VRで見ると壮観だなぁ……ごくり」
「オイオイオイ、肉の脂とソースの暴力的な匂い……ヨダレ出てきたぉ。これリアルどうなってんだぉ? べちょべちょになってる可能性」
「こまけぇこたぁいいんだよ! いただきまーっす!!」
切って食べるのがマナーとは知りつつも、ナイフで切るのも省き、ステーキ一枚をフォークでずぶっと突き刺してガブッと食らいつく。
じゅわっ!
柔らかさに加え、ソースに絡んだ肉汁が口の中に広がった。芳醇で香ばしいタマネギの香りに、肉の味が口いっぱいに広がった。しょっぱい。少し甘い。ちょびっと辛い。そして脂のつるんとした食感、ねっとりとした風味。合成肉にはない複雑すぎる味わいに、舌がビックリする。
「……美味……ぐ、はぐ……」
「がっ……ぶ……ぉ!」
というか噛み切れないでもぐもぐしてるだけでも幸せなんだが!?
ってか柔らかいのに噛み切れない! 筋? そうか、これが筋か!! 形成肉だとわざわざ作らないもんなぁ筋!! これぞ高級品の天然肉ゥ!!
「ぷはっ、だ、ダメだ! 噛み切れない! おい、ナイフで小さく切ったほうが良い奴だコレ! 単純に丈夫で食べられない!」
「んぐぉ! んぐぉ!……ぶちぃ!! もぐっもぐっ! ごくん! そんな勿体ないことできねぇぉ!! ボクはこれをまるかじり! するぉ!」
「うわぁ噛み切った。え、どうやったの?」
「歯を横にギリギリして引っ張るんだぉ。トリアならきっとできるぉ!」
アルトはワイルドに噛んだ肉を首とフォークでぐいぐいーっと引っ張っている。
改めて自分が放した肉を見る。確かに肉には噛み跡で少し穴が開いている。小さい穴だ。だが穴、つまりこれを何個も繋げれば、理論上は切れる。
……いけるか……? いや、いく!!
「はぐっ!!……んんぎぎぎ、ん、ん、ん!」
ぶち、ぶち、と歯が筋を少しずつ噛み裂いていく。ガジガジと何度か噛んで、引っ張って、そうするとある一点を越えた時点でぶちぃ! と肉がちぎれて口の中に納まった。
「……!!! んぐ、もぐっ! ごくんっ……うぉぉ、喉、喉、今、俺、肉を飲み込んだぞっ! 喉に微妙に引っかかるこの感じ、え、すげぇ、肉だ! 俺今肉を! 俺今肉を!! 勝った感すげぇえええー!!」
こんなの今までの人生で食べたことがない。脳にドーパミンがどばどばと溢れるのを感じる。
「フッ、トリアちゃん目ぇキラッキラだぉ。そう、それが肉! これこそが肉なんだぉ!!」
「お前、一足先に飲み込んだだけで先輩面すんなよ!」
「残念でしたぉー、ボク昔天然肉食べたことありますぉー! これの半分の半分くらいのぺらっぺらな、せいぜい厚紙みたいなヤツだったけどぉ!」
「マジかぁー。先輩だったかぁー、肉先輩!」
ラーメンに入ったチャーシューだったらしい。
あれを天然肉でとか、なんと贅沢な。
「あー、顎が疲れるぅ。そういえばこれって何のお肉なんだ?」
「さぁ? とにかく肉、肉いっぱい山盛りでって言ったら出てきたヤツだぉね」
「聞いた方が早いな。すみませーん。これって何の肉なんですかー?」
ウェイトレスのNPCに尋ねると、どうやらリザードマンの肉らしい。
ちょうど先ほど、大量の入荷があったとか。
「……あいつらこんなに美味かったのかぉ。また狩るぉ」
「賛成。いっぱい狩ろう。そういや知ってるか? ペンペンって料理もできるんだぞ」
「マジかぉ。絶対作ってもらうぉ」
「……なぁ、リザードマン以外も美味しい可能性、あるよな? こういう物語だとオークが美味いとか定番だろ。オークは先日狩ったから間違いなく存在する!」
「! 確かにだぉ!! じゃあ次はオークだぉ!!」
2枚目の肉に手を付ける。無限に食べられる気がした。
「ちーっす、装備できたっすよー!……あ、おふたりともこれからご飯っすか?」
「お、おぉ……ペンペン。いやその、腹がね、いっぱいでね?」
「だぉ……ま、まだ、まだ食えるぉぉ……食うんだぉぉ……」
気がしただけだった。
胃袋が満腹サプリを飲んだ後のようにパンパンで、もう入らないと身体が肉を否定する。こんなに美味しい肉なのに、口が、喉が、拒絶する。おにく冷めちゃったペコ……
3枚くらいはペロリ、4枚目はじっくり、5枚目はナイフで切って小さくしてから食べて、6枚目からはツンツンとつつき始めて、今に至る。
……喉から肉が逆流してきそうだ。
えーっと、あと何枚だ? 9枚ある? まじかぁ。アルトの方も7枚かぁ。
「あれ、もしかしてフリーズしてるんすか? 手が止まってるっすよ?」
「ぐぉっ! 煽られたぉ! うぉおおおーーー!! ボクはまだやれるぉ! モンスターペアレンツの集団襲来に比べたらなんてことねぇお! 根性ぉおお!!!」
「あー、ペンペン、俺の分食べる?」
「いいんすか? んじゃいただくっす」
とペンペンが席につく。優雅に白いナプキンを首に巻いて、ナイフとフォークを構えペロリと舌なめずり。
ぐさ、ばくっ! ぐさ、ばくっ! ぐさ、ばくっ!!
ナイフとフォークでそれぞれ1枚ずつ肉を刺し、大きな一口で頬張り飲み込む。うぉすげぇ。肉がどんどん減っていく。
「ごちそうさまっす!……さすがに満腹っすね!」
「おぉー。助かったよペンペン。いや、気持ち的には食べたかったんだが身体が拒絶しちゃってね……」
『!? 申し訳ありません精霊様! トリアがふがいないばかりに!』
「あ、トリアちゃんが悪いって意味じゃなくてね。後先考えず注文した俺が悪いだけだからね……」
というか、頭の中に直接声が。こんな感じなのかぁ。
「……うぅぅ」
「そろそろ諦めた方が良いんじゃないか、アルト?」
「ぷぇぇぇ……おにくたべるんだぉぉ……」
泣いた。突っ伏して泣いた。男泣きである。
「気持ちは分かるけど、泣くなよ。お肉食べきれなかったからって……」
「だって……だっておぉ……!!」
「あ、食べきれなかったらストレージに入れられるっすよ」
「「!?」」
その手があったか!!!!!!
アルトは早速食べかけの肉をストレージに仕舞った。あ、こら皿はちゃんと返せよ。あと顔が脂でべっちゃべちゃだぞ拭けって……あ、俺もか。フキフキ。
……
いやうん、今更だけど、ホントこれどうなってんだ? 満腹だぞ俺……味覚再現どころじゃねーな。




