第95話
「…………ッスー……」
「ペンペンおかえりー。戻ってたか」
「あー……ただいまっす」
マハリクさんのSP依頼を終えて戻ってくると、ペンペンも戻ってきていた。
その表情は恍惚としている。
俺には分った、どうやらステーキが届いていたに違いない。
「どうだった、リアルのステーキは」
「…………リアルがリアルじゃなくなったかと思ったっす」
「それなーーー!!!」
そう、ゲーム内で食べたお肉が、そのままの味と食感が、リアルに届くのだ。
そして今ここは、食べた側と、食べていない側とになった。
「あれは……現実なんすかね?」
「現実だぞ」
「……現実っすかぁ。ちなみに私、2個、頼んだんすよ」
「ほう……2個、頼んだのか」
「ちゃんと2個届いたっす」
なん、だと……!?
この新情報にはマハリクさんも目を見張った。
「へぇ。つまり……2回キャンペーンに当選したってことね」
「いや普通にキャンペーン関係なく届く可能性があるってことだぉ?」
「……先着順の可能性もあるかしら」
「だったらボクらも早くホーム取得してステーキ食わないとですぉね」
うんうん、俺としてはこれが先着キャンペーンとかじゃなくて恒常イベントであることを祈るばかりだ。
なにせそこらへんの周知もないわけだし……
先着サービスなら先着サービスって告知があっておかしくないはずだし……
HP見ても相変わらずよく分からない動画しかないようなもんだし……あ、お問い合わせフォームとかはあったか、一応。
「公式がなにも言っていない以上、これはずっとあると信じてる……!」
「でもそんな高級肉なんて、このゲームの値段より明らかに高いじゃない。ずっとやってたら採算とれないでしょ」
「それは色々と今更じゃね?」
「むしろ課金させるぉ! と声高らかに叫ぶ次第ですぉ」
運営が潰れてこのゲームが無くなったら困るもんな……
でも潰れるも何も、技術力的に明らかにオカシイから本当に今更なんだよな。
「私、初期購入した以外無課金なのにこんなすげー肉貰っちゃっていいんすかねぇ……思わず2枚目にすぐ手が伸びるところだったっす」
「その2枚目の肉は後日食べるのかぉ?」
「あー……ホントはあんまり良くないんすけど、転売して借金の支払いに充てるっす」
「……入手経路がバレたらこのゲームに肉目当てのヤツがプレイしになだれ込みそうね。……それはそれでどんどん盛り上がるのかしら? 一応はキャンペーン成功ってことになるかもね」
「だとしても普通に赤字になりそうですぉね。肉目当てで始めたやつは、肉貰えなかったら止めるだろうし……あ、最初に買い切りだから関係ないのかぉ?」
まぁ俺達はVR目当てでやってるわけだけど。
携帯端末から超リアルなフルダイブVRできるゲームとか他では絶対ないもんな! いやマジで。魔法だよね。俺の知ってる科学で説明できないのでもはや全部魔法でいいよ。
「運営は何を考えてるのかしらね……」
「ぉー……考えられるのは別でデカい収入があるとかですかぉ? 新技術のテストをゲーム内でプレイヤーにやらせているから、その分プレイヤーに還元できるとかですかぉね?」
「あ、それ有り得るな」
「別のデカい収入って何よ。そんなテストした覚えは……」
不意に黙って考えるマハリクさん。
「……新技術、ね。確かに言われてみれば、私のVR端末でプレイログが残らないのは新技術だわ。セキュリティ的なハック技術のテストかしら」
「既存のセキュリティソフトでは見つけられないセキュリティホールがあって、色々情報を抜いたりしてるとかですかぉ? 怖いですぉね」
「……そういうデータベースへのアクセスも全く残ってないのよ。社員寮自慢のセキュリティが何の反応もできずに素通り、というのは物理的にあり得ないはずなんだけど」
社員寮のネットワークを使用して外の情報を見るには、物理的に専用サーバーを経由する必要がある。しかしログではVR関係のログが一切残っていない、とのこと。
例えるなら、蛇口に付けたホースを途中でちょん切って板を挟んだのに、なぜかちゃんと水が出るような感じ。
板を見ても穴は開いていない。濡れた後すらない。そんなレベルの話だ。
「……今からでもこのゲーム辞めた方がいいのかしら」
「それ、イチちゃん達がどうなりますかぉね?」
「むしろそこで話聞いてたロクちゃんが既に顔真っ青なんだが?」
「くっ、卑怯な!! 辞められるわけないでしょう!? 鬼! 悪魔! ちひろ!」
だよね、辞められないよねこのゲーム。キャラクターが本当に生きているみたいなんだもの。
あとちひろって誰だよ。
(だれですか「鬼と悪魔に謝れ」って思った人は!?
先生黙っておいてあげるから正直に手を上げなさい! ノ )




