それぞれの戦い(エーゼル) 45
エーゼルはナイフで残った長老衆の面々の首の裏側に小さな切れ目をつくり、その切れ目に拾い上げた聖樹の種を1粒ずつ埋込んでいく。
長老衆の耳障りな絶叫が響くが全て無視した。
「魔力供給開始」
準備を終えたエーゼルは淡々と作業を進める。
聖樹から種へと魔力が注がれていく。
すると、長老衆の命を苗床に種は発芽して、その体の内側に根を張り、藤のような細い幹が伸びて体の外側に巻きついていく。
「あッ……グガガガガガ……!!?」
内側と外側両面からの激痛に長老衆は言葉にならない声を上げる。
みるみる育つ細い樹木は長老衆を飲み込んで武骨な人型を形成していく。
その人型の胸の辺りの真ん中に苗床となった者達の顔だけが露出していた。
「聖樹の為に戦うのはエルフの誉れなのだろう?ならば、死ぬまで聖樹の為だけに戦えるようにしてやろうではないか。ついでに長生きしたいという願望も叶えておいたぞ。聖樹の魔力供給が切れぬ限り歳を取らない仕様だ」
長老衆は揃って聖樹の守護者となった。
聖樹の守護者と言えば、聞こえは良いが実際はエルフの重罪人を人柱にして作られる植物製のゴーレムだ。
意識と痛覚だけをそのままに聖樹から供給される魔力と命で聖樹が滅びるまで強制的に生き続けさせる死刑よりも重い最上級の重罰だ。
それ以外で死ねるのは全身が欠片も残さず消された時ぐらいだ。
意識はあれども体の自由は一切利かない。
聖樹の操り人形だ。
「嫌だ……!こんなのは嫌だ!」
「だろうな。お前らなんぞの為に命を捨てなければならなかった者達も同じ気持ちだったろう。今まで散々溜め込んできた咎の全てを贖うが良い」
泣き喚くガイウス長老を見て、エーゼルは淡々と切り捨てた。
それを聞いて絶望した様子の長老衆は聖樹に操られるまま、入口の方へと緩慢な動きで歩いて行く。
「フン……」
そんな様子を見ていたエーゼルは感慨も無くただ不機嫌さだけを露わに鼻を鳴らしていた。
「あのー……神子様?非常に言い辛かったんですけど、私はいつまでこの恰好でいれば良いのでしょうか?流石にこの恰好は恥ずかしいのですけど……」
そんなエーゼルの肩に担がれたままの神殿部の長が口を開いた。
エーゼルは神殿部の長をお米様抱っこで担ぎ上げたままであった。
エルフとしては豊満なむっちりとした尻が皆に向けられている状態である。
神殿部の衣装は露出こそ殆ど皆無だが体のラインが出る装いなので、そこに色を感じる者も一定数いるのだ。
「済まない。忘れていた」
「でしょうね」
エーゼルの意識がそっちに向いていなかったのは全員が理解できることであった。
一言謝罪してエーゼルは神殿部の長を下ろした。
下ろされた神殿部の長は若干ではあるが残念そうな顔をしていた。
成長したエーゼルの細身ながらも逞しい肉体に触れて、場違いではあることは理解していても少しだけ興奮してしまっていたからだ。
神殿部に所属する者達というか、術に適性が高いのは女性の方が多い上に神殿部は引き籠もり体質の部署なので異性との絡みが殆ど無い。
仮にあってもほぼ業務的なものであるので他の部署に比べて圧倒的に未婚の者が多い部署であった。
更に言えば、異性や恋に対して夢見がちなこじらせ処女を量産してしまう部署でもある。
神殿部の長もその例に漏れず、立派なこじらせ処女であった。
彼女の好みは歳下なのでエーゼルは彼女の好みのド真ん中だったのだ。
それ故に少しだけ残念に感じてしまったのだ。
「さて、長老派のアホ共のせいで状況は非常に悪くなってしまったがやる事は変わらん。皆は作業を再開して欲しい。神殿部の長には一度解いてしまった聖樹の防護結界の再構築を頼む」
「それは構わないのですが再構築には時間が掛かりますよ?」
「分かっている。その時間は我が何とかして稼ぐ。里の外を覆う探知結界と侵入防止結界も解除しておいたからその分処理は短く済む筈だ」
既に侵入を許している以上外側の結界は既に意味が無い。
そう判断したエーゼルは聖樹の力で構築されている全ての結界を解除したのだ。
そうする事で魔力的な余剰と防護結界を再構築する為の聖樹の術式演算処理速度に余剰が産まれる。
「分かりました。神子様の御心のままに。微力を尽くさせて頂きます」
「頼む」
聖樹を護る防護結界が再構築されれば、作戦通りに行動できる。
だが問題は……
(我がどれだけ時間を稼げるかだな)
ここに繋がる唯一の通路を長老派の取り巻きを苗床にして生み出した小さな森で埋め尽くし、長老衆を人柱にした防衛戦力も作り出しはしたものの厳しいと言わざるを得ない。
まともに戦えるのはエーゼルただ一人。
しかも、矢は全て使い果たしている。
手持ちの武器は父の形見のナイフのみ。
その状態でエーゼルはカルディア傭兵国の騎士達を迎えなければならないのだ。




