錯綜する戦い 1
レイシィとエーゼルが話していると、隙があると見たのだろう。
ゴドリックから離れた位置に居た騎士がレイシィの背後からナイフを放った。
カンッ!
だが、それは石にでも当たったかのような乾いた音を立てて、空中で弾かれて落ちる。
レイシィの展開している魔力障壁だ。
「今、私は大事な話をしてるんだ。君達に構ってる暇は無いんだよ」
ドスッ!
ナイフを投げた騎士の足元からレイピア程の細さの石の槍が伸びて顎の下から脳天までを串刺しにした。
防御にせよ攻撃にせよレイシィはその騎士に対して微塵も視線を向けていない。
視線は真っ直ぐにエーゼルを向けたままであった。
ある程度の術者になれば周囲に漂う自由魔力子の動きを感知して周囲の状況を探れる様になるのだが……
レイシィ程にもなればその精度と範囲はこの地下空間程度であれば問題無く察知できる。
今の神殿地下は聖樹の魔力が濃厚な状態だ。
そんな中で動く魔力の薄い異物の存在は目を向けるまでも無く、目で見るよりも詳細に見えているという訳だ。
エーゼルは狩人としての能力が高いので隠密系統の能力に長けている。
それに今聖樹に満ちている魔力は大本がエーゼルのものであるので濃厚な聖樹の魔力の中だと完全に魔力が紛れてしまうのだ。
レイシィにとっては唯一魔力感知のみで動きを捕えられない相手だから目を逸らさない。
会話しながらもレイシィは油断など微塵もしていなかった。
(レイシィが何を考えているか知っておくべきだな。それに時間を稼がねばならない我としてもその方が都合が良い)
「エーゼル、あの大きいのは君の知り合い?」
レイシィの言う『大きいの』とは騎士達相手に大暴れしているゴドリックのことだ。
「さてな」
「どちらにせよ、本当の事は言えないか。相変わらず、この里はどうしようもなくしょうもない」
「…………………………」
エーゼルはレイシィのその言葉を肯定しなかったが、否定もしなかった。
エーゼルとしてはゴドリックと知り合いだと里の者達に知られるのは別に構わないと思っている。
自分が何を言われようと無視すれば良いだけだからだ。
だが、ゴドリックがミラフィアと深い繋がりがあると知られてはならない。
ハイエルフであり、次期族長であり、聖樹の神子でもある里に必要とされている存在であるエーゼルは簡単には切り捨てられない。
だが、魔族との混血のハーフエルフであるミラフィアは違う。
排他的な種族であるエルフは他種族と繋がりを持つことを嫌う。
それでいて陰湿だ。
どうなるか分からない。
エーゼルが想像している以上に悪い事になってしまっても何らおかしくないのだ。
「ねえ、エーゼル。君は今の自分の立場をどう思ってる?」
「……考えた事も無いな」
嘘だ。
思うところも思った事も沢山ある。
だが、それを口にするのは今更なのだ。
もう既に諦めて妥協してしまっている事だ。
「嘘だね。無駄だから考えないようにしている。ただそれだけだよ。君は絶対に今の立場を良いモノとは思っていない。煩わしいと思っている。違う?」
「…………………………」
エーゼルはその言葉を否定できなかった。
肯定こそはしないが、否定しないそれが答えだ。
「エーゼル、この里に君がそこまでして守るだけの価値はある?」
「……それだけの価値は無いのかもしれない。だが、我は既に託されているのだ。滅びの定めに抗い散って行った勇敢なる者達に。それを放棄する事は出来ない」
故に守る。
それがエーゼルの決断であった。




