それぞれの戦い(エーゼル) 40
「まだだ!!」
浮いた騎士達を魔力任せの雑な風魔術で押し流す。
「またあのガキか!毎度毎度嫌なタイミングで出てきやがる!」
「お褒めに預かり光栄だな」
シュパパン……!
敵騎士の愚痴に対して皮肉を返しながら、矢を放つ手を止めない。
次々と放たれる矢の全てに破裂の強化が施してある。
その強さは矢が放つ輝きを見れば一目瞭然だ。
「クソ!引けェッ!!」
直撃すればただでは済まない。
そう判断した部隊長指示は迅速だ。
ズドドドドドドドッッ!!
破裂の矢が絶え間なく連続で打ち込まれ、衝撃音が連鎖する。
もしこれをシュラが見ていたなら『空爆』みたいだと言っただろう。
破裂の矢を手前から順に奥へ奥へと打ち込んでいき、それに従い騎士達を奥へと追いやって行く。
だが、その分みるみると矢が減っていく。
「おまけだ」
エーゼルが最後の2本の破裂の矢を騎士達の頭の上を越して奥へと飛ばす。
その矢は細道の入口付近の壁の根元に突き刺さり、大きな衝撃を放ち壁の崩壊をもたらす。
崩壊した石垣が入口を塞ぐ。
「あのガキ退路を塞ぎやがった!」
2本あれば数人は仕留められただろう。
だが、それだけだ。
数人減ったところで大した時間は稼げない。
里が火の海に飲まれようとしている今なら撤退に時間を掛ける事が死に直結する。
敗北を喫した場合の備えとしての嫌がらせだ。
エーゼルは最悪を想定して行動している。
寿命を自ら削ったのは必要だったからというのもあるが、自身が捕まった場合を想定しての嫌がらせという意味も含まれている。
馬鹿みたいに高額で売り払われたとしても、大した間も置かずに死に果てるのであれば買手側の損となり、長命が売りのエルフ……
しかも、ハイエルフが死んだとなれば苦情は確実に出品側のカルディア傭兵国へと向かう。
ハイエルフを買える様な者は限られてくる。
そこからの苦情は決して無視できるものではないだろう。
(そうなった時はどちらもそれどころではないかもしれないがな)
エーゼルは自身が捕まった場合、自身ですら吐き気を催す程の本当に最悪の嫌がらせを用意している。
その嫌がらせはカルディア傭兵国のみならず、下手をすれば世界的な大混乱を巻き起こすだろう事を理解しているが故の思いだ。
(出来れば我としても使いたい手段ではないが……このような行いを平然と行う国を存在させておいてはならない。各地に散って隠れ潜んでいる同族の為にも……などというのは完全にただの建前だな。結局のところ我はミラフィアを狙う可能性のある存在の禍根を絶ちたいだけだ)
その為だったら過激過ぎる手段も取る。
(ミラフィアには言えんが、その手段を用意していたのはアイツの母親なのだよな……本人は『若気の至り』だと言っていたが、それであんなものを持ち出す辺り里に対して相当の恨みを抱えていたのだろうな。彼女が病床に着いた時に『もう使うつもりは無いから適当に処理しといて』と頼まれはしたが、危険過ぎて下手に捨てるに捨てられなかった代物だ)
それは捨てられなかった結果、厳重に保存して持ち歩く事になってしまった代物でもあった。
(我に出来るのはアレを使う事態にならないように最善を尽くすのみだな)
矢は既に撃ち尽くした。
それは他の者達も同様だ。
痛みさえ我慢できれば魔力に限りは無いのだが、生憎と現在動ける面々は魔術や精霊術方面に明るいとは言えない。
エーゼルも騎士達を倒せるほどの術を用意するのには時間が掛かる。
騎士達はエーゼルが吹き飛ばして耕された状態になった細道に足を取られながらも前進して来ている。
「そんじゃ、行くとしますかね」
狩猟部と警備部の者達が弓と矢筒をその辺に放り投げて、短剣を抜く。
「済まない。少しだけ先に行って待っててくれ。程無くして我も行く」
「俺らとしては若様には少しでも長生きして貰いたいんですがねぇ」
「無理を言うな。既に寿命の大半を聖樹に捧げた後だ。仮に生きられたとしても長くは無い」
「それでもですわ。ですが、若様がそこまでせにゃならんような状況を作り出しちまった情けない大人である俺らとしては、若様の選んだ道に文句言える立場じゃねえからなぁ」
「違うな、本当に情けない大人というのは長老衆のような常に責任から逃げ、無様を曝しながら生き続けている恥を恥とも思わん連中の事だ」
「ぶっはッ……!!違ェ無ェ!!」
真顔で告げられたエーゼルの言葉に一同揃って笑う。
何千年も生きて来た生き字引連中に対しての評価が、20どころか15年も生きていない未成人であるエーゼルにここまで言われているというのは最早爽快であった。
最高の皮肉と言えるだろう。
「少なくとも我はお前達を情けない大人などとは微塵も思わん。ここに立っている者達は等しく誇り高き戦士だ。我は我の最期の時をこの場に居る皆と共に出来る事を誇りに思う」
「若様……そう言って貰えて俺らも救われますわ。最期になりましたが、俺らも若様と共に戦えたことを誇りに思います。では、ちいとばかり先に行ってきますわ」
『少し外行ってくる』そんな感じの気安さで狩猟部の長は先陣切って駆け出して行く。
それに狩猟部と警備部の面々が続いて行く。
その背中を見送るエーゼルは奥歯が砕けてしまいそうな程に強く噛み締めていた。




