それぞれの戦い(エーゼル) 34
エーゼル達の想定通り、矢の弾幕を抜けて騎士達がやって来た。
騎士達は爆発で吹き飛ばされた外壁の穴を通って里の内部へと突入を開始した。
「全員後退しつつ迎撃を継続!距離を保て、距離が我らの生命線だと心せよ!!」
騒乱の中でもエーゼルの声はよく響いた。
剣の届く間合いに入られれば負けは確定だ。
「さぁ、稼ぎ時だ!!取り逃がすなよ!」
負けじと騎士達の方からも声が響く。
エーゼル達は里の中心部へと後退しながら牽制を続ける。
わざと狭い路地の方へと行って移動を制限したり、家屋を倒壊させて騎士達を埋めてみたりと嫌がらせ的な行動を取って苛立ちを煽るように努める。
どうせ正面からやりあっても勝てないのだ。
嫌がらせをして今までの鬱憤を晴らすぐらいはしても良いだろうと判断しての事だ。
今の目的は敵を中心部に引き寄せる事だ。
冷静な判断が取れない様に煽って煽って煽りまくる。
騎士達が階段を下っている最中に階段にゴーレムをくっつけるのに使った接着剤の余りをぶちまけてやったときは傑作だった。
接着剤のヌメリに足を取られて続々と騎士達が転倒していく様は傑作だった。
エルフ達も真面目な行動をしている筈なのについ爆笑してしまう程に。
しかも、立ち上がるまでの間に接着剤が乾燥したようで変な形で色々と張り付いてしまって一部の騎士達が塊のようになっていたのだから尚更だ。
それが更に騎士達を煽ることになる。
「き、貴様らァァァァッッ!!」
「ハハハハハッ!!良いザマじゃないか!屑は屑らしく無様に這い蹲っているが良い!」
エーゼルも溜まりに溜まったストレスから、暴言に磨きが掛かって切れ味が増していた。
キレッキレだ。
その言葉に騎士とはいえならず者の集まりであるカルディア傭兵国の集団は激昂する。
「若様、楽しそうですね」
「フン、最後ぐらい笑っても良いだろう?」
「確かに!変にしんみりするよりは良い」
「だろう?第一この里は娯楽が少な過ぎる」
「あー……確かに」
エーゼルの言葉に狩猟部の長も思うところがあったみたいで同意する。
「さぁ、精々小馬鹿にしてやろうではないか!」
「若様が楽しそうで何よりですわ」
エルフ達は目的に沿って行動する。
その姿は緊迫した場面の筈なのに妙に楽しげだった。
エーゼル達の誘導は上手く行っていた。
冷静さを欠いた騎士達は目的を忘れて怒りのままにエーゼル達を全力で追って来ている。
だが、そんな中でエーゼルは一抹の不安を拭えなかった。
(今の所は作戦通り上手く行っている。だが、事が上手く運び過ぎている気がする)
行方が分からないレイシィという不安材料がある以上、それは考え過ぎというものでもない。
「もうしばらくしたら里の中央付近に差し掛かりますなぁ」
「楽しい時間も終わりという事だな」
「俺ら今回で一生分笑った気がしますわ」
「フン……違いない」
追って来る騎士達をダシに全員が笑った。
里でこれ程面白いと思えた事態は皆無と言えた。
「それにしても、まだ火の手が上がりませんな。撤退が遅れているのでしょうか?」
「確かにそうだな」
エーゼル達はわざと遠回りしたりして時間を稼いでいた。
なのにまだ撤退組の方が放つ予定となっている火の手が上がらない。・
これは妙だ。
「どうにも嫌な予感がする」
「ですな」
予定通りに事が運ばないという事は何かあったという事だ。
それはエーゼル達に不安感を抱かせるには十分過ぎる事態である。




