第93話
別室で『美味しいステーキ』を食べたペンペンが戻ってきた。
「ぼへぇ……」
「ちょっとペンペン、しっかりしなさいペンペン! アナタ凄い顔になってるわよ!?」
「あー、『美味しいステーキ』が美味しすぎたか」
「美味しすぎたっすー……あんな美味しい食べ物があるなんて、VRならではっすねぇ……」
恋する乙女のような表情でつぶやくペンペン。
まぁその相手はステーキ肉だけど。
「いつかあんなステーキ作れるようになってくれペンペン」
「無理っすよ、と思いつつも、料理スキルの邁進を心に決めざるを得ないっす。牧場でお肉を育てるところから拘れるっすからねぇ」
そうか。ペンペン牧場でお肉から育てるというのもできるのか。新鮮な乳製品とかだけでなくお肉まで……なんというコンボ。
とはいえ、家畜をどう加工したらいいかなんて全く分からんが……まぁゲームだし何とかなるだろう。
「知ってるかしら? お肉って熟成させると美味しいのよ。生成肉では関係ないけど、酵素がタンパク質を分解して旨味成分が増すんですって。なのでお肉に加工したあと数日冷暗所で吊るしたりしたのよ」
「へぇ! それは良いことを聞いたっす! マハリクさん物知りっすねぇ」
「フフフ、まぁね。あ。あと昔はスーパーってところで熟成済みのお肉が平然と売られていたのよ」
「す、スーパー……名前の通りスーパーなお店だったんっすねぇ」
「しかもそのスーパーっていうお店が一つの町にいくつもあったのよ!」
「全国チェーンってやつっすか!」
いやまて? スーパーってチェーン店の名前じゃなくてコンビニみたいな店舗経営形態の話だよね?
っていうかまだ普通にあるだろスーパー。ネットスーパーとか。天然肉はそうそう売ってないけど、なんでスーパーが既に消えた存在扱いみたいな話になってるんだ……
「アルト。スーパーってまだ普通にあるよな?」
「マハリクさんって箱入りエリートだから庶民の事情に詳しくないんだぉ。ちなみにボクも昔は箱入りだったぉ。今は別の意味で箱入りだけどな!」
「はっはっは、ナイスジョーク」
エリートかぁ。確かにマハリクさんってそれっぽい感じあるわ。
「じゃあペンペンは?」
「マハリクさんに話を合わせてるんじゃないかぉ? そっち系のお店で働いてるらしいし」
なるほど。マハリクさんのエリートな雰囲気がペンペンの職業魂を刺激してしまったか。
知ってることを知らない風に話して話を促す高等テクニックな口頭テクニック……やはりペンペン、天才か。
「昔はレバサシといってね、生で肝臓を食べるのが最も美味しいとされていたのよ」
「生肉っすか!? 死ぬっすよそんなの!」
「ええ、当然健康被害があって、それで規制されてしまったのよ。悲しい事件だったわね……」
そして肉の話から発展したのか、マハリクさんとペンペンがなんかそんな会話をしていた。
レバサシ……なんだそれは。
「ちょいまつぉ。それはさすがにマハリクさん生まれる前の話だぉ? なんで知ってるんだぉ? 実は年齢詐称……?」
「あらアルト。過去再現のVRソフトって結構あるのよ? 『The・江戸』とか『修学旅行シリーズ』って遊んだこと無い? VRリメイクされた『ライク〇ドラゴン』なんて色々最高よ?」
「なかったですぉ」
「あなたたちせっかく味覚まで再現できるVR持ってるんだから、色々やってみなさいよ。元とらないと損よ」
うん? 俺はVR機器って先日届いて未開封の携帯端末をセットする箱しか持ってないが?
あ。もしかしてマハリクさんって……携帯端末でVRモードができること、気付いてない?
逆に言えば、普段からハイスペックなVR機器使ってるってことかぁ。
……
うん、別にゲームするのに支障なさそうだし、教えなくてもいいな!
「そうだペンペン。セカンドチャンスがあるのを忘れてないか?」
「……ハッ! そうだったっす! リアルで届くかどうか……ちょっと見てくるっす!」
そう言ってペンペンはそそくさと操作し、リアルへ荷物が届いていないか見に行った。残されたペンペンちゃんが気まずそうに笑顔を浮かべ、そそくさと部屋の隅へと移動して座った。
「ねぇ、これで本当に届いてたら怖くないかしら?」
「ですかぉ? 別に、荷物が届くくらい普通ですぉ」
「キャンペーン用とかで住所登録もしてあるしな。何の不思議もないよ」
「だとしても、配達が早すぎるでしょ。今使用したばかりで即届くなんてどんだけ高性能な配達ドローンなのよ……ペンペンまだ戻ってこないのかしら?」
「届いてたら2時間は帰ってこないと思うよ、食べるだろうし」
急いで開封して調理、食べるのに10分くらいとして、ゲーム内だとその10倍、100分は戻ってこないだろう。余韻に浸る時間を含めたらさらにさらにだ。
「……今のうちに冒険者ギルドに行って依頼見てこようかしら。SP依頼はどこのギルドでも同じものが見れるのよね?」
「ですぉ。ボクも次くらいでホームとれるし同行しますかぉ。案内しますぉー」
「俺も行こうかな。ペンペンちゃん、ペンペンが戻ってきたらそういう感じで出かけたって伝えといて」
「ひひゃ!? は、はい、う、承り、ました……」
というわけで、俺達は3人でギルドへ向かった。




