閑話:ゲーム内で小説を読むための致し方ない犠牲
小説、物語を楽しむために、精霊様はその物語を口頭で話し聞かせることにした模様。
そのための場所として静かな部屋を用意し、トリアとアルトは2人きりでその部屋に入った。
「それじゃ、フレンドチャットで話すので黙って聞くように」
「ぉー! 準備はOKだぉ!」
「スゥー……『タイトル:魔王様、この中に裏切り者がいます! 魔王、アル・ビトレイ。彼は世界を相手取り、戦争を仕掛けていた。そして今日はその戦況についての魔王軍最高幹部会議の日。魔宰相:リー・ウラギ。魔神官:シーン・ハイ。魔大将軍:ウシャ・ナイツ。四天王:地のホーン・ム、水のダッツ・サン、風のクー・ミッコ、火のガエリ・ネ。8名の重要人物が集う会議に、1つの重大な報せが入った。「魔王様、この中に裏切者が居ます!」……果たして、裏切者は誰だ――』」
そして、怒涛の発言が始まった。
トリアの口は止まることを知らず、1話分、わずか数分で2500字弱の物語を語った。
その口は、コンマ1秒たりとも停止することなく正確に回り続けた。
音量も一定に。完璧に。
「――ガエリ・ネは、魔王に命じられた兵士の手で牢屋へと運ばれていった。ドラゴンと言えど決して逃げ出す事の出来ない魔王城の地下牢へ……』……以上、第一話。どうだ!?」
「……ログ確認、成功だぉ!」
「っしゃ! やった!」
「あ、余計な発言するなぉ、ログが流れるぉ!」
「……! 音声認識が勝手に走るのはこの場合はいただけないな……っておっと」
口を押えるトリア。
「!……ログが流れる前に文字に起こせば、後からでも読めるぉ」
「それだ、文字起こししてもらおう」
「アルトちゃんログ見れるかぉ?」
「半分から後ろはトリアちゃんに頼めるかな?」
『ろ、ろぐとは? すみませんわかりません』
『……同じく。あとトリア、文字かけないです』
「そうきたか」
「識字率ぅ……だぉね」
書けないモノは仕方ない。
ログが消える前に読むか、読み聞かせたものを誰かに書きとらせる。そんなところだろうか。
とりあえずは一旦、ログが消える前に読むことにした――読んだ。
さて、次は2話目である。再びVRモードを解除して入力をどうするか相談する。
「ってか、毎度トリアちゃんが語ってたら喉がいかれちまうな」
「ならボクらが光輪になったら良いんじゃないかぉ? どうせフレンドチャットで話すぉ?」
「あ、そうだな。そっちの方が喉を傷めなくていいな」
というわけでオートモードに切り替え、光輪状態でのチャットを送ることにした。
『いくぞー。スゥ……「嘆かわしい。四天王のくせに勇者に敗北していたとは」「ケケッ! 所詮は力しか能のナイ四天王最弱……」「まったく、あのドラゴンは四天王の面汚しでしたわ。……新しい火の担当を決めねばなりませんね」やれやれと嘆いてみせる残った四天王達――』
「ぴぎっ!?」
「ひゃっ!?」
と、今度はトリアとアルトが声を漏らし、中断。
『ちょちょ、どうした二人とも』
「あば、あばば……命令が、えと、新しい火の担当を決めなきゃ?」
「す、すみません精霊様。頭に大量の言葉が……眩暈が……」
『あー。そういう感じかぉ』
オートモードでは、精霊の言葉は命令となる。
つまり、トリアにとってはペーストされた文言――小説のセリフや本文が、全て『精霊からの命令』となってしまうのである。
これは非常にまずい。
そして、聞く側だけのアルトでも、一瞬にして大量の言葉を聞かされたのである。思わずビックリしてしまうのも無理はない。脳に直接小説を流し込まれたらそれはまぁ驚いて当然であるし。
『うーん、色々失敗だなぁ』
『文字をかける人に話して聞かせて文字起こし、からの本にしてもらうのが一番無難そうかぉ』
『手間が過ぎる……うーん、だがほかの手段はない、か』
一応1話目は読めたので、完全に失敗したというわけでもない。
が、成功とも言い難い。
改めてVRモードに変更して、相談することにした。
「書きあげてもらう分、読み聞かせもペース考慮しつつやらないといけないよなぁ」
「完全に正確な文章は無理そうだぉねー」
「いっそゲーム内の本屋探す? そこで本買った方が早いかもしれない」
「ぉっぉっぉ、それはそれで見ものだぉ。積み本は消化できず、新たな罪が生まれそうだぉねー」
『あ、あの』
『精霊様。少し、お願いが』
「ん? 何?」
「だぉ? 珍しいぉね」
精霊憑き2人が恐る恐る要望を告げる。
『……トリアは先ほどの物語の続き、気になってます。教えてください』
『裏切者がまだ居るんですよね、魔王軍はどうなってしまうんですか!?』
「……あー、そう来たかぁ」
「これは仕方ないぉね。トリア。アルトちゃんたちに続きを話してあげるがいいぉ!」
その後、最初の方法でなんとかこの話は一通り精霊憑き達へ語られることになった。
トリアの喉はダメージを負ったがライトヒールで無事回復した。




