それぞれの戦い(エーゼル) 43
エーゼルはただ聖樹の幹に触れている訳では無い。
聖樹に対して接続を試みていた。
現在、聖樹はエーゼルの魔力が満たされて活性化しているので魔力の同調が容易い状態にある。
それにより聖樹に関連する状況を精査する。
(聖樹の内側に居るのは30人弱……長老共とその取り巻き連中だな)
聖樹の記録を辿って見ると、作業する者達の中に潜んでいた取り巻き連中が長老衆を手引きして強引に虚の中を占拠したようであった。
しかも、内側に侵入防止の結界を張り、更にエーゼルが事前に準備していた聖樹を防護する結界を起動させたようだ。
(舐めた真似をしてくれおって……絶対に貴様らの思惑通りにはさせてやらん)
「聖樹よ、神子の権限において命じる。中に居る者達への魔力供給を完全に遮断せよ!」
自身の魔力を最大限活性化させて、聖樹に対する干渉を行う。
まず最初に行ったのは長老派の一団に対しての魔力供給の遮断。
これにより障壁の強度が下がり、更に言えば維持が難しくなる。
「続いて聖樹の力を基盤とする全ての結界を解除せよ!」
次に一番固い守りである聖樹の防護結界の解除。
これはやりたくない事ではあったのだが、現状でこれがあると内部の結界を突破する妨げとなってしまうので致し方なくだ。
聖樹を包む青白い輝きが消える。
それをしっかりと確認したエーゼルは右手に魔力を集中させて、怒りを込めて拳を繰り出す。
『ガシャン!』とガラスが割れるような音と共に長老派の一団が作り出した侵入防止の結界を強引に貫いて穴を空ける。
無論、それで終わりではない。
「風の精霊達よ。閉じ込められし空気を吸い出し、愚か者共に報いを!」
キュゴ!!
エーゼルの頼みを引き受けた風の精霊が全力でエーゼルの頼みに応えて、虚の中の空気を外へ外へと吐き出す。
現在、虚の中は侵入防止の結界に包み込まれている為、疑似的な密閉状態が形成されている。
それに穴を空けて空気を吸い出せばどうなるか。
そんなことは明白であった。
「ぐ……く、苦しい……!」
急速に失われていく空気は酸欠による呼吸困難を招く。
中に居た連中は余さず、苦しみに顔を歪め、新鮮な空気を求める。
だが、それをエーゼルが許す訳は無い。
更に空気の排出が早められる。
時間が無いのは相変わらずなので巻きでやっている。
侵入防止の結界を張っていた者達が術の制御に意識を向けられる余裕がなくなった瞬間に結界が消え失せた。
結界が消えた事で密封が解除されたので、エーゼルはすかさず魔力の塊を飛ばし、全員の頭に叩き込んで気絶させる。
「皆の者、中に居る阿呆共を縛り上げろ!」
と背後に指示を出した。
すると、皆喜々としてアホ共を縛り上げ、虚の外へと叩き出して行くではないか。
それぞれ鬱憤が溜まっていたようである。
「き、貴様ら!自分達が何をしたのか分かっているのか!?」
運び出している間に馬鹿一同は目が覚めたみたいで、長老衆の頭目であるガイウスが喚き立てる。
「貴様がそれを言うのか?」
それを耳にしたエーゼルは絶対零度の如き冷たい目を向けていた。
当然だ。
長老派のカス共のせいでギリギリで推し進めて来た作戦が破綻してしまっているのだ。
怒りを覚えない筈がない。
少しばかり神経質な部分があるのでエーゼルは勘違いされ易いのだが、全力を尽くしての結果であればそれが失敗であってもそれを責める事は無い。
だが、今も尚、命を賭して懸命に時間を稼いでくれている者達が居る中、あのような自己中心的な悪意のある行動はエーゼルにとって絶対に許せない事であった。
あまりに冷たく鋭い殺気に思わず全員が息を飲んだ。




