――とある末路:生贄の村
その村には大亀様の伝説があった。
かつて日照りの折に大亀様に生贄を捧げ、雨を得るという成功体験を味わっていた。
その生き証人である相談役は、村長たちと共に心苦しい決断をし、村全員の子供と言っていい大事に育てていた少女を大亀様に差し上げたのだ。泣く泣く、仕方なく。あんなにも大切に育てていた子だったが。
村人たちは涙も流せぬくらい乾いていたのだから仕方がなかった。
少女も「村の為なら」と納得してくれていた。
皆で少女を大切に担ぎ上げ、山にある祠の前、祭壇に丁寧に飾り付けた。
指一つ動かさず決意を見せてくれた少女を置いて、涙を見せぬよう背を向けて大人たちはその場を後にしたのだ。
やぁ、あれは立派だった。
あの子は村の誇りだ。
大亀様という神に嫁いだ巫女。
きっとお役目を果たしてくれる。これでもう大丈夫だ。あの子に感謝しよう。
かくして生贄を捧げた村。しかし翌日、雨はまだ降っていない。
空はいまだに晴れ渡り、憎らしい太陽が輝いている。
「本当に、降るんだろうか……もしかして、ただあの子を魔物のエサにしただけなんじゃ……」
「しっ! 言うなよ、爺様に聞かれたら次はお前になるぞ」
「……すまん」
だが。しかし。もしかしたら。やっぱり――ダメだったのでは?
不安が再び村を支配しかけたその時。その頃合いで。
雲が出た。急な雲だ。
太陽が顔を隠した、そして。
「雨だ!」
ぽつりぽつり、しとしと。……たたたたた、ざあざあ! 雨! 待ち望んでいた、渇望していた雨!
ひび割れていた大地にしみこんでいく。
薄褐色だった畑が黒々と濡れていく。
しおれていた草が、潤いを取り戻して立ち上がる。
天からの恵み、いや、大亀様の奇跡!
「やった! 雨だ!」
「うぉおおおお! これで、これで生き伸びられる!」
「大亀様万歳! 大亀様万歳!」
先ほどまでの疲れも忘れ、雲に覆われた空を仰ぎ、大口を開けて直接雨を飲み込む。
癒されていく。水に。
それもこれも、大亀様に生贄を捧げたお陰だ。つまり、俺達が降らせた雨なのだ。
すべての生き物は生贄を捧げる決断をした俺達に感謝するべきなのだ。
そして、雨は三日三晩降り続け、村は十分に潤った。
「そろそろ止んでもいいんだが」
「そうだな。井戸の水も戻ったし」
「このまま雨が降り続けたら作物が根腐れしちまうかもな」
と、そんな風に思い始めたちょうどいい具合の頃、雨は止んだ。
大亀様は生贄が気に入ったのだろう。いや、気に入っていただけたようで。何よりだ。だからこんなにも都合のいいタイミングで雨が止んだ。
ああ。落ち着いたら生贄のあの子を祀った社を立てよう。このことを忘れないように。
自分達のやったことは間違っていなかったという証に。
雨が降らなかったらこうすればいいんだと子孫が思い出せるように。
将来のためにも、なるべく記録は正確な方が良い。
生贄は少女がいいようだ。男じゃダメなのか? 女の方がいいだろう。きっと大亀様は雄神であらせられる。
処女である方が望ましいだろう。……誰も手を付けていなかったよな? ああもちろん。流石になぁ。嫁に殺されちまうよ。そんな元気なかったし。
魔力はある方が良いに違いない。魔力量に応じて雨が降ったんじゃないか? なら多すぎても問題になるかも。となると少女が丁度いいんじゃないかな。儂の姉も同じくらいじゃった。相談役がそう言うなら間違いない。
いやぁ、大亀様ったら女好きなんだなぁ! 分かる分かる!
でもちぃとガキすぎたんじゃ? なぁに、そういう趣味だったのよ。
そんな風に大亀様に親しみすら勝手に覚えた。
生贄のあの子がみたら、なんと言うだろう。きっと、村が助かって良かったと言うに違いない。
だってあの子は、村のために自ら生贄に立候補したのだから――
……いつのまにか、そういうことになった。勇気ある巫女に乾杯!
そして。
そしてそれから数日後。村の前に大きな亀が現れた。
四つん這いで大人の胸くらいの高さのある、のっそりと歩く亀だ。
そんな大きな甲羅からにょきっと頭を伸ばし、ゆっくりと、頭を振ってこちらを見ていた。
こんなにも大きな亀は初めて見た。この亀こそ、大亀様にちがいない。
村人は大亀様に感謝を捧げた。
近くにあった草を刈り、食べやすいように積んで差し出した。
大亀様は優雅に頭を伸ばし、それを口にした。
はぐ、はぐ、と草を食べる大亀様。
おお、お食べになられた。草を好むようだ。
なんと神々しい御姿か。凛々しい。かっこいい。素敵だ。
いやぁ、今後もよろしくお願いします。どうかこの通り!
村人達がそう言って大亀様をもてなすと、大亀様は「ぶもぉぉおぉ」と、牛馬のような声を上げた。
ああ、きっと感謝に対する礼だろう。村人は拝した。手を合わせて祈った。
大亀様は、来た時同様、のっそのっそと歩いて、山へ帰っていった。
満足されたのだろう。よし、これも記録に残しておかねば――
――そして、村は以降の記録に存在しない。
おそらく生贄やおもてなしが大亀様に気に入られ、その褒美として皆で飢えも苦しみもない神の国に招待され、以降幸せに暮らしたに違いない。
めでたしめでたし。
(ハッピーエンド大好き!
皆さんのコメントも大好き! ちゃんと全部読んでますわよ…!)




