それぞれの戦い(エーゼル) 38
黒いオークの位置を探らせるために里の外へと向かわせた偵察組だったが……
大した時間も置かずに全員が揃って戻って来た。
「何だと?」
偵察組の報告を聞いた部隊長は眉を顰める。
「里の全周を覆うように毒気を放つ泥沼が発生しており、外に出られません!」
「泥沼だと?……アイツの仕業か」
この作戦の情報提供者であり協力者である術士の女の姿が部隊長の頭の中に過ぎる。
(エルフ達を徹底的に逃がさないつもりか。ヤツが有能なのは確かだが、それが裏目に出たか)
部隊長は協力者である術士の女の素性を詳しく知っている訳では無い。
だが、里の内情に異様に詳しい事から元々はこの里の出身者だろうことは予想できる。
その正体に関しては、追放されたハーフエルフか何かだと予想していた。
混血を嫌うエルフはハーフエルフから恨みを抱えられている事が多く、その居場所についての情報をもたらすのは殆どが奴隷落ちしたハーフエルフだという内情もある。
ハーフエルフ達は自身を不幸にした原因であるエルフ達が何食わぬ顔で暮らしているのが許しがたいから拷問など行わずとも復讐心を煽ってやればボロボロと情報を明かしてくれるのだ。
今回の様に現地での行動に対する協力を自ら申し出る事さえも珍しくない。
今回の協力者に関しては『非常に有能』の一言に尽きた。
彼女が居なければ下手をすれば全滅も有り得た。
度重なる想定外を乗り越えて、現在こうして作戦行動を取れているのは間違いなく彼女の功績が大きい。
(だが、奴は何を考えているのか分からない部分がある。どうにも、手放しで信用するのはどうにも危険な気がする)
今回の協力者は他の協力者たちとどこか違う。
そう思えてならないのだ。
何がそう感じさせるのかは分からない。
そういう勘を無下にするのは危険だと部隊長は経験上理解していた。
「出られないのであれば仕方ない。お前達も合流してこの先に篭っているエルフ達を一刻も早く捕えられるよう尽力しろ」
『了解』
偵察組が応えた時、遠くに明るいオレンジ色の光が見えた。
そのオレンジ色の光はあっという間に広がって行き、里全体を囲んでしまう。
「エルフの連中、逃げられないと分かって火を放ちやがったか!」
捕まるぐらいなら死を選ぶ。
そういう選択を取る連中も居る。
「これは益々急がねえといけねえぞ。連中に死なれたら働き損だ!」
これだけ大規模な動員をして収穫無しでは赤字も良い所だ。
それにグズグズしていたらこちらまで火と煙に巻かれて全滅する危険性が高まって行く。
全員がそれを理解していたからこそ必死さがより高まるというものだった。
出来るだけ時間を掛けたくない騎士達と出来るだけ時間を稼ぎたいエルフ達の決死の攻防が始まる。
対するエルフ側は……
「火だ!誰が放った!?」
戦闘員の誰かの怒声が響く。
「落ち着け。どちらにせよ我らがやる事は変わらん」
犯人探しをしている時間も無ければ手も無いと言外にエーゼルは告げる。
自棄になった者が火を放ったと言ってもおかしくない状況ではある。
だが、エーゼルはそれは違うと思っていた。
(火を放ったのはレイシィだろうな……騎士達を追い立てる為に)
元々里に火を放つ用意をしていたのをまんまと利用された形だ。
毒の沼でエルフと騎士両方の逃げ場を塞ぎ、火で双方の焦燥感を煽り立てる。
(両陣営の狙いを分かっているだけに実に嫌な手を打ってくる。ここで全てを終わらせるつもりだろうな)
だが、それに関してはエーゼルも同じ事だった。
そして、それは騎士達も同じである。
それぞれ目的は違えど正念場を迎えていた。
先程よりも必死な様子で騎士達が向かって来る。
騎士達は現状からして迅速に終わらせたいのだ。
それは必死にもなるだろう。
神殿部の術士達が聖樹からの魔力供給による激痛に次々と倒れ伏して行く中、障壁の展開枚数が減るのも加わって、騎士達の進行速度が上がる。
(レイシィの動向は気掛かりだが、目の前の危機を凌がねば話にもならんな)
「敵もまた尻に火が付いたみたいだな。皆の者、ここからが本番だ。心せよ」
エーゼルを筆頭に戦闘員の全員が全力の魔力強化を番えた矢に施して待ち構えていた。




