第二十話 魔物殲滅
マリアーノの師匠ロッソル率いるロッソル騎士団は今、突然襲撃してきた魔物達と戦っていた。
しかし騎士団は苦戦している。
それもジャイアント4体にミノタウロスやサイクロプスなど、
普通では到底ありえない強力な魔物が集まってきていたからだ。
最初の報告では西領門でジャイアント4体が現れたと聞いて出動したが、途中で南領門の半鐘が鳴り響き、ロッソル達は急遽南領門に向かったのだった。
しかしロッソル達が駆けつけた時には既に南領門は破壊され、多数の魔物達が侵入したあとだった。
なんて事じゃ、王都に魔物が侵入するなど今まで聞いた事がないぞ。
しかも魔物の動きが早い。
こんなにも早く侵入されるとは……。
警告を知らせる半鐘が鳴っていたにも関わらず、
逃げ遅れた人々も多い。
ロッソル「騎士団!国民を守るのじゃ!救護隊は怪我人を助けよ!」
騎士団「「「おー!!」」」
騎士団の士気は高いが、
ロッソルは違和感を覚えていた。
その違和感の正体にロッソルはすぐに気が付いた。
魔物共が連携している……じゃと?
普通、魔物は自分勝手で凶暴。
中には知能を持つ物もいるが、今回のように連携を取るなどあり得ないと、ロッソルは考えた。
しかも、
ロッソル「何じゃ?この魔物共は真っ直ぐ王城を目指してるようじゃぞ。」
ここのところ、あちこちの街に魔物が襲撃してきたと言う報告を受けていた。
それにはテイマーが関係している事も報告にあった。
ロッソルはその事に思い至る。
ロッソル「テイマーが居ると見て良いだろう。テイマーを何とかすれば、魔物共の連携が解けるんじゃが」
ロッソルの側には常に補佐官がいる。
戦況を見ていた補佐官がこのロッソルの言葉に反応した。
補佐官「テイマーですか?しかし、この状況で更にテイマーを探すなど、厳しいかと思われます」
騎士団は総勢34人。
対する魔物はジャイアント含めて10体。
ミノタウロスやサイクロプスなどは、普通は1体に対して4・5人で相手をしなければならない。
それだけならまだしも、
しかもそこにはかなり厄介なジャイアントが4体も居る。
ロッソル騎士団はかなりの手練揃いだったが、
連携を取っている魔物共に、この人数で対抗してるだけで奇跡的であった。
こう言う事態の時は、
冒険者ギルドも動くのだが、ギルド長が不在の上、冒険者達はジャイアントを見てとてもじゃないが戦える相手ではないと戦いには参加していなかった。
逃げ遅れた人々もいる中で、
大魔法を放つわけにもいかない。
このままでは騎士団も疲労してきて魔物共にやられてしまうだろう。
ロッソル「く…どうしたら良いんじゃ」
と、その時だった。
補佐官「魔物共の動きが鈍りましたね」
確かに動きが鈍った。
連携が崩れたようにも見える。
ロッソル「うむ!好機じゃ!攻め込め!!」
魔物共は間違いなく連携が取れていないようだ。
それぞれがバラバラに戦い出した。
ロッソルにはそれが何故なのかは理由は分からなかったが、
好機である事に違いは無かった。
しかし直後、魔物共の後方に突如として現れた巨大な魔物によって、ロッソルは絶望感を味わう事になる。
それは魔物共の後方50メートルくらいの位置で、
遠目でもハッキリ見て取れる体長15メートルはありそうな巨大なジャイアントだった。しかも頭から炎を上げている。
補佐官「あ、あれは…」
ロッソル「フレイムジャイアントじゃ。なんて事じゃ…」
ここは一旦引いて、大勢を立て直す必要があるとロッソルは考えた。
とてもじゃないが現状ではフレイムジャイアントまで来られては全滅は免れない。
ロッソル「全員一旦…」
補佐官「お待ちを!」
ロッソル「ん!?」
補佐官「何か様子が変です。あのフレイムジャイアントは動こうとしてません、それに何か摘み上げてます。人?」
ロッソルも状況をよく観察してみる。
確かに様子がおかしい。
よくよく見るとフレイムジャイアントの周りに人が何人も居る。
ロッソル「あれは…マリなのか?」
状況的に、遠目に見える人物がマリアーノならば、
テイマーを制圧したと見て良いかもしれない。
それなら魔物共の動きが鈍ったのも頷けるが、
あのフレイムジャイアントはなんだ?!
ロッソルは考えを巡らす。
このままあのフレイムジャイアントが動かないならば、好機には違いないが、
万が一フレイムジャイアントが襲って来た場合、手遅れにならなくもない。
どうする!?
と、その時。
補佐官「む!誰か凄い速さでやって来ます!」
ロッソル「あ!あれは?!」
ソラ「豪剣稲妻!!」
ソラの豪快な横薙ぎで一体のジャイアントの足が脛の辺りで切断された。
足を切られたジャイアントはバランスを崩し、ドスーンと倒れ込む。
その際、横にいたミノタウロスが下敷きになってペシャンコになった。
騎士団「なっ?!なに事だ!」
交戦していた騎士団にとっては、
ジャイアントが突然に倒れたようにしか見えなかった。
しかしソラは止まらない。
次の魔物目掛けて突進して行く。
ソラ「雷光石火、三閃!」
目にも止まらない3撃が魔物を襲う。
餌食となったサイクロプスが一瞬にして胴、胸、首を斬られ地面に転がる。
騎士「うわっ!なんなんだ?!」
ロッソル「あれは?!龍人じゃと?!」
補佐官「ま、まさか?!」
ソラ「どりゃぁあー!」
暴れるソラに騎士団の数人が気を取られていた。
その騎士団の1人にジャイアントが襲いかかる。
騎士1「あ!おい!逃げろ!!」
騎士2「えっうわぁ!」
気付いた時には遅く、
騎士2に対してジャイアントが棍棒を振り下ろす。
騎士2「……ん?え?」
しかし棍棒の攻撃は無かった。
ジャイアントは動きを止めていたのだ。
良く見ると、動きを止めたジャイアントの胸から、
別のジャイアントの腕が突き出ている。
突き出た拳は焔に包まれていた。
次の瞬間、腕は引き抜かれ、胸を貫かれたジャイアントが倒れた。
その背後にはフレイムジャイアントが立っている。
「ふしゅるるる…」
騎士2「た、助かった…のか?」
キノ「あら、良い男」
オト「姉さん、そんな場合じゃないですよ!」
キノ「なにさ、良いじゃないか、しょうがないねぇ、フレイムちゃん、次はあっち」
騎士「…フレイム…ちゃん?」
唖然とする騎士を置き去りにして、
フレイムジャイアントは次の獲物に向かう。
ジャイアントは棍棒を振り上げ、フレイムジャイアントに襲い掛かるが、
振り下ろされた棍棒をフレイムジャイアントは簡単に素手で鷲掴みにして止める。
そしてもう片方の手で、ジャイアントの顔を鷲掴みにした。
「ごあぁぁあああ!!」
顔を掴まれたジャイアントは棍棒を捨て、
両手で顔を掴んでいるフレイムジャイアントの手を引き離そうとするが、
手は離れない。
そして、フレイムジャイアントは掴んでいる手から焔を発した。
「がああああ!!」
ジャイアントは断末魔を上げ、
やがて顔を焼かれたジャイアントは膝から崩れ落ち倒れる。
ロッソル「フレイムジャイアントが、味方に付いとる…」
マリアーノ「師匠!」
やや遅れてやって来たマリアーノが、ロッソルの元に駆け寄る。
ロッソル「マリ!やはりお主だったか、これはどうなっとる?」
マリアーノ「フレイムジャイアントは味方のテイマーで操っております。」
補佐官「あの龍人は?!本当に龍人なのですか?!」
マリアーノ「彼の方は確かに龍人ですが、その、私の友人です」
ロッソル「友人じゃと?龍人がか?」
マリアーノ「詳しくは後で。今は討伐が先です。私も加勢して参ります」
ロッソル「うむ、そうだな」
マリアーノは軽く会釈をして、今や散り散りバラバラになった魔物を追いかけて行く。
王都の中で逃げられでもしたら一大事だ。
逃げ遅れた人々に向かって猛威を振るう魔物に、
マリアーノは向かって行く。
その様子をロッソルは満足気に見ていた。
一方でソラが片足を切り落としたジャイアントに、
騎士団達がなんとかトドメを刺した頃、
ソラとフレイムジャイアントの活躍で残る魔物は、
マリアーノが追う魔物と、ジャイアント一体だけとなった。
統制を無くしたジャイアントは、
フレイムジャイアントから逃げるように、
闇雲に街を破壊して進む。
ソラ「もう壊すな!とりゃぁ!」
ソラはジャイアントの眼前にジャンプして、
腕を切り付ける。
「ぐぎゃあ!」
痛がるジャイアントはソラを避けるように進路を変えた。
ソラ「壊すなって、言ってるでしょ!」
建物を壊しながら進んでいるジャイアントにソラは言いながら、ジャイアントの正面にジャンプした。
ソラ「雷鳴八尖!!」
「がぶぉお!」
顔の八箇所を切り付けられたジャイアントは、
たまらず後ろに尻餅をついた。
そして必殺の上段からの一撃。
ソラ「豪剣爆雷!!」
頭を割られて、ついに最後のジャイアントの討伐が終わった。
キノ「まったく、なんて強さだい、加勢するしまもないねぇ」
フレイムジャイアントを従えたキノが、
ソラの戦い振りを見て呟いた。
マリアーノもまた、魔物を仕留めソラを見ていた。
キノやマリアーノだけでは無かった。
いつのまにか、逃げ遅れた人々や、駆けつけた冒険者達、
ロッソルを始めとする騎士団全員がソラを見ている。
ソラはそんな視線を浴びて、急に不安になった。
怒りに任せて夢中になってしまい周りが見えていなかった。
こんなにも注目されるとは夢にも思っていなかった。
しかも龍人の姿を多くの人々に晒してしまった。
ソラはマリアーノを見つけ駆け寄って行く。
マリアーノもソラに向かって行く。
マリアーノ「ソラ」
ソラ「マリー、あ、あたし、どうしよ…」
そこへにゃん吉が合流し、ソラの肩に乗った。
ソラ「爺ちゃん…」
にゃん吉「ソラ、良くやったぞ、何を不安がっとる」
マリアーノ「そうだよ、ソラは人々を、王都を救ったんだよ」
ソラ「王都を救った?」
と、そこへ人質になっていた少女達がソラの元へやって来た。
少女達「「ソフィア様!」」
ソラ「え?」
少女達「お救い下さりありがとうございます」
少女達は口々にソラに向かい、礼の言葉を述べている。
少女達の一人はソラの手を取り両手で包むように握った。
いつもそうなのだが、怒った後のソラはなかなか龍人化が解けない。
今も例外ではなく、正に龍人そのものの姿をしていた。
にも関わらず、少女達はソラの元に集まり微笑んでいる。
少女「こんなに小さな手なのに、あんなに強いなんて」
ソラ「あ、あの、怖くはないの?」
少女「どうしてですか?私達はゴブリンの方がよっぽど怖かったです。ソフィア様は私達を助けてくれましたし、綺麗で強くて、凄く憧れます」
戸惑うソラにマリアーノが言う。
マリアーノ「ふふふ、ここは笑うところだよ」
マリアーノは、ソラと知り合う前、駄々っ子ハンターに強い憧れを抱いていたのを思い出し、思わず笑ってしまっていた。
少女達の行動にソラの不安は払拭されていく、
握られている手も心地良い。
マリアーノの言葉もあったが、
ソラの顔には自然に微笑みが浮かんでいたのだった。
そこへロッソルがやって来た。
ロッソル「其方はソフィアと申すか、此度の働きは値千金じゃ、王に代わり礼を申す。ありがとう」
集まって来た騎士団達も、ソラを中心に片膝を付き、頭を垂れた。
騎士団「「「感謝を!」」」
マリアーノ「師匠、このソフィア殿は、あの駄々っ子ハンターでもあるのですよ」
ソラ「あ!こら!マリー!」
まさかここで自分が駄々っ子ハンターであるとバラされるとは思ってなかったソラ。
ロッソル「なんと!あの弱きを助け廻ってるという駄々っ子ハンター殿であったか!」
ソラ「仮面の剣士ですよぉ」
不服そうに呟くソラを見てマリアーノが笑った。
マリアーノ「ふふふ、あははは」
ロッソル「仮面の…その美しい容姿を隠す事もなかろう。其方は英雄に相応しい。ここに英雄の誕生じゃ!」
「「「うおー!わーー」」」
いつ間にか、ソラ達の周りは人々が集まって来ていた。
ロッソルの言葉に皆が湧き立った。
ソラ「えっ?!ちょっと…」
少女「英雄ソフィア様!ありがとう!」
手を握ったままの少女は、ソラに屈託のない笑顔を向けている。
ソラの中の不安は消え去っていた。
そして照れ臭そうに応えた。
ソラ「いえ、こ、こちらこそ、ありがとう、へへへ」
ロッソル「それから、あの者達にも礼を言わねばならんな」
ロッソルは、少し離れた場所から見ているキノ達3人組を指して言った。
フレイムジャイアントは、両膝を抱えて、巨体を小さくして大人しく座っている。
恐ろしい魔物のはずが、どこか微笑ましい格好でもあった。
マリアーノ「はい、彼等の功績も大きいです」
民衆はフレイムジャイアントも含めて、
ソラ達に惜しみない感謝を投げかけていた。
………………………………………………
後日、テイマー至上主義軍団と名乗るボスは、
魔法によって全てを白状させられ、
犯罪奴隷30年の刑の後に火あぶりでの処刑が決定した。
これはかなり重い刑との事だ。
他の連中も同様に重い罪が課せられた。
気がかりだったのは逃げしてしまった手練れの剣士テツ。
ボスが白状したところ、テツは雇われの用心棒で、SSS級の凄腕だそうだ。
そんな凄腕ならば用心棒なんてやってないで、
もっといい職業がありそうなものだが、
どうして用心棒なのかは本人にしか分からない。
そしてソラは、王より英雄の称号を与えられる事となった。
キノ達も同様に王より感謝を述べられる事になったが、
キノ達は元々は悪者だと言って、それを辞退したのだった。
王直々に感謝を述べられる事もかなりの栄誉らしいのだが、
キノ「あたいらはそんなのガラじゃないのさ」
と、言い残し、早々に王都から出て行ってしまった。
それに大人しくしてるとはいえ、
強力なフレイムジャイアントをいつまでも王都に居させる訳にもいかないというのも、急いで出て行く理由のひとつだった。
今ソラはマリアーノとにゃん吉と一緒に過ごしている。
ソラ「ソラも辞退したいなぁ」
マリアーノ「ソラ、それはダメ」
ソラ「なぁんでよぉ」
マリアーノ「流石に王都を救った英雄に辞退されて逃げられたとあっては、王の体裁が悪いんだよ」
にゃん吉「良かったではないか。もう仮面を付ける事なく堂々と龍人化できるぞ」
ソラ「それはそうだけど、仮面気に入ってたんだけどなぁ」
マリアーノ、にゃん吉「「うえ、あれ気に入ってるのぉ?」」
ソラ「なんだよぉふたりしてぇ」
マリアーノ「何と言うか、にゃん吉殿はどう思われるか?」
にゃん吉「目がまん丸で口を尖らせたおっさんにしか見えんのじゃがな」
ソラ「違うよ!つぶらな瞳におちょぼ口で、きっと恋してるダンディな人なんだよ」
マリアーノ「ソラは可愛いんだけど、感性が壊滅的だな」
にゃん吉「まったくじゃ…」
ソラ「ふんだ、どうせ分かってくれないんだよね。あーあ、早く世界樹探しに行きたいなぁ」
マリアーノは苦笑していた。
にゃん吉「やれやれじゃな…」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そして、
王都の魔物討伐から2週間。
ようやくソラは王都から出る事が出来た。
王都では王と謁見し、
英雄の証である銀翼のプレートを賜り、
英雄の称号を得た。
他にも金貨などの褒美も頂き、ソラはホクホクである。
そして旅立ちでは、
マリアーノと再会する事を硬く約束をした。
別れには何故か涙はでなかった。
根拠はないが、近いうちにまた会える気がしてならなかったからだ。
再びにゃん吉と二人の旅が始まった。
今回の旅は馬車での旅だ。
少し大きめの馬車をロッソルから贈られ、
馬の御し方を教わっての旅立ちだった。
ソラ「馬車って良いね、楽ちん楽ちん」
にゃん吉「気を抜くなよ。馬は神経質で臆病じゃからな」
ソラ「うん」
エイジャタウンまでは約4週間の道のりだ。
焦らすのんびりと旅を楽しもうと思っているソラだった。
早く世界樹を探したいのは山々だったが、
急ぐ旅でもないのだ。
ソラの目的はエイワの大森林の探索。
エイワの大森林に、おそらくは世界樹があると思われるからだ。
そして、そのエイワの大森林の端にあるのがエイジャタウンだ。
エイジャタウンは森の資源を得て、それを各地に産出して成り立っている街。
『森タウン』とも呼ばれている。
大森林には豊富は薬草などの資源があり、珍しい生き物もたくさんいて、たまに街に入り込んでいたずらをしたり、中には人と混じって生活している亜人種もいるらしい。
エイジャタウンはそういった人以外の者達も受け入れている大らかな街なのだそうだ。
ソラ「森タウンかぁ、どんな街なのかなぁ」
にゃん吉「行けば驚くじゃろうな、普通の街とはだいぶ違うからの」
ソラ「行った事あるんだ」
にゃん吉「うむ、昔じゃからの、今はだいぶ変わっとるじゃろう。昔は獣族やエルフも居たぞ」
ソラ「へぇ、会ってみたいなぁ」
ソラの思いは既にエイジャタウンに飛んでいる。
この後どんな冒険が待っているのか、
ソラはわくわくしてきたのだった。
第一部 ソラの旅編 完
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白村
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