第23話
リザードマン狩りにはエンチャントサンダーがガッツリ有効だった。
「ちなみにアルトさんや。獲物がデカかったり大量にある場合は裏の解体倉庫の方で納品するといいぞ」
「え、なにそれ面倒だぉ。カウンターで全部やって欲しいぉね」
「でもそれで報酬査定に若干ボーナスが付くんだよね」
「ぉっ、そんなら話は別だぉ」
というわけで、大量にあるリザードマンは解体倉庫の方でどばぁと納品した。報酬がっぽり。
「うし、納品完了! さて、この狩りでLv30になったな」
「トリアおめでとうだぉ! ウチもLv29だしそろそろだぉ。で、何か機能解禁されたかぉ?」
「5の倍数とかのキリが良いレベルで何かしら解禁されがち、ってことが分かったからな。さーてどれどれ……」
メニューからコンフィグを選んで調べてみる。
表示モードの選択ボックスをタップすると、そこには現在の『3D』、以前解禁されたであろう『ボクセル』に加え、『VR』が追加されていた。
……VRかぁ。へぇ、VR。HMDデバイスあったっけかな……
「なんか『VR』が解禁されるわ」
「ぉー。それは楽しそうだぉね! むっちゃ酔いそうだけど」
「それな。ガンガン動き回る格闘タイプの戦闘スタイルだし、絶対酔う自信しかない」
「にしても、今使ってるの携帯端末なんだけど、コンフィグメニューにVR表示されるんだなぁ」
「あれだぉ? 携帯端末を専用レンズ付きの箱にセットして見る奴」
「ああ。古の……って、それでどうやって操作すればいいんだ? 電脳チップか?」
「青歯のコントローラーとかじゃねーかぉ?」
「それがあったか。ちょっとVR試したいし、通販でVRレンズ付き箱探すかな」
「ぉっぉ。ボクはその手のガジェット持ってるから取ってくるぉ。ちょっとソロ狩りしてLv30にしてくるかぉー」
「いてらー」
一旦コンフィグを閉じる。
町の外へ狩りに出かける同僚を見送り、俺は一旦いつもの筋トレオートモードに切り替えて通販サイトを開いた。
えーっと、なんて検索すればいいんだ? VR、携帯端末、っと。お、出てきた。これこれ、こういうのでいいんだよ。へぇ? 送料無料でコンビニのオニギリより安いじゃん。
んで、コントローラーはあるから良し。カートに入れてポチっとな。
「ただいまー、Lvあがったぉー」
「早いな。こっちも今ポチったとこだ」
丁度同僚、アルトが顔に血を付けて帰ってきていた。
そのまま倉庫でポイっとなにやらキノコのモンスターを納品した。マイコニドらしい。こんなの居たんだこの辺り。
「ぉっぉっぉっ、あとほんのちょっとだけだったんだぉね! これでボクもLv30、VR機能解禁だぉ!」
「おめでとう。んじゃ、一足先に試したらどうだ? VR機能」
「流石に今ポチっても届くのは最速でも明日だぉね。じゃ、お言葉に甘えて、早速、ため、す、ぉー!」
ゴソゴソとセッティングをしているのだろう。チャットがとぎれとぎれだ。
……
「ぉ……? え!? あ!? ええ!?」
「どうしたアルト? VR機能、どんなかんじ?」
「ちょ、ど、ど、同僚氏! 今すぐそっちもVR表示にするぉ!」
「ん? いや、だから今ポチったばかりでそんなすぐ届かないって」
「いいから! 早く!! 早くやるぉ! なう!!」
珍しい。こんなに焦っている同僚はモンスタークレーマーが同時多発した時くらいしか見ないぞ。
そんなに言うなら、と、俺もVR表示にしてみることにした。
……
風が吹いた。
「ん?」
そう、風が吹いたのだ。
室内だったはずだ。
携帯端末を見ていたはずだ。
携帯端末で、コンフィグを開いて、VR表示に変えて、「変更しますか?」のダイアログ質問にYESとボタンをタップしただけのはずだ。
……
そこは先ほどまで画面に見えていた倉庫前だった。空は昼下がり。青空だった。
……
「なんだぉこれ! なんだぉこれ! あ! 同僚氏もVRオンしたぉ!?」
「え?」
可愛い女の子に話しかけられた。それは、同僚のプレイキャラクター、アルト。
目の前にアルトがいる。つややかな黒髪のツインテール、青い眼、白い肌。興奮した様子で、ふんすとこちらにキラキラした宝石のような瞳を向けていた。
首を動かせば、視界が一切の時間遅延無しで動く。
「にしてもトリアちゃんメチャ可愛くね? これ同僚氏の趣味だぉね?」
「え、あ、ちょっとま……!? 声可愛いなオイ!? え、これ俺の声!?」
「だぉ!!」
手を見ると、少女のそれだった。装備の手甲が付いている。
一体何がどうなってんだコレ。
え? VR? 待て待て待て。俺、まだ箱ポチっただけで届いてないんだが……? なにこれ。どうなってんの。どういう技術?
少し埃っぽい空気が鼻に入った。
「ってか臭っ! ちょ、生臭っ! 何のニオイ!? 魚!?」
「え? なんだぉ? 臭う?……ホントだくせーぉ!? ちょ、これアレだぉ、さっき納品したリザードマンじゃねーかぉ!?」
「それだ! いったん退避!」
「おうだぉ!」
俺と同僚、アルトはその場を、倉庫を離れる。多少生臭い匂いはマシになったが、なんか体にニオイが染みついているような気がする……いやこれ、アルトの方だな。多分。
そういえばコイツ、はるばる町にやって来て、そのまま狩りに行って。……そう、そのままなんだよ。今。
「おいアルト」
「お、そっち呼びかぉ。りょーかい。なんだぉトリア?」
「お前、臭いぞ。ちゃんと風呂入ってないだろ」
「がーーーん!? 確かにここまで旅してきてそのままだけどぉ! 美少女の臭いのはご褒美だぉ!?」
「いや血生臭い血生臭い。モンスター狩りまくってほぼそのままなんじゃないか?」
「ぐへー! 宿! 宿に行くぉ! お風呂だぉぉぉお!」
とりあえず、宿を目指すことになった。
俺が泊まってるトコどこだっけ……あっち? あー、この景色、ゲーム画面で見たまんまだわ。すげー。




