それぞれの戦い(エーゼル) 39
『バリバリ』と障壁が砕けては張られる音が鳴り続ける。
「前列交替!!」
体力を消耗して攻撃の回転が落ち始めた頃合いに後ろに並んでいる騎士達と最前列の騎士達が入れ替わり、進行速度が落ちないように段取りが組まれた行動を取っていた。
無駄のない組織的な行動だ。
(損害と消耗を最小限に留めているな。敵ながら見事なものだ。これは個人主義で引き籠もりがちな気質なエルフには真似できない類の技術だろうな)
突破されゆく障壁を目の当たりにしながらもエーゼルは落ち着いていた。
その中で敵である騎士達の行動に対して称賛さえしていた。
士気が下がるので決して口には出さないだけだ。
エルフは森の狩猟民族だ。
戦闘が出来る者達も居るが基本的に狩人なのだ。
単独ないし数人組で行動するのが普通なので10人以上で行動するという事に慣れていない。
数が増えれば増える程に不和が生じる。
それをエーゼルが無理矢理破綻しない程度で押し留めていただけだ。
エーゼルが落ち着いているのは目の前の光景は遅いか早いかというだけで作戦を立てた時点で結果は見えていたからだ。
個々の戦力は敵の方が上。
集団としての戦力も技能も敵の方が上。
勝てる道理が無い。
そもそもどうやりあったところで負けは必至の勝負なのだ。
そんなことはエーゼルを含む戦闘員の面々は最初から承知している。
神殿部の者達に関しては巻き込んで悪いとは感じているが、聖樹の虚の中に入れるのは女子供だけでもかなりギリギリだろう。
むしろ、入れない者達が出る可能性の方が濃厚だ。
どちらにせよ入れないなら最大限有効に使うというのがエーゼルの決断だった。
同族同士醜い争いに発展する要因を少しでも排除しておく為という理由もある。
想定以上に早く潰れたが物事というのは想定以上に良くなる事など非常に稀だ。
悪くなる場合の方が殆どだ。
痛みを知らずに生きて来た者達が痛みに耐えられる道理はない。
ただそれだけの事だ。
エーゼル達の目的は出来る限り多くの同族を生かす事。
その中に自分達が含まれていないというだけで、ここに居る面々がどれだけ死んだところでそれは負けでは無い。
背後に居る者達も含む全てが失われたその時が本当の意味での敗北だ。
聖樹の内側に入れた者達以外の全てを吹き飛ばして、無理矢理にでも引き分けに引き込めればエーゼル達の勝ちなのだ。
目的の為に使い果たすと決めた命だ。
今更慌てる理由などない。
自分達が死んだところでそれは負けでは無い。
バリン!!
ガラスが砕けるような音がして最後の障壁が砕け散り、同時に神殿部の全員が痛みに倒れ伏す。
「ご苦労。よく勤めを果たした。後は我々に任せろ」
倒れる神殿部の面々に目を向けこそしなかったが、正面の敵だけを見据えて労いの言葉を掛ける。
「最大火力、放てェッ!!」
数十もの最大限の魔力強化を施された矢が神殿広場の入口へと向けて殺到する。
矢に込められた魔力が煌めいて流星雨のように駆け抜ける。
「来るぞ!やれ!」
『了解!!』
矢が放たれるのと同時に、騎士達は戦槌で壁を砕き始めた。
根元を砕かれた石垣がガラガラと崩れ落ちて行く。
盾はエーゼルの風に吹き飛ばされて無い。
だから、騎士達は壁を砕いて即席の盾……
いや、緩衝材にした。
如何に貫通強化を施した矢であろうと数m単位の厚みを持つ石と土の塊に突っ込めば当然威力は削ぎ落とされる。
そして、無数の矢の中に混じっていた破裂の矢が崩れ落ちた壁を吹き飛ばしていく。
「突貫!!」
破裂の矢によって薄くなった土砂を突き破って、騎士達が細道を抜ける。
(チッ……こちらの攻撃を防ぎ、その破壊を利用するか。敵ながらやってくれる!)
「だが、そう簡単に……行かせて堪るか!」
エーゼルは矢を4本一息で放つ。
全ての矢に破裂の強化が施してある。
事前に手持ちの矢全てに矢が耐えきれる限界ギリギリの魔力を込めている。
その矢は直接騎士達へとは飛ばなかった。
矢が刺さったのは騎士達の足元。
ドバァンッッ!!
エーゼルの強い魔力が込められた破裂の矢は激しい衝撃を撒き散らし、地面を吹き飛ばした。
騎士達を細道の方へと押し返すように地面もろとも吹き飛ばしたのだ。




