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秋川千鶴の場合8

 自宅に戻るとすぐにシャワーを浴びた。一日の汗とメイクが流れ落ちる。排水溝に今日一日の頑張りと穢れが流れていく。

 身体中くまなく洗う。陰部は特に。他意は大アリだ。ここは私の聖域なのだ。今は誰も立ち入れない場所。もちろんセクシャルな意味で。

 最後に男に抱かれたのは何年前だろう? ふと、そんな自身への疑問が浮かんだ。記憶が確かなら大学卒業してから数年間は割とそういう関係になる男もいた気がする。まぁ、そんな男たちのことなどすっかり忘れてしまったけれど。(実際名前と顔が一致しない程度の記憶しかない)

 別にあの行為に対して抵抗や嫌悪があるわけではない。ただ好きかと聞かれれば微妙なだけだ。妊娠という結果に繋がらないアレになんの意味があるのだろう? と心の奥底からそう思う。

 多くの女友達は性行為を娯楽的に楽しんでいたけれど私はそれが理解できなかった。確かに快感はあるとは思う。でもアレに依存すれば身を滅ぼすのではないだろうか?

 詰まるところ、私の理性はエンタメ的セクシャルワークを拒絶したのだ。凸凹。そんな歪な娯楽をやりたくないと。

 髪にロクシタンのシャンプー香りが染み渡る。天然ハーブの香り。この香りを嗅いでいるだけで幸せな気持ちになった。午前中に浴びせられた「これだから行き遅れババアはよぉ」という言葉さえ許せそうになる……。いや、これは感情で許すべき話ではないだろう。あの男は弊社の敵だ。女性の敵だ。下着メーカーの広報部の人間としては最低の部類。制裁を与えてやろう――。そんな不穏な思考が浮かんだ。

 幸せなシャワータイムが終えるとリビングで髪を乾かした。しっかりトリートメントしているお陰で枝毛は少ない。やはり髪は女性の命だと思う。黒くてまっすぐな髪。私の自慢だ。

 それから私は簡単な夕食を済ませた。野菜サラダとコンソメスープ、炭水化物はなし。別に健康を意識している訳ではないけれど夕食はいつもこんな感じなのだ。あまり食べたくない。飲み会ならともかく、自炊でそこまでしっかり食べる必要はないだろう。

 食事を済ませるとすぐに食器を洗った。そして時計に目を遣る。まだ一九時前。洗濯機を回すことぐらいは出来そうだ。(幸い両隣の住民はまだ帰ってきていないらしい)

 洗濯機を回す。そして掃除機を部屋全体に掛けた。週末の掃除を前倒しにした。そんな優越感にも似た気持ちになる。

 ささやかな幸せだな。これも叔母さんの家で培った生活力のお陰だな。回る洗濯機を見ながらそんなことを思った――。


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