それぞれの戦い(エーゼル) 44
「貴様らが余計な事をしなければ、確実に守れる命が多くあったというのに……」
「ふざけるな!貴様が余計な事をしなければ我々は生き残れた!」
「貴様らにその価値は無い」
どこまでも冷たい視線を向けて、エーゼルはバッサリと切り捨てる。
「な!?」
「勇敢なる戦士であった彼等が命を賭して戦った結果残ったのが貴様らでは報われない」
彼等は未来を紡ぐために命を懸けた。
その末に残ったのが長老衆と長老派の集団であれば未来は無いのと同義だ。
「ガイウス長老。あなたは『聖樹の為に戦って死ぬるはエルフにとっての誉れ』、『聖樹が穢される様を見過ごすはエルフの恥』とあの時そう言ったな?ならば、自らそれを実践して見せてはくれないか?」
「な!じ、冗談では無い!我々が失われればどれだけの損失が……」
「貴様らが生きていようが生きていまいが世界から見れば何も変わらんよ。言っただろう『貴様らにその価値は無い』と」
(無論、我も同じ事だ。我が生きていようといまいと世界は淡々と回る。だが、それでも同じ価値が無いのならば我は残したいと思える者達の為に命を使いたい)
エーゼルの戦士としての矜持だ。
「物の価値が分からん若造が!たまたまハイエルフに産まれたからと言って偉ぶりおって!」
「我とて望んでハイエルフに産まれたかった訳では無い。今まで何度、普通のエルフに産まれたかったと思ったかも分からん」
押し付けられた役目の大きさと重圧。
自らがハイエルフだったからこそ失われたモノも沢山ある。
「だが、それでも確実に一つ言える事がある。貴様らがハイエルフに産まれなくて良かった」
長老派の連中がハイエルフであったならどれだけの命が無為に散らされたか想像もできない。
エーゼルのその言葉には多くの者が内心で同意していた。
「下賤な狩人の息子風情が言ってくれる!」
「貴様、言ってはならん事を言ったな?その『下賤な狩人』達によってこれまで生かされてきた分際で」
過去に長老達が生き残れたのはその『下賤な狩人』達が戦ったからであり、その糧をこれまで取って来たのも同じだ。
そして、今も戦っている者達も。
エーゼルは自分の事をどうこう言われるのは大して気にしないが、尊敬できる者達を侮辱されて許せる男ではなかった。
自身が一番尊敬する相手である父親を侮辱されたとあっては尚更であった。
エーゼルは聖樹から伸びる小さな枝を10本ほど折って手に取った。
その枝の1本1本を長老派の取り巻き連中の肩の辺りに強引に突き立てていく。
「ギャァァァァッッ!!」
先端が尖ってもいない枝に無理矢理貫かれた激痛で次々と絶叫が響く。
その光景に幾人ものエルフ達が目を背けた。
エーゼルは枝を突き立てた者達を入口の方に無造作に物のようにブン投げる。
拘束されている彼らは苦痛に顔を歪め、叫びもがく事しか出来ない。
「聖樹よ、離れた枝葉の対し強制魔力供給を開始せよ」
聖樹が淡く輝くと、
『ッッ……!!!?』
入口に積み上げられた者達がビクンビクンと陸に打ち上げられた魚の様にのたうち、肩に刺さった聖樹の枝葉の周りを起点にエルフ達の体から蔦や低木といった様々な植物が生えていく。
枝葉を突き立てられたエルフ達の寿命と魔力を苗床にして、聖樹本体に蓄えられた魔力を用いて森を生み出す聖樹の権能を使ったのだ。
苗床となった者達の命を糧に育った小さな森は通路を埋め尽くしていた。
全てを吸い尽くされた彼らは枯れ木のようなミイラと成り果てていた。
『…………………………』
それを見ていた全員があまりに凄惨な光景に絶句した。
「さて、これで少しは時間が稼げるだろう」
対するエーゼルは実に淡々としていた。
「貴様、正気か!?同族に対しあのような仕打ちをするなど、情は無いのか!?」
「先程の一言でほんの小さな粉粒のような同族として情も消え失せた。正直、我とてここまでやるつもりは無かったのだがな。状況を悪化させた責任を取らせるために精々肉盾として使ってやろうと思っていた程度だったのに……長老の皆様方、あなた達は楽に死ねると思うなよ?」
急成長した聖樹の周りに落ちていた種を拾い上げて、冷たい眼を向けるエーゼルはそう言った。
(あれよりも酷い事をやるつもりなのか!?)
エーゼルの言葉に長老衆一同は全身が震え、失禁する程の恐怖を覚えた。
狂気に見えて、エーゼルは正気なのが更にそれを増長させた。




