第91話
う、美味すぎる、暴力的だ……ッ!
という感じで、ステーキを食べたという結果だけが残った。
いや、記憶も経験も残ってるか。
味も、ゲーム内で食べたそのまんまのステーキだった。ていうか天然肉だった。
え、リアルで? まじかぁ……リアルで天然肉食っちゃったかぁ……リアル天然肉だよなぁ?
……うん、歯ぁ磨くのも惜しいくらいだが、虫歯にはなりたくないし泣く泣く磨いて寝ることにした。
明日仕事中に同僚に自慢してやろっと。スヤァ……
『ちょっとしたホラーだぉね……夢でも見たんじゃないかぉ?』
「かとおもったけど、朝起きたらダンボールと『美味しいステーキ』の紙弁当箱ゴミが残ってたんだよ」
『夢じゃなかったかぉー』
「思わずゴミを舐めたくなっちまったが俺は悪くない」
『マジかぉ。ってか、そこまで美味しかったんかぉ?』
「そこまで美味しかったんだよ……」
SPを使って手に入れる価値がある。そして、リアルでも食べられる。なんという神アイテム、『美味しいステーキ』。
「同僚も手に入れたらどうだ、『美味しいステーキ』」
『……そろそろホーム取れるからその後だぉね。ってか、『ご褒美パンケーキ』ってのもあったはずだぉね。そっちもリアルで来るのかぉ?』
そっちも可能性あるな……ごくり。
『てか、深夜に配達した上で冷凍食品を置き配ってのは色々マズくないかぉ?』
「まぁそこは俺が起きてるタイミングをゲームが見計らった可能性が……」
『それはそれでどういうことなんだぉ……?』
言われてみればホントどういう事なんだろうな???
「それもともかくとして、明らかにあれだ。コンビニおにぎり5個分の元を取ったどころじゃない一品だったよ」
『そりゃ、天然肉のステーキ1枚は流石にコンビニおにぎり5個なんて値段じゃねぇぉ。マジどうなってんだぉ? 全員が初手ステーキ頼んだら大赤字しかねぇぉ』
言われてみれば。このゲームの元の値段、おにぎり5個……そんなもの、天然肉1枚で大赤字になってしまうだろう。
「つまり……実は天然肉じゃなかった……?」
『同僚は『カイト・ア・ルイセ』のVRモードでしか天然肉食べたことないぉ? 実は新製品だった可能性が……いや、でもそんなに美味しいなら下手すりゃ天然肉より高くなるかぉ』
「だ、だよな。そしてアレは天然肉に違いないと俺は信じる。信じてる……!」
まぁだとしても、やっぱり大赤字なことに変わりはないはずなのでゲームの存続が気になって仕方が無くなってしまう所存。
いやだぞ『カイト・ア・ルイセ』が赤字経営でサービス終了とかよぉ!
「課金……っ、もっと課金しなきゃ……っ!」
『課金させるぉおおーー! ってなるぉねぇ。課金できないのがマジ辛いぉ』
「サ終したらどうなってしまうんだ……もう前の生活に戻れないぞ?」
『金出す価値がありすぎるぉね』
なにせ仕事したあと次の仕事まで3日もゲーム内でゴロゴロできる生活なのだ。
休日に至っては一週間以上に増加する。
いやマジでアニメや漫画をどうにかしてゲーム内に持ち込みたいんだが……
「そういえばマハリクさんはどうなんだ? 制限解除コード手に入ったの?」
『まだみたいだぉねー。手に入れたら絶対言ってるはずだぉ。存在自体は教えてるから運営からのメールを心待ちにしてるにちがいないぉ』
制限解除コードは運営からメールで送られて入手したもの。何かしらのタイミングで一斉送信だったとしたら、当面は手に入らないかもしれない。
……
ハッ! 閃いた!!
「そういや、このゲームって設置端末でもプレイできるんだったな!?」
『え、できるぉ。ってかボクは設置端末でやってるぉ?』
「ゲーム内でフレンドチャットとかログ見れるじゃん?」
『見れるぉね』
「小説ならチャットに送ればVR内でもログ読めるんじゃね!?」
『!! 同僚頼む、スクリプト組んでくれぉ!』
「おうさ! つーかゲーム内でメールが使えればもっとよかったんだが……!」
チャットログの表示限界もあるので、1話分読むごとにVRモード解除して送り直して、くらいのペースになりそうだが。
『天才現るだぉ! さすが同僚、天才エンジニアだぉ!』
「フッ。人類は古来よりあらゆる手段で情報を伝達していた。モールス信号ですら文字を送れる。チャットなんてできるなら、小説くらいゲーム内に送れて当然……!」
これを発展させれば、ピクセル単位での情報を伝達することで絵だってゲーム内に送れないこともない……ハズ!
ただしあちらで再構築するのに無茶苦茶時間がかかるだろうけど。
「うーん、絵を送るのは難しいか。オセロみたいな白黒のドット絵ならまだ時間かからず行けるかもしれないけど」
『同僚。絵を送るなら――AAって知ってるかぉ?』
「何? AAとは、つまり、文字で絵を表現する技法だったな……ハッ!?」
AA。それは顔文字をさらに発展させ、イラストすら文字の形状を組み合わせて表現する。
そしてそう。文字は、送れるのだ。
それは俺達にしか見えないが、送れるのだ!
『AAにしたイラストを送って、その文字の線をあっちでトレースすれば……』
「色々と制限は大きいが、リアルから絵を持ち込める!? いける……いけるぞ!?」
小説と、絵を、なんとかゲーム内に持ち込めるということだ。
これはゲーム内でのオタ活が捗ってしまうなぁ! なんなら現地の絵師に清書してもらうなんてこともできちまうぜ!
『ボクももう少しでホーム取得するから、オタ部屋を構築するぉ……してみせるぉ! 時間はあるぉ!』
「あ。でも一応利用規約確認しとかないとな。マクロとかスクリプトが禁止だったら規約違反になっちまう」
『おっと、それは大事だぉね。万一BANされたら目も当てられないぉ。……利用規約の確認、リアルでやると時間無茶苦茶かかりそうだぉねぇ』
「ゲーム内に最初に送る長文は、利用規約になるか……?」
そして、俺達にとって幸運なことに、利用規約的に何も問題がなかった。
このゲーム、なんとマクロやスクリプトの禁止事項が存在していなかったのである。普通はネトゲでは使用を禁止されていることが多いんだが……まぁラッキー? としておこう。
尚、普通に文字列検索を使えるので、利用規約の確認はリアルでした方が早かった。
文明の利器ってやつは10倍の速度程度なら軽々超えるんだわ。
(※小説サイトからコピーするのが小説サイト側の規約違反になる可能性があるのでマネしないようにしましょう)




