それぞれの戦い(エーゼル) 49
そこからエーゼル達エルフ勢、騎士達カルディア傭兵国の人狩り勢、レイシィの三つ巴の戦いになると思いきや状況は更に混迷を極める事になる。
レイシィと騎士達が話している間、妙に『ズズン……!』、『ズズンッ……!!』という音が聞こえ神殿が震えているように感じていたのだが……
ガゴンッッ!!
『!!?』
突如、エーゼルの前方……
エーゼルと騎士達の間辺りの天井が大きな音と共に崩れ落ちて来た。
突然の想定外にその場に居た全員が驚く。
割れた石片がドサドサと降り注ぎ、濛々と砂煙が地下に舞って見事に視界を無くす。
砂煙の中心で何か大きな物が動いた。
それは黒い影のように見えた。
砂煙のせいでそれが影のように見えたという訳では無かった。
それの全身が影の様に真っ黒だった。
「グルォォォォォォッッ!!」
それは大きな咆哮を放ち、ビリビリと地下を震わせる。
(このタイミングで来るか!こいつは)
エーゼルだけはその正体を知っていた。
巨大な体に凶悪な様相からは想像がつかない程に善良な精神を有しているオークの変異種。
ゴドリックだ。
素肌が黒い為に分かり難いが、あちこち火傷しているのが見えた。
毒の沼地も火の海も強引に突っ切って来たのがその姿から分かる。
「おいおい、マジかよ……!」
(何でか知らないが金蔓が自分から飛び込んで来やがった!)
騎士達は驚きながらも思わぬ幸運に口の端が吊り上がってしまっていた。
「ここに来て不確定要素……」
レイシィは突然の乱入者に顔を顰める。
エーゼルの他のエルフ達はその迫力に『ヒィッ……!』と息を詰まらせて恐怖していた。
反応はバラバラであった。
オークとしては規格外の大きさを有しているゴドリックは神殿の地下へと続く通路を通れなかった。
それ故に壁や床を杖で叩き、ひたすらに砕いて無理矢理地下まで来たのだ。
本職が建築関係なゴドリックは神殿が倒壊しないように……
更に言えば臭いで大まかに判別できる位置情報からエルフ達やエーゼルが生き埋めにならないよう注意を払いながら壊すという器用な行動を取っていた。
ゴドリックはギロリと鋭い目を騎士達に向けると、雄叫びをあげながら真っ直ぐに騎士達の方へと突っ込んで行く。
「次から次へと想定外な事ばかりが起こりやがる」
混沌とした状況に立たされて部隊長は愚痴を溢す。
「お前ら!先ずはこの黒いデカブツを何とかするぞ!エルフ共は後回しだ!」
迫る脅威に対して騎士達も行動を起こす。
矢が尽きてしまったエーゼルにはこれまでのような戦闘能力は無いと対人戦の経験に長ける騎士達は見抜いていた。
現状における騎士達にとって大きな脅威はレイシィとゴドリック。
レイシィはエーゼルに執着しているのは先程のやり取りで明らかになった以上下手に手出しするべきではない。
何とかしてゴドリックとレイシィをぶつけ合わせられれば騎士達にとってはそれが最良なのだが、その方法が思い付かない以上真っ向から対峙するしかないと判断した故の指示だ。
「何だか面白い展開になってきたね」
混沌を極める神殿地下でその状況を見てレイシィは笑う。
「面白い物か。何一つ笑えん」
「あの聖樹の守護者達、アレ長老衆でしょ?私からしたらそれだけで笑えるんだけど。どうせ、土壇場になって連中がとんでもない馬鹿やらかして君の怒りを買ってあんなことになってるんだろう?違う?」
全く以てその通りであった。
エルフの内情をある程度知っているだけにその予想の的中率は高い。
「エーゼル以外の里のエルフは皆殺しにしようと思ってたんだけど、面白いから長老達は生かしておこう。あの姿になった以上生きながらにして死んでるのと同じだしね」
確かに体の自由を奪われ、聖樹が存在する限り行かされ続けるあの姿は生ける屍と言ってもいいものであった。
それでいて、意識と痛覚はあるのだから残酷だ。
それ故に最上級の罰となっているのだが、それを生み出したエルフという種族は歪んでいると言えた。




