第97話
「借金の半分が返せたっす」
「……ゲーム内の?」
「それはもう返せてたはずだぉ?」
「いやリアル借金っす。やべぇっすわお肉」
ペンペンが肉を売り始めて数日。あれからちゃんとSPで注文した肉は全部分届き、1枚をNPCの商人さんに差し入れる余裕まであった。
「ペンペンの借金がいくらかは知らないが、そんなに稼げてるのか……!?」
「もうこれが本業でいいんじゃないかってくらいに稼げてるっすね」
「マジかぉ……!?」
「さすがにゲームの景品依存の本業なんてできないっすけどね」
「それはそう」
動画投稿サイトの広告収入よりも不安定すぎるわ、それは。
「なので今のうちに滅茶苦茶稼ぐしかないなって……当面はSPで成長することなしにステーキにつぎ込むっす! ってかお肉いっぱい食べ放題!」
「くっ、それはそれで羨ましい!!」
「まぁもしこのまま借金が返せたら止めるっすよ。うん……ギンちゃん、今日もSP依頼宜しくっす!」
「かしこまりました、お嬢様」
ギンちゃんがSP依頼を受けに出かけて行った。
「ちなみにそれと少し関係ある話なんすけど、ペンペンミルクが凄い売れ行きっす!!」
「ペンペンミルク……ほう。なるほどだぉ?」
「ちがうっす、私のおっぱいじゃなくて、この牧場で売ってるミルクっすよ?」
「わ、わかってるぉ?」
凄い売れ行きらしい。
「商人さんが貴族や王族に商品を売り込んでくれたみたいで、ミルクの単価が上がったんすよねー。牛も増やしたっす!」
「ほほう」
「生産力アップだぉね」
ちなみにミルクについては、牛から搾ると缶のようなミルクタンク1本分とれて、こいつからは100本のミルクがとれる。
「そんで、やっぱり貴族とか王族に売るにあたって普通のパッケージとは差別化するべきだと思って、こういうのを作ったんすよ!」
「これは?」
「ぉ? スクリーンショットとるアイコンのやつだぉね」
「カメラっすよ! ゲーム内で使うには物理的なカメラが必要なんすよねー」
そう。それは、カメラだった。クラフトで作ったのだろう。
「ほほう。で、これを?」
「これを、こうっす!」
カメラのボタンを押すとパシャリと効果音が鳴った。ジー、とスクリーンショットらしき紙が出てきた。
そこには俺、トリアの姿が映っていた。おお、可愛い。天使か。うんうん、綺麗にプリントされてるなぁ。
「で、これを設定でこうして、こうっす。すると――」
スクリーンショットのプリントされた紙をペンペンが取り上げてちょいちょいと操作する。
「クラフト、ミルク!」
ぽんっ! とミルクが出てきた。そしてそこのラベルに先ほどのスクリーンショットの紙が貼られていた。
「いえーい! トリアミルクっす!」
「おお! なるほど、これはアレだな? 『私が作りました』の生産者表示か!」
「ペンペンが『私が作りました』っていうと意味深だぉー」
言うてやるなよ。俺も思ったけどさぁ。
「というわけで、私を撮って欲しいんすよ!」
「オッケー把握した。ペンペンの撮影会ってことだな? 売れそうなパッケージにしようじゃないか」
「なるほど把握したぉ。ペンペンの撮影会(意味深)だぉね!? 牛柄ビキニを装備するがいいぉ!」
「……トリア氏に頼むっす!」
「なんでだぉ!?」
おいおいアルト。露骨すぎると逆に売れないぞ、これは食料品のオマケみたいなもんなんだから。
「食品なんでエロ売りはちょっと。普通に品質で勝負できるミルクなんで」
「うぐう! 確かにネタ商品は1本買ったらそれで満足してしまうかぉ……広く浅く売るにはともかく、継続して買うならちゃんとした方が良いかぉ」
「そういうことだぞアルト」
むしろエロは正当な食料品とは相性が悪いのだ。
女子供も買うんですよ? あまり露骨だとクレームが来るだろうがよ。まったく世間知らずな営業だぜ。
「んじゃ、牧場仕事してるシーンを撮ってよさそうな奴を選ぶか」
「頼むっす!」
「任せとけ。じゃ、まずは1枚。正面からのワンショットを」
オーバーオールの普段着なペンペンをぱしゃりっとな。
その後、大きなフォークで藁をブスブス刺してるところや、牛の乳しぼりをしているところも撮ってみた。
「……うーん、普通だぉー」
「こういうのは普通でいいんだよ。普通ってことは、洗練されて普及してるってことだ」
芸術作品じゃないんだから、普通がいいんだよな。
とはいえ――
「……1枚くらい牛柄ビキニ撮っておくのもいいんじゃないか、ペンペン?」
「む、トリア氏がそう言うってことは、何か意図があるんすか?」
「SSR――ごくまれに紛れる激レア。そういうものに、人は惹かれるんだよ」
「ガチャ……ってコトっすか!! なるほど、そういう事なら話は別っす!!」
そう。
SSRは脱ぐ……そういうやつなのだ!!
「じゃあここからはボクがカメラ交代だぉー!!」
「まぁSSRの大当たりってことなら納得っすからね。排出率何パーセントにするっすかねー?」
尚、最終的にSSRとして、上半身牛柄ビキニでミルクタンクを運んでいるペンペンのラベルが採用された。
……
そして意気揚々とラベル付きミルクを商人さんに納品しようとしたペンペンだったが……
「あの、こういうのは別にいらないと思うので……」
「え、いらないっすか!? SSRっすよ!? お貴族様に高く売れないっすか!? 箱買いしないっすか!?」
「……たまに紛れ込むとなると……妻子持ちのお貴族様が、とても気まずい思いをすると思います」
「あー」
爽やかな朝が冷ややかな朝になってしまうこと請け合いだろう。
「……じゃあ別枠で捌いちゃってくださいっす」
「まぁ、それで良いのであれば……」
……一応、数量限定で引き取られることとなったそうな。




