それぞれの戦い(エーゼル) 46
(相手が騎士達だけなら多少はやれるだろうが、問題はレイシィと相対する場合だな)
武器がナイフしか無い以上エーゼルの持てる利点は聖樹による魔力供給で魔力切れが無い事なのだが、それに関してはレイシィも同じ条件なのだ。
しかも術の扱いに関しては圧倒的にレイシィの方が上。
だが、それでも魔力供給を絶やす訳にはいかない。
それがエーゼルにとって最後の生命線だからだ。
(チッ……長老派のバカ共のせいで余計な時間を使わされた)
皆に不安を抱かせない様に口には出さないが内心で盛大に悪態を吐く。
エーゼルが言う余計な時間とは、長老派の対処に掛かった時間、結界の再構築まで掛かる時間、聖樹に対する強制的制御によって使用されたエーゼルの寿命の3つを含んでいる。
エーゼルはこれまでずっと無理を続けてきている。
聖樹からの魔力供給が無くなれば動く事すらままならない程にその負担は確実に溜まっている。
エーゼルはハイエルフ故に聖樹との適合性が割と高めなだけであり、術士としての適性が高い訳では無い。
そんなエーゼルが聖樹を操作するとなるとそれなりの無茶が必要になるのだ。
その結果、残り短い寿命を更に削り取られるという結果になっていた。
少なくとも聖樹が活性化している間は聖樹から与えられる命で寿命が尽きても死ぬことは無い。
だが、エーゼル自身も自分にどれだけの時間が残されているかなど分からないといった状態であった。
故に不利だと理解していても聖樹からの魔力供給を絶つことが出来ないという状況だ。
「うわ、何だコレ!?」
「部隊長、通路が塞がれてます!」
「エルフ共め、無駄な足掻きを……切り払って進むぞ!火の手が迫ってるんだ!急げ!」
そうこうしている間に騎士達がやって来たようだ。
緑の向こう側から声が聞こえた。
聖樹を祀る神殿の最奥部である今の場所は地下に位置しているので、騎士達は火の手は使わない。
彼等の目的はエルフを捕える事で全滅させることではないからだ。
それに生木は簡単には燃えない。
面倒でも切り払うしかないのだ。
騎士達が即席で出来た小さな森を切り払って進む音が聞こえて来て、奥で作業している者達の恐怖心をあおる。
「おやおや、なんだか面白い事になっているようだ」
そんな中、場違いな程気軽な声が見えない通路の奥からエーゼルの耳に届いた。
(あの声はレイシィが来たか……)
「貴様、今までどこに行っていた!?暇なら外の火を消して来い!」
「無理を言われても困る。あれだけ燃え広がっていたら一人の手には負えない」
「クソが!じゃあ、この通路の植物をどうにかするのを手伝え!そのぐらいは出来るだろ!」
「……じゃあ、全員通路から少しだけ離れていて貰える?」
『ザッ……』と通路上に居た騎士達が動く音響く。
「水よ」
バシャリ。
通路を埋め尽くしている緑が雨の後の様に濡れる。
周囲の空間から水分を集めるただそれだけの簡単な術だ。
「冷たき風よ」
冷気を帯びた風が吹き、緑が凍り付いて白くなっていく。
パキパキと急速に凍結する音が鳴る。
「はいっと」
気軽な声と共に魔力の塊が射出されたのをエーゼルは感知した。
破裂の矢と同質の効果を持つ魔力弾だと察せられる。
要するに魔力を圧縮して衝撃を撒き散らすただそれだけ弾だ。
レイシィぐらいの術者になればその程度はノータイムで撃ち出せる。
凍結して脆くなった植物が魔力弾のもたらした衝撃で『バリッ!』とガラスが割れるような音と共にバラバラに砕け散る。
「良し!よくやった!突入!!」
通路を埋め尽くしていた緑が全て砕けて騎士達が突き進む足音が響く。
「長老共、出番だ!行け!」
聖樹を介して守護者と化した長老衆に命令を下す。
「嫌だァァァッッ!!」
喚きながらも長老衆は騎士達と同時に通路に殺到していく。




