とある受付嬢エルフの秘策
「王族案件……」
受付嬢のエルフは、ごくり、とつばを飲み込んだ。
王族からの指名依頼。それだけならば、まだそのまま通常通り処理すればよかった。通常通り仕事するだけで良かった。
しかし、その指名相手がよりにもよって『精霊憑き』の3人であることが――この仕事の難易度を莫大に上げていた。
……王族依頼。断るには相応の理由がなければならない。
例を挙げよう。
大怪我を負っていて対応できない――という理由でも基本は断れない。
この場合は治癒師を手配してでも受けさせることになる。
死亡しています、治癒師でもお手上げな欠損があり動けません、くらいでなければ拒否はできない。
なにせ相手は王族なのだから。
諸々経費で依頼料に上乗せにはなるが、そのくらい払うのが王族である。
既に他の依頼が入っています――という理由でも断れない。
別の冒険者をあてがって、その分の報酬だって補填するよう手配される。
既に連絡がつかない秘境に行ってます、であっても、その連絡をするための冒険者を雇い連絡して話を付ける。
なにせ相手は王族なのだから。
諸々経費で依頼料に上乗せにはなるが、そのくらい払うのが王族である。
友達の結婚式がある――なんて理由では当然断れない。
参加者全員に話を付ける。ニッコリ。ちょっとコッチ優先させてもらってもいいか? それともお前王族より偉いんか?
まぁその分結婚式の会場もより良い場所手配するし、費用も全部こっちで持つよ。ということになるのでこれはむしろ喜ばれたりするわけだが。
なにせ相手は王族なのだから。
諸々経費で依頼料に上乗せにはなるが、そのくらい払うのが王族である。
まぁもちろん限度はあるので、多少は王族側が折れることもある。2、3日待つくらいはいいとか、相手が断るなら別の方に、とか、そのくらいはあらかじめ伝えられている。
一応この王族案件も、依頼受注まで1カ月もの猶予期間が設けられていた。相手が精霊憑きということもあり、最大限考慮された猶予だった。
だったのだが。
「SP依頼じゃないっすね。パスっす」
「だぉねー。今はボクらSP依頼しか受ける気ねぇぉ」
「……そうですかー。ええと、それでは気が向いたときにいつでもお声がけくださいね」
しかし精霊憑きは。そう、精霊憑きは、そんな王族依頼を鼻で笑って放置すらする。
その気が向くのはいつになるか、それは精霊憑きたちの気まぐれである。
SP依頼というのは、いつの間にか紛れている不思議な依頼で。一応冒険者ギルドの依頼テンプレートに則って書類があるので通すものの、気が付けば消えていたりする不思議すぎるもので。確かに彼女たちは最近その依頼ばかりを受けている。
ああ、王族もSPとやらを報酬にしてくれれば依頼を受けてくれただろうに……
「まぁメインシナリオっぽい依頼だから気が向いたら受けるかぉ」
「こういうのって受けるまでずっと残ってるからなぁ」
その言葉を聞いて、ハッとエルフの受付嬢は思い出した。精霊憑き達をその気にさせる魔法の言葉を。
マニュアル103ページあたりに書かれた切り札のキーワードを!
だが本当に効果があるのだろうか、と、恐る恐ると小さく手を上げてその言葉を口にする。
「……あ、あのー。こちら、き、『期間限定いべんと』となっておりまして、受注できる期間には限りがあります」
「む!? 期間限定っすか!」
「流れ変わったな。話を聞こう」
「そうだぉね。ちなみにいつまでやらなくても大丈夫なやつだぉ?」
ほ、本当に食いついた!?
マニュアルは正しかったんだ! と若干の感動を覚えすらする。
というか、普通に依頼というのは大体期間限定である。そうでないのは常設依頼か、誰も受けず依頼主も半分諦めているような塩漬け依頼だけだろう。
本来はいついつまでに何かが必要だから、と依頼を出すのであって……期間限定なのだが……理由は不明だが、マニュアルは正しかった。正しかったのである。
だがその後なぜか一人だけで王都へ向かうという話になって。
残りの2人はギルドにある通常依頼を張り切って片付けまくり始めて。
そ、そんなのいいから王族案件の依頼を受けてくれませんか!? と叫びたくなったものの、1人が受けてくれただけでも御の字であり、ギルドの通常依頼が片付くのも助かるので何も言えず……いや王族案件だから言わないとなのだけれども……他の人が手を付けなかった依頼とかガンガン受けて片付けてくれて……
ま、まぁ、きっと、1人で十分だという精霊憑きの判断に違いない。私はやれるだけやったし、あとはギルド長に判断をぶん投げよう。きっと必要ならギルド長が説得してくれるはず……あ、失敗しても町に被害が出ないようにお願いします。マジで。下手に刺激しないでくださいね。マジで!
と、受付嬢のエルフはギルド長に責任を押し付けることにした。




