第12話
大亀から逃げ、山を進んで森の中を進むトリアが、妙な場所を見つけたようだ。
『精霊様、ここは一体……?』
「わー? 人里……ではないよなぁ? 家ではあるみたいだけど」
確認すると、そこは森の中の開けた空間――というより、個人宅だった。
中世ヨーロッパっぽい可愛らしい小さな家と、庭が柵に囲われている。
庭は広く、家庭菜園をしているようだ。少しコミカルなカカシも立っている。まるで箱庭ゲーだ。
可愛く言えば『森の中のおうち』である。魔女でも住んでいるのだろうか?
あからさまに怪しく場違いなその場所。柵があるが越えてみようか、と思ったが、見えない壁があるのかゴンと手がぶつかった。
……まぁ柵だからね。越えられなくても仕方ないね。門が普通に見えてるし、そっちに回ってみる。
誰かいるなら道を聞けるかな、と。
「すみませーん」
声をかけてみるが返事がない。
最悪この門の向いている方向に歩くしかないか? 明らかに道はなく、森しか広がってないけど。
「すみませーん?」
「あ、はーい」
諦めずにもう一度声をかけたら返事があった。
ガチャリと家から出てきたのは、可愛らしい女の子だった。農家らしいデニムのオーバーオール、麦藁帽に素朴な茶髪の三つ編みのそばかす娘。あと胸も牛かと思うくらいあった。
そして、その後頭部には黄色い光輪が浮いていた。
「おお、もしかして……プレイヤーか!?」
「そういうあなたも!!」
どうやら『カイト・ア・ルイセ』プレイヤーのようだ。あ、あちらも音声入力のチャットだろうか?
「あ、ウチのホームまだ始めたばかりだけど可愛くないっすか? よければそちらのホームも見せてくださいっす!」
「ホーム?」
首をかしげる。ホームってなんだ? 家? いやまぁ見たところ家なんだけど。
「ごめん、まだ持ってないと思う」
「え? 『カイト・ア・ルイセ』って箱庭スローライフゲームっすよね? チュートリアルの最初じゃないっすか。終わらせてないんすか?」
「……ウチのチュートリアルと多分違う」
「えええ??」
はて? どうなってるんだ? と首をかしげる農家娘。
「このボクセルな感じ、間違いなく箱庭スローライフだと思うんすけど」
「ボクセル? え、美麗3Dアクションでしょ?」
「ははは。まぁピクセルリマスターくらいには美麗っすよね」
うん? なにか話が通じてない気がする。というか表示が違う……?
表示モードでも切り替えられるのかな、とコンフィグを探す――お、あった。切り替え。
「おー。本当だ、コンフィグ弄ったらボクセルな感じになった。すげー」
「え? うぇいうぇい。じゃあこっちも美麗3Dになるんすか? どれどれ……おおぉぉう、ちょっとまって。なにこの巨乳。ペンちゃん牛獣人か何かだったの?」
「ペンちゃん?」
「あ、こちらのキャラ名です。ペンペンっす」
「あ、ウチはトリアです。よろしく」
ペンペンって。ペンギンが好きなのかなぁって名前だな。とりあえず表示を見慣れた3Dモードに戻しておく。
「あの、よかったら上がってきます? 内装まだ全然で恥ずかしいんすけど」
「じゃあお言葉に甘えて」
俺はペンペンのお呼ばれでホームに入れてもらった。
……うん、ウチとゲームジャンルがちがーう。まぁ見たところ間違いなく生産職(一次産業)だし、そういうもんなんだろう。
生産職もいいなぁ。こういう自然に囲まれたスローライフ、いいかも。
「あ、よかったらお近づきの印に子亀の死骸いります?」
「子亀? っすか?」
「何匹も狩ったんで、素材剥ぎ取るなり肉食べるなり?」
「おお、モンスター素材っすね! 子亀ってのもお肉もまだ入手してなかったヤツ! いただけるなら喜んで!」
チャットからも嬉しそうな感じが伝わってきた。
やっぱり人の家に上がり込む時は手土産って必須だねー。
* * *
「へー。トリアさんは『大亀の生贄』ってシナリオだったんですね」
「ペンペンさんは『巨額の借金』ってシナリオですか」
情報交換したところ、ペンペンは借金返済のためスローライフとは名ばかりの牧場ゲーみたいなことをしているらしい。
怖い人に脅されつつもなんか猶予は貰えたらしく、借金が返せなければ身体で払え、らしいが。
……まぁその身体なら確かに払えそうだよねぇ、うん。
チュートリアルで『安全な拠点を作ろう』からのSPほぼ全額で『ホーム』を購入、今に至っているそうだ。
「スローライフなのに借金って……世知辛ぁ」
「え? 借金返済スタートはスローライフゲームではわりと基本ですよ? どうぶつシリーズの島を開拓するやつとか見たことありません?」
「……言われてみれば確かに?」
タヌキが借金押し付けてくるので、まず働かなければいけないのだ。
スローライフとはお金あっての話……!
「にしても、なんでそんなシナリオを」
「いやぁ、ゲームでくらいすんなり借金返せたら気持ちいいじゃないっすか?」
「あ、うん」
現実は違うのね、と察してしまうがスルーしておく。
「借金取りの人も『なるべく待ってあげる。ちゃんとお金返してくれれば問題ないから。物品買取するよ、なんでも売ってくれていいから。あ、借金の端数はサービスしとくね頑張って』って、とても優しい感じでしたよ。多重債務だったけど一本化してくれて利子もいらないそうで」
「なるほど、ゲームらしい借金取り」
「ですよね! 現実もこうだったらいいのに。端数サービスがあったら切り上げっすよ切り上げ。けっ」
やさぐれたモーションをするペンペン。こういうのもあるのか、と感心してしまう。
で、ゲームスタート直後に借金取りによって森に送られて来たらしい。ここで働けと。
一週間に一度確認に来てくれるそうだ。まだ2日目なので一度も来てないけど。
「ん? じゃあ人里ってここから近いの?」
「ええ。まだスタートでここに来てから一度も行ってないですけど。種とかも森で拾ってるし」
「よっしゃ! これで人里で冒険者登録できる!」
「ほー。冒険者登録? そう言うのもできるんすね。借金返済の足しになるかなぁ……」
指を口に当てて「ふーむ」と考えるペンペン。
一緒に行こうって話になるなら心強い。こちとら山の迷子ちゃんだからね……!




