閑話:case『巨額の借金』
「借りたモンは返す。それが常識っちゅーもんじゃろ!? あぁ!?」
「ふぇ……あ、で、も、こんなに借りてな……はず、ぅ……」
「利子っつーもんがあんのよ! 常識じゃろ!? 嬢ちゃんの親に貸した金、それを別の事に使ってたらその分儲けることができた! その分を貸してやったんだから、利子を払うのは当然! こちとら慈善事業じゃねぇんじゃよ? そこんとこ分かっとるか!? あぁん!?」
「ふぇぇ……」
とある借金取りの事務所にて、大柄でガラの悪い男3人に囲まれ、少女は身を強張らせていた。
怖い。顔に傷があって、元冒険者なのだろう。暴力に何の躊躇もない人間だ、怖い。
大きな声を出さないで欲しい。頭の中が真っ白になる。怖い。怖い。
こちらを睨まないで、怖い。噛み付かれそう。唾が飛んでくる。怖い。臭い。怖い。
「まぁまぁ、落ち着いてください商会長」
「あん!? だがコイツの親父が金返さず飛んだんじゃぞ!」
「けれど、この子を怒鳴って金が湧いてくるワケでもないでしょう」
「フンッ、そりゃそうじゃな。で、どう落とし前付けるんじゃ?」
「働いてもらいましょう」
「働く――ああ、そうじゃのぉ、そいつぁいい考えじゃ!」
「さて、お嬢さん。では少々キツいかもしれないですが、我々が用意した仕事をしてもらえませんかねぇ?……お嬢さん? おーい? 聞いてます? ありゃ、聞こえてない?」
怖い、怖い、怖い。
なんか言ってる。逃げたい。ここから今すぐ。おうちに帰りたい。
ああでもダメ、おうちはもう、家賃が払えず追い出された。もう帰れない。帰りたい。殴られる。怖い。
酒に溺れ殴ってくる父親はもういない。母親は随分前に消えた。けれども、家だって、もうない。逃げようとした矢先、捕まって、ここ。
怖い。帰りたい。怖い。怖い。
『――捧げますか?』
「……ふぇ?」
『精霊にすべてを捧げますか?』
そんな声が少女の耳に届いた。怒鳴り散らかす男達の声と違って、優しい声だった。
だから、思わず「はい」と答えた。答えてしまった。
『とっとと始めたいし、デフォルトでいっかなぁ』
直後。ぶわりと風が吹いた。
* * *
「なっ!? ん? こ、こいつ、ちょっと見た目が変わった……?」
「バカっ! ちょっとまて。触るな、距離を取れ。儂の手前に来い。囲むポジションはマズイ」
「う、うす。了解っす」
「いいか、余計なことはしゃべるなよ。儂が話をするからな……」
男たちは冷静に、状況を判断した。その頭にある光輪を見て。
情報通の商人である。もちろんそれが何かを知っていた。
精霊憑き――命が惜しくば、関わってはいけない。その行動原理、価値観は我々人類と大きく異なる怪物。
だが。精霊憑きは強大な力を秘めている分、うまく使えば大きな利益を上げる存在でもある。
この商人の判断は素早かった。
頭の中で算盤をはじく。しくじれば大損、あるいは死。放逐すれば借金一人分程度の損害。うまくやれば、大儲け。
まずは様子を見る。少女が目を開ける。……殺意は感じない。敵意もない。まだ、今のところは。
生き延びるのが第一。借金を踏み倒されても、命には代えられない。
相手は上客、それも気まぐれな。そう思って適切に対応する。
「あー、ええと。ここまで脅すような事を言ったがの、一旦状況を整理しようと思う。いいかのう?」
「ん、あ、うん、よろしくっす」
そう言って少女は大人しく座っていた。どうやらこちらの話を聞く程度の精神状態ではあるようだ。
好都合だ、と商人は腰を据えて話を続ける。
「君の父親が、多額の借金を残してトンズラしたんじゃよ。その総額、約金貨10枚――1000万ゼニー」
「1000万!? 多分とんでもない額っすね!」
どこか楽しそうに話す少女に、自分の事だと分かっているのかと眉を顰める商人。
ああいや、そこらへんの常識が無いのか。そうか。
「この国の法で、その借金は君が引き継ぐことになった。君が複数の借金の担保に入っていたからじゃ。ここまではいいか?」
「ぉおぅ……そういう流れっすか。拒否りてぇーけど法律じゃ仕方ないっすねぇ。親父がクソっすわ」
「そうじゃな。それは儂もそう思う」
しめた、と商人は目を光らせる。
この精霊憑きは、法律に従おうとする程度の常識を持ち合わせているようだ。
これなら話が通じる。ただし。話が通じるからと言って、話が通るとは限らない。
「君なら色街で10年も働いてもらえば十分払えるじゃろう。金持ちな商人や貴族に見初められればもっと早く返済できるかもしれん」
「エッチな奴!? エッチな奴っすか!? ちょ、そういうのは聞いてないっすよ!?」
「あっ、ああ! だが、若いお嬢さんには酷じゃろ? 儂も君の境遇には心を痛めておってのぅ! だから、猶予をあげよう!」
少女の反応を見て慌てて商人は言葉を繋げる。
こちらは味方だと。敵ではないと。そう伝えると、立ち上がりかけた少女は再び腰を下ろし、話を聞く。
「端数はサービスするし、利子はとらない。返済も分割でいい」
「お。キリよく1000万返せばいいってコトっすね!」
「うむ、うむ。支払いは儂らに払ってくれればよい。ああそうだな、まずは最初の一週間で銀貨1枚、1万ゼニーを払ってみてくれんかな? 稼げるようなら返済を増やしてもらうが、まずは様子見で。な?」
「うーん、でもどう稼いだらいいんすか?」
「そ、そうじゃな! それもそうじゃ。我々としても君の才覚に賭ける形になるが、うん、森で採集などしてみるというのはどうじゃろう? 買い取れそうな物があればこちらで買い取ってあげよう、大体なんでも買い取れるからのう。ああ、返済は物納でもいいとしようか」
精霊憑きは強大な力を持つという。であれば、森の深い場所で採取をするだけでも1万ゼニーは軽く稼げるだろう。
一旦、一週間は様子見だ。稼げるならよし。単に物の価値が分からず稼げなかっただけなら、金目の物が何かを教えてやる必要があるかもしれない。生き延びられず死ぬなら、それでも良し。こちらは生き延びられるのだから。欲をかきすぎてはいけない。
ともかく、森で一週間生存できるかを見よう。
「オッケーっす!」
「ではこの足輪をつけてくれ。これで居場所が把握できるから、部下を買取に向かわせられる」
「なんか監視されてるみたいっすね」
「……するどいのう、これ、債務者監視用の足輪でもあるんじゃよ。全額返済したら外せるでの」
「ふーん、まぁいいっすけど。実際債務者だし」
少女は大人しく足輪を付けた。隠さずに正直に答えたのが良かったと思われる。
商人はホッとため息をついた。
「それで、森ってのはどこにあるんすか?」
「ああ。送ってあげよう。おい、馬車で案内して差し上げろ」
「う、うっす」
「よろしくお願いしまーっす!」
かくして、商人は精霊憑きとの伝手を得た。
送った先でしばらく隠れて様子を見ていたところ、一瞬で森を拓き家を建てていたとのことで……
商人は友好的につとめようとした自分の判断が間違っていなかったと安堵し、脱力した。
(以下お知らせ)
ちなみに本作、精霊憑きシステムにはアイディア元がありまして、
『異世界育成シミュレーター』というAA作品がありますのよ!
とても面白いのでおススメですわ。まとめサイトで検索検索ぅ!
あ、ちゃんと執筆前にアイディア使用許可貰ってますわよ。
ありがとうございましてよ混ぜ人さん!




