それぞれの戦い(エーゼル) 47
長老衆と騎士達両端から通路に向かって走る。
走ると言っても長老衆の方は凄く緩慢だ。
強いて言えば小走りよりも少し早い程度。
「退け!のろまが!」
先頭を走っていた騎士が歪な人型を切りつける。
「グァァァァァッッ!?痛いッ!痛いィィィッ!!」
切りつけられた人型はただ泣き喚く。
だが、切られた部分があっという間に塞がり、無理矢理突き進んできて騎士達は先へと進めない。
犯罪者のエルフを人柱として作られる『聖樹の守護者』という植物ゴーレムは動きも遅いければ、攻撃力も防御力も石等の無機物系素材で作られた一般的なゴーレムよりも弱い。
その代わり、ほぼ不死に近い圧倒的な再生力を備えている。
腕が切り落とされようが真っ二つにされようが聖樹の力で再生する。
要するに狭い通路に突っ込ませておけば倒すのは難しく、通路を塞いで足止めするには持ってこいのゴーレムだったりする。
耐久面に乏しく前衛に向かない種族であるエルフが苦肉の策で生み出した死なない前衛である。
誤射も弾幕の巻き添えも気にせず、気兼ねなく矢や術を放てるある意味最高の前衛でもある。
聖樹の力の及ぶ範囲でしか行動できないといったデメリットもあるが、エルフと言う種族は基本的に引き籠もりなので聖樹の力が及ばない範囲に出ようとしないのであまり問題にならない。
エーゼルの暮らしていたこの里においては歴史も浅く、聖樹の守護者へと変えられてしまう程の重罪を犯したエルフがいなかったから存在していなかっただけであり、古い歴史を持つエルフの集落では普通に存在する。
それ故に前衛不足でエーゼル達は思いっきり苦労を強いられていた訳である。
術士にせよ狩人にせよ遠距離から攻撃するのがエルフの基本だ。
前衛が居ると居ないでは大違いなのだ。
狭い通路を埋める様にみっちりと長老衆が押し込められ即席の関となる。
「プッ……!これはこれは本当に面白い事になっているね」
騎士達と醜悪なゴーレム達が押し合う光景を見て、レイシィは腹を抱えてレイシィは嗤っていた。
腹が痛くて声が出ないレベルの爆笑具合だ。
「貴様、笑ってる暇があったら手伝わんか!」
「もう少し眺めて楽しんで居たいんだけど……まあ、良いよ。そこまで言うなら手伝ってあげるよ」
押し合う騎士達の誰かから言われたレイシィは目尻に浮かべていた涙を拭って、
「溢れる水の奔流よ、押し流せ!」
短い詠唱をした。
ドパッ!!
レイシィの目の前から鉄砲水のような奔流が現れ、騎士達と長老衆をまとめて通路の先へと押し流した。
騎士達と長老衆の両方から驚き叫ぶ騒々しい声が上がる。
それを聞いて更に滑稽だと言わんばかりにレイシィは笑みを深める。
「貴様、何をするか!」
水に押し流されて全身をずぶ濡れにされて翻弄された騎士達はレイシィに怒りの声を飛ばす。
「そう怒らない。時間が無いんだろう?これが一番速かった。違うかな?」
「クッ……!」
レイシィの言葉は正に正論だった。
だが、正論だからと言って感情的に納得できるかと言われればそれはまた別の問題だ。
騎士達は言いくるめられて不機嫌全開といった有様だった。
「何はともあれ通路を抜けられた。仕事はちゃんと果たしたよ」
淡々とレイシィは言って、水に濡れた通路を軽い足取りで通って行く。
「ああその通りだな、チクショウが!」
レイシィの水によって部下たち部下達と共に押し流されていた部隊長は悪態を隠すことなく言って、エルフ達を睨んだ。
想定外の苦労をさせられ続けた鬱憤をエルフ達に向ける気満々である。
そんな様子を見て、レイシィはクスクスと楽し気に小さく笑う。
それが更に騎士達を不機嫌にさせるのであった。




