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それぞれの戦い(エーゼル) 36

他に王侯貴族に求められるエリクシルと並ぶ伝説的な霊薬は不死をもたらすソーマや不老をもたらす金丹といったものだ。


これらを人は三大霊薬と呼ぶ。


三大霊薬の一つ、『全治の霊薬』エリクシル。


それらしきものを豚鬼種(オーク)が所持している。


普通に考えればおかしな話だ。


だが、件の黒い変異種のオークはそれ以外にも所持している事自体がおかしな物品を数多く持っていた。


『有り得ない』と切り捨てる事もできない。


部隊長は決断を強いられる。


当初の目的であるエルフか、想像できない程の金額になるであろう秘宝を所持している可能性があるオークが。


想定以上に手勢を失っているので、部隊を分けてどちらも狙うという事は出来ない。


腹立たしい事にエルフの集団も変異種のオークもどちらも強い。


下手な分断は全滅を招きかねない。


「……戦闘力の低い偵察組は外に出てオークの居所を探れ。オークを狙うのはエルフ共を捕獲した後だ」


部隊長は迷ったが、任務を優先した。


先程の偵察の話は本当なのかもしれない。


だが、確実性が無い。


賭けに出るのは確実な儲けを得てからで十分だと判断した。


その為に長い期間を掛けて準備してきたのだ。


今更、放棄はできない。


それにこれまで手を焼かされ続けているエルフ達を見逃すのは個人的に我慢ならないと感じていた。


ようやくここまで追い詰めたのだ。


それをフイにするなど有り得ない。


だが、可能性は残しておく為にも戦闘に関しては影響力の低い偵察組だけを少数里の外へと出す事にした。


(エリクシルを所持していなかったとしても、あの黒いオークからは大金に繋がる匂いがする。あれだけの品々を野蛮な種族であるオークが独力で作り出せたとは思えない。となれば、あれだけ品を与えた協力者がいる筈だ。その存在まで辿り着ければ……)


その可能性を見逃すという選択肢も選ばない。


それが部隊長の決めた選択であった。


(ククク……俺にもツキが回って来たのかもな。エルフ達の抵抗は予想外だったが、おかげで予定よりも大分分け前が増えた。それに関しては感謝していない訳でも無い。それに加えて追加ボーナスの可能性と来やがった。これはサクッと任務を終わらせて宝探しと行くしかないよな)


「さあて、クソムカつくエルフ共を一網打尽にしに行くぞ!!さっきまで散々コケにされた借りを返しによォ!」


『オオォォッッ!!!』


部隊長の指示に部隊の戦意が湧き立ち、大きな声が上がった。



その一方、エーゼル達は……


神殿前で準備万端の状態で待ち構えていた。


「……来るか。では、皆の者手筈通りに頼むぞ」


大きな声と足音による振動を感じたエーゼルが静かに告げる。


「任せて下さい、若様」


「最後まで最善を尽くして見せましょう」


これまで辛い戦いを共に戦い抜いて来た狩猟部と警備部の面々が頼もしい笑みを携えて返してくる。


「……何故、このような危機を前に笑っていられるのですか?」


だが、神殿部の者達は違った。


彼女達は魔術的な才能に長けてはいるが、このような集団戦はおろかまともに狩りに出た事すら稀という里きっての引き籠もり集団なので当然と言えた。


現在進行形で全員が顔を真っ青にして、足をガタガタと震わせていた。


「泣き叫んだ所で今更結果は変わらん」


現実的なエーゼルは実に淡々と返した。


その辛辣さに神殿部の面々は息を飲む。


「敵を前に勇敢に戦い抜くのが戦士の役目でねぇ。戦士が怯えてたら誰が戦うんだって話でさぁ」


「ここで我々が果てようとも守れるものがあればこそ笑えるというもの」


神殿部の者達との違いは覚悟。


「我らは産まれを選ぶ事は出来ん。だが、死に様は選ぶことが出来る。今、ここで悲観的になったところで無様を曝すだけとなろう。それは望む所ではあるまい?」


産まれによって今のような立場を背負わされているエーゼルの言葉には重みがあった。


エーゼルの問いに防衛に参加する神殿部の全員が頷く。


「ならば、残された者達が誇れるような死に様を選ぶ事だ。さすれば、我らの生き様が未来を担う者達の指標となるだろう。それにだ、最後ぐらい格好つけた所で罰は当たらんぞ?」


エーゼルはそう言って、皮肉気な笑みを浮かべた。


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