第79話
「って、もうギリギリ。そろそろ私寝るから落ちるわね!」
「はいですぉ! 今日はご馳走様でしたぉ!」
「お詫びだから気にしなくていいのに。あなたたちも程々で休むのよ、平日なんだから」
ん? と思ったところに、ペンペンが口を挟む。
「マハリクさん、制限解除コード使ってない感じっすか?」
「制限解除……? なにそれ、非公式MODの話? BANされたくないしそういうのはちょっと。ローカルゲーならいいけど曲がりなりにもネトゲでしょうコレ」
「公式からメールで来たやつっすから、そこは大丈夫っすよ」
「そうなの? ならあとでメールチェックして、あったら明日にでも試してみるわ。じゃあまたね」
そう言うと、マハリクさんは消えた。
制限解除コードの説明も聞かずに。……これあれば一晩が3日に増えるのになぁ。怪しいのは確かだけど。
「……ん? マハリク氏消えたぉ? なぜだぉ?」
「え? 別にログアウトで消えるとか普通だろ、ゲームなんだから」
「……ボクらはオートモードに切り替わるぉ?」
「ワープでも使ったんじゃないっすか? 落ちる前に部下に指示出しにいったとかで」
「あ、そっかぉ。そうだぉね」
まぁそんなもんだろう。不思議でもなんでもない。
「それはそうとすっかり遅くなっちゃったけど、あの商人とこ顔出しとく?」
「やっべ。すっかり忘れてたぉ」
『はいはーい! あたしが案内するよ! そこの角をちょくしーん!』
角は直進できないと思うなぁ。壁抜けしろってか?
あ、ミーティちゃんなら普通に壁登って進むのか。そうか。
* * *
店で色々やり取りをして、ホームを置いて一晩寝て、そういえばこのスリアドに来た目的について思い出す。
いくつかある目的のうち、2つは既に達成している。
ファストトラベル先の登録と、新たなプレイヤーの発見だ。
なんならマハリクさんもホームがあったら繋いどきたいところだね。
そうすればまた別の町に遊びに行けるもの。
……あれ? そういえば俺達がこのままマハリクさんが来るまで待ってたら、外との時間差ってどうなるんだろう。
こっちで数日マハリクさんが来ないことになるのか、それとも俺達にとって未来のマハリクさんがここにきてしまうのか……後者だと怖いな。なんか世界崩壊しそう。
「マハリク氏も他プレイヤーに会ったのは初めてってことだったぉ。やっぱプレイヤーは町単位ではあんまり動かないっぽいかぉ」
「このゲーム、死んだらロストっすから。冒険そんなしないってコトっすかねー」
「ゲームなのに冒険をしないとはこれいかに」
「ゲームでも旅して冒険するとは限らないっすよ。マハリク氏とか経営ゲーじゃないっすか」
「だぉね。あとWiki見ると町から離れて冒険をしたやつは結構死んでるイメージだぉ。地図作ろうとしてた人とか」
かく言うアルトも当初の町からは飛び出ているわけだが。多分俺も。
そしてツードンについても町を全部堪能しきってないし、まだまだ遊べそうだし。遊びつくしていない以上、移動する理由は薄くて当然だ。
「今日は私、魔法屋にゴーレム魔法あるか見てくるっすー!」
「いってらー。アルト、俺達はどうする?」
「んー、冒険者ギルドでも行って面白そうな依頼がないか見てみるかぉ」
「……マハリクさんのエリアで勝手に依頼やって怒られたりしないか?」
「え? そもそも冒険者ギルドの依頼って自分以外の誰かが勝手にやるもんだぉ?」
「そういやそうだった」
そもそもシステム的にも依頼は勝手に補充されるだろうし、いちいち気にすることじゃなかった。
「んじゃ、この町の冒険者ギルド行きますかね」
「だぉー」
というわけで、冒険者ギルドへやってきたのだが……
「ひぃ!? 『何でも屋』!?」
「たす、たすけ、俺が悪かったぁあああ! なんでギルドにきたんですかぁあああ!?」
「お、おがーーぢゃーーーーん!!!」
……んー! なんか盛大に怖がられてるぅ! 大の大人どもが逃げ腰で泣き叫んでるぅ!
「一体マハリクさんってば何したんだ?」
「徹底的にヤキ入れてったんじゃないかぉ?」
そういう人なんだ……仕事のできる女っぽかったけど。
って、それはあくまでキャラクターの見た目か。中の人のことまでは知らんからな俺は。
とりあえずカウンターで話を聞いてみよう。あ、ここも受付嬢ってエルフさんなんだねぇ。
「あ、あ、あ、あの、『何でも屋』様向けの依頼は、こちらにはありませんが……なにか不備でもございましたでしょうか? ご要望通り、指名依頼を除くすべての依頼は優先的にお見せしているので、こ、こちらには……」
すべての依頼を優先して確認とかできるんだ、すごいな『何でも屋』。
「ボクらは『何でも屋』じゃないぉ。ツードンから来たフツーの冒険者だぉ」
「……え、そうなんですか?」
「そうなんだぉ。まったくなんでそんな勘違いを……あ。光輪だぉね」
受付嬢さんの視線は頭の上に注がれており、それが『何でも屋』の証だと思われているのは明白だった。
それにしても依頼の独占かぁ……
「独占はあんまり褒められた事ではない、か?」
「え、何言ってるぉ? プレイヤーに依頼の優先権があるなんてフツーだぉ?」
「……それもそうだった!」
むしろNPCに依頼をかっさらわれるとか、そういうイベントでもないと無いよな!
尚、碌な依頼がなかったので結局依頼は受けずに帰ることにした。




