それぞれの戦い(エーゼル) 48
(状況は控えめに言って最悪だな)
騎士達にせよ、レイシィにせよ今のエーゼルが相手するには手に余る相手だ。
その両方が揃っている上に通路を通り抜けられて、動ける空間がある。
(長老達の動きでは騎士達を押し留めるのは無理だ。さて、どうしたものか)
背後に風の精霊を飛ばして聖樹の方の様子を見る。
(向こうはまだ時間が必要だな)
今すぐ入れるだけ虚の中に入って、長老達がやったように神殿部の長が入口を障壁で塞いで立て篭もっても彼女1人では障壁の強度が足りないので意味が無い。
どう足掻いてもカチ割られて終わりだ。
(どうにかして時間を稼がねばならないか……だが、手が足らん)
騎士達は50人まではいないにしても40人以上が残っている。
長老達のゴーレム達よりも数が多い。
(長老達を聖樹の前に立たせて壁したところで押しのけられて押さえ付けられればそれで終わり……考えろ、何か、何か手が無いか考え続けろ)
今この場で聖樹から魔力を吐き出せて、里もろとも吹き飛ばす自爆を行う事は可能だ。
だが、今それをやれば何も残らない。
聖樹もエルフも騎士も何も。
それではダメだ。
エーゼルが必死に思考を巡らせていると……
自由に動ける空間が出来た事でゴーレム達の間をすり抜けて1人の騎士がエーゼルに迫った。
「チッ……!」
思考に意識を向けていた為に一瞬だけ反応が遅れてしまった。
エーゼルは舌打ちをしながらもナイフを構える。
エーゼルの目の前に迫る騎士は剣を振り上げていた。
(何とかして逸らすしかないな)
敵の方が強いと分かっているからこそ目を離さずしっかりと見据える。
騎士達はエーゼルを殺しには来ない。
分が悪い賭けでも無い。
エーゼルは覚悟を決めてカウンターを狙っていたが、『ドッ……!』と何やら鈍い音がしてエーゼルの前に立っていた騎士が崩れ落ちた。
その騎士の後頭部に拳大の石が直撃したようだ。
かなりの威力だったようで、前のめりに倒れて俯せになった騎士の後頭部は陥没していた。
「彼に手を出さないで貰えるかな」
騎士に向けて石を放ったのはレイシィだったようで、彼女は冷たい目を倒れた騎士に向けていた。
(レイシィが我を助けた?我とレイシィは敵同士の筈、何故……?)
予想外の出来事にエーゼルは目を見開く
「貴様、何つもりだ!?」
そして、部隊長の怒声が響き渡る。
「石の壁よ」
がレイシィは答えず短文で詠唱を行い、魔術を行使した。
石の壁がズズズと地面から立ち上がる。
それはレイシィの背後、騎士達が入って来た通路に続く唯一の出口の前に現れて道を塞いだ。
「貴様、何をしている!?」
「何って……逃げ道を塞いだだけ」
『見て分からない?』と言葉に出さずに告げるが如く、レイシィは首を傾げる仕草を見せる。
「……貴様、今更になって裏切るつもりか?」
周囲には火の手が迫っている。
騎士達に余裕などない。
既にエルフ達を追い込んでいるこの状況でわざわざ逃げ場を塞ぐ必要など無いのだ。
それを分かった上でのこの行動は裏切りとしか言い様が無い。
「裏切る?何を言っているのかな。私が君達と交わした契約は『君達がこの里の中に入るまでの全面的なサポートする事』だ。君達は既に里の中に入っているじゃないか。既に契約は果たしているのだからその後私が何をしようが自由な筈。違うかい?」
「それは……」
違わない。
「何が目的だ?」
「エーゼルの為に君達にもエルフ達にもここで死んで貰う。絶対に逃がさない」
(我の為だと?レイシィは何を言っている!?)
少し前まで殺し合いをしていた相手だ。
そんな相手の為に行動するなど有り得ない話だ。
(正直、訳が分からんがこれは好機だ)
レイシィのおけげで時間が出来たのだけは確かであった。
「クソが!」
(見誤っていた。こいつの復讐対象はエルフだけじゃ無い!俺達もだ!)
騎士達の半数以上がこの場における最大の脅威であるレイシィの方を向いて剣を向けた。




