とある受付嬢の視点から
災害である。
精霊憑きは、間違いなく災害である。
一見話が通じそうに見えても根本的に違う生命体であることを、冒険者ギルドの受付嬢エルフは今日改めて実感した。
前々からいる精霊憑きの2人がギルド内の食堂で騒がしく話していた所に、新たな精霊憑きがやってきた。黒いツインテールの、青い光輪を浮かべた精霊憑きだった。
まずこれが色々オカシイ。精霊憑きというものはこれほどまでに頻出するような存在ではない。
多くても数年に1人。そのくらいの存在であったはずだ。
それが3人。いったいどんな天変地異だ。
そしてそれを差し引いても、尚更オカシイ。
一見すると可愛らしい女の子である精霊憑き、トリア様が、いきなりその黒いツインテールの精霊憑きをぶちのめしたのだ。
バズン、と空気が震える重い一撃だった。
確かに「ここで会ったが百年目」とか、攻撃的な発言をしていたが。あまりにも自然に突然に。
常人なら一撃死するような攻撃を受け、黒いツインテールの精霊憑きは倒れた……が、すぐに起き上がって反撃をする。
それも、重そうで大きな黒い塊をガツンガツンとぶつけるのだ。その武器としての質量からは誰でも明確な殺意を感じ取れるというもの。
精霊憑き同士の最終戦争がこのギルドで勃発してしまったのか。
逃げ出そうとしたが足が震えて動かない。
だが小さな女の子であるはずの精霊憑きトリア様はそれを棒立ちで受ける。しかも笑ってすらいる。なんなのこいつら頭おかしい。
「んし、挨拶は済んだから回復魔法だぉ! ヒールっ」
「お、サンキュー。回復魔法覚えてるんだ、いいね」
え、挨拶? どう見ても殺意があったよね? と思いつつ精霊憑き達の笑い声に頬がひきつるエルフ。
どうやら本当に挨拶だったらしく、仲良さげだ。
……冗談で殺し合うのか。やはり精霊憑きは常軌を逸している。
もう一人の精霊憑きともその挨拶とやらをするのかと思いきや、今度は場所を考えずにレッサードラゴンの死骸を広げ始めた。
レッサードラゴン。ちょっとした災害級のモンスターだ。それを見て麦藁帽の精霊憑き、ペンペン様が喜んでいる。
まさか手土産なんだろうか……災害級のモンスターが……Cランク冒険者が10人くらい、2パーティーで命懸けになるような討伐対象が……
と、ハッと手放しかけた意識を取り戻す。
「ちょ、ちょっとあの! こっ、ここで戦果を広げないでくださーい!」
「ぉ?」
ひぃ! 睨まれた! 殺される!!
思わずまた意識を飛ばしかけた。なんなら少し下着を交換する必要があるかもしれない。それまで命があればだけれど。
「おっとすみませんね受付嬢さん。ペンペン、早くしまっちゃって」
と、トリア様が声をかけ、ペンペン様がレッサードラゴンの死骸を片付けられた。
よかった。生き延びた。
……トリア様が庇ってくれなかったら、殺されるところだった。その確信がある。
……精霊憑きは、実は精霊の方が温厚なことが多い。
行動は突拍子もないが、それでも誠心誠意話せばこちらの道理を理解してくれることが多い(例外はあるが)らしい。
だが、『憑かれている者』はその限りではない。精霊に全てを捧げた信奉者は、その精霊の行動を阻害する全てを憎み排除する傾向があり、精霊が見ていないところで暴走しがちだ。……と、伝えられている。
精霊憑きの引き起こす災害のうち、半分はこの精霊に憑かれた者の側が原因だ。
……しかしその。新たな精霊憑きは、如何なる存在なのだろう?
後ろをちらっと見ると、ギルドマスターが「頼む、確認してくれ」とアイコンタクトを飛ばしてきた。
命がかかるのだ、正直やりたくはない。やりたくはないが、やらねばならない。誰が? ベテランの私が。迂闊な接触をして町を壊滅させられては目も当てられないもの。
精霊憑きの中では一番話が通じる、と、トリア様――先ほどまでは思っており、一瞬やっぱちがうのではと思ったけれどまた改めてそう思い直したトリア様に話しかける。
「……あ、あのー」
「ん?……すみません、邪魔でしたね」
「い、いえいえ、滅相もない」
トリア様はふと自分達がギルドのど真ん中で話し込んでいることに気付かれたようだ。
やはり聞くなら彼女しかいない。比較的常識が通じる。(※突然しゃがんだり立ったりジャンプしたりを繰り返し始めるくらいはまだ常識の範囲内にギリギリ収まるといってもいいとする。人に危害を加えないので)
「その、先ほど来た新しい精霊憑きの方は、お知り合いで?」
「ええ、友達です」
「…………そうですか」
友達。友達なんだぁ。友達との出会い頭に魔物や親の仇を殺すような勢いで殴りかかるんだ……
……やっぱり精霊憑き、怖い。万が一に私も友達になってしまったら、あんな風に出合い頭で殴り掛かられてしまうのだろうか。死ぬ。間違いなく死んでしまう。
あ。というか、トモダチって。もしかして、喚んだんですかね? 仲間を。
トリア様が精霊憑きの元締めとして、精霊憑きを集めている……?
そしてギルド内が無数の精霊憑きにあふれる光景を幻視し、受付嬢は気が遠くなりかけた。
精霊憑き担当エルフなんて任務を自分に与えてくれやがったハイエルフ様を殴り飛ばしたくなった。
いやむしろ異常事態だ。3人だぞ3人。精霊憑きが。上司を殴っている場合ではなかった。追加人員を派遣してもらうべきだ。
「……あ、討伐依頼などの報告があるようでしたら受付まで、とお伝えください」
「はい」
ギルド受付嬢のエルフは絞り出すようにそれだけ伝えて、受付に戻った。
……その後トリア様が伝言を伝えてくれたようで、3人目の精霊憑き、アルト様は色々と依頼達成を報告してくれた。
他の精霊憑きを集めて意のままに動かすなんて……伝説の精霊王? トリア様は精霊王だったりするんですか……? 最初の挨拶って格付けのヤツだったんですか?
というかもし精霊王だとして、精霊王が降臨するだなんてこの世界に何が起きてるんですか教えて、いやまって怖いからやっぱり言わないで。私みたいな木っ端じゃなくて上の人に直接伝えて……
……
…………あの。あの、なんでトリア様私を見てるんです? なんでじっと見てニコニコしてるんです?
まさか次の獲物に、ターゲット、ロックオンされましたか?
やっぱり死ぬかも私。ごめんなさい。きっと私が罪を犯しました。
墓は地味なものをお願いします。
遺産と報酬は妹達に。
たすけて神様。
最後の晩餐は分厚いステーキでお願いしたいです。
まみむめも、まみむめも……!
当然エルフの受付嬢は怖くて聞けず、一刻も早く仕事を片付けて休憩室に逃げ込むことを目標に頑張って意識を保って仕事に努めた。
下着は換えた。




