錯綜する戦い 2
戦士たる彼らが命を散らしてまで守ろうとしたものが、今エーゼルの背後にある。
エーゼルからすれば価値など関係ないのだ。
彼等の思いに応えなければならない。
エーゼルの胸中にあるのはそれだけだ。
「そもそもだ。価値というのであれば我自身も大した価値など無いのだ。居ても居なくても変わらない。世界から見ればそんなちっぽけな存在の1つでしかない」
それはエーゼル自身が本気で思っている事であった。
たまたまハイエルフに産まれただけであり自分自身に大層な価値など無い。
この里では純粋なハイエルフが自分1人だけだから自身には過分な扱いを受けているだけに過ぎないと。
「確かにそうなのかもしれない。だけどね、エーゼル……価値なんてのは人によって違うんだ。私にとっては世界なんて曖昧なモノよりも君の方が余程価値のある存在なんだ。さっき、エーゼルと殺し合いをしてそれに気付けた」
「何を言っている……?」
訳が分からない。
そんな思いがエーゼルの顔にありありと出ていた。
「私には何もない。今も昔も私にとって大切だと言える存在はエーゼルだけ。エーゼルの為なら何だって出来る。この里の存在は絶対にエーゼルに苦しめる。だから滅ぼす。エーゼルを突け狙う騎士達も殺す」
本気の狂気を感じて、エーゼルの背筋がゾクリとした。
「ねぇ、エーゼル。君のお父さん……エルアルトさんが死んだときどう聞かされた?」
「待て、何故あなたが父の死を知っている!?父の死は貴方が追放されたよりも後の出来事の筈だ!?」
エーゼルの父、エルアルトの死が発覚したのはレイシィが追放されてから3日後の事だ。
「『魔物にやられた』とでも聞かされていたんじゃないかな?」
「……その通りだが」
「エルアルトさんは里の中でも屈指の腕を持つ歴戦の狩人だった。そんな人がこの辺の魔物相手に後れを取るとか本当にあると思う?」
「…………………………」
それは当時のエーゼルも疑問に思っていた事であった。
自分の父親をも超える程の強さを持つ魔物が居たら、里に深刻な被害が出てもおかしくないだけに尚更。
「エルアルトさんの死は魔物が原因じゃない。あの人を殺したのは間違いなく里の者だ」
「……何故、そう言える?」
「だって、私はエルアルトさんが殺される瞬間をこの目で見たからね」
「ッ!!」
レイシィのその言葉はエーゼルの頭を鈍器でぶん殴ったかのような衝撃をもたらすものだった。
「追放された私はどうしてもエーゼルに別れの言葉を言いたかった。だけど、里から追放された私は里に近付く事は出来なかったから……エルアルトさんに君への伝言を頼みたくて、森の中に潜んで哨戒に出るエルアルトさんを待っていたんだ」
エーゼルの父親であるエルアルトはエーゼルの父親らしく真面目な男だった。
里に危機が及ばないように定期的に森の哨戒に出て、ついでに狩りをしていた。
その辺りの習慣は完全にエーゼルに引き継がれている。
エーゼルの場合はミラフィアの様子を確認するという意味合いもあるが、父の仕事は自分がやりたかったというのが大きい。
「エルアルトさんの哨戒ルートを辿っていたら、その現場に出くわしたんだ」
「父を殺したのは誰だ!?」
「ゴメン、それは分からない。遠目に見えただけだし、夕暮れ時で森の中は既に暗くなっていたから……だけど、エルアルトさんが里の誰かに殺されたのだけは間違いない事実だよ。それでも、君は守るというのかい?」
「……ああ。それを聞いて尚更あなたに里を滅ぼさせる訳にはいかなくなった。我は真相を暴き、父を殺した犯人に報いを受けさせねば気が済まない」
何も分からないまま終わるなど我慢ならない。
その為にも一度は守り抜かねばならない。
「出来るなら私も協力したいところなんだけど、その時間が無い。1000人を超えるカルディア傭兵国のエルフ捕獲部隊の本隊がやってくる。そうなったら私でも君を連れ出す事は出来ない。だから、その前に全てを終わらせる」
強引でも、エーゼルから敵対されてでも、エーゼルを縛るしがらみから解き放つ。
それがレイシィの決断だ。
「それに真相を暴けば優しい君の心は深く傷付いてしまうかもしれない。私はそれを許容できない。この里の本当の穢れを知らないのであれば、知らないまま終わらせるのが一番良い。だから、少しの間エーゼルには眠っていてもらうよ」
レイシィはただそれだけの為に突き進む。




