それぞれの戦い(エーゼル) 33
「……やはり、踏み込まれるのは時間の問題だな」
「でしょうなぁ。何せ敵の方が強さも数も経験も上ですからなぁ。若様のおかげで連中を守っていた術が消えたとはいえ簡単には落ちてくれますまい」
罠も壁を救援もないかなり絶望的な状況の中で、皆が落ち着いていた。
ここまで追い込まれると逆に腹が据わるのだ。
「我らに出来る事は時間を稼ぐ事だけだな」
「ですな。その時間で皆が逃げ切ってくれれば良いのですが……」
「どうなるにせよ、我らはそれを期待するしかあるまい」
話しながらもエーゼルと狩猟部の長は魔力強化を込めた矢を放つ手を止めない。
接近されたら弓なんて使えないので矢を使い切る勢いでガンガン使う。
ここに残っているのは死を覚悟した死兵だ。
生き残り、生き恥を曝す辱めを受けるぐらいであれば、自らの魔力を暴走させて敵諸共自爆する覚悟を決めている。
「エーゼル様、生産部より伝達!『準備は整った』との事です!」
「ご苦労。生産部も他の者達と共に撤退を開始せよと伝えてくれ」
「了解いたしました!皆様に聖樹の加護があらんことを」
去りゆく生産部の若者を見送る。
「さて、これが我らの最期の戦いとなるだろう。命が惜しい者は是非名乗り出てくれ、我の権限で撤退を許可する」
迎撃の手を止めずにエーゼルは残った戦闘員の面々に問うが、誰も名乗り出る事は無かった。
「これより最後の策の確認を行う。迎撃の手は止めずに聞いてくれ」
その場に残った面々が矢を続々と放ちながら、エーゼルに耳を傾ける。
「時期に里へと騎士達が雪崩れ込んでくる。その後、我らは里の中心部に退きながら迎撃を継続し、連中を里の中へと引きずり込む。これが第一段階」
里の中での戦闘はゲリラ戦の様相を呈する筈だ。
その辺りは森の中と大して変わらない。
「次に撤退と同時に生産部が里の外壁に火を放ち、より燃え広がり易くなるように手筈を整えているので、火の手を確認したら我らも周辺に火矢を放ち延焼を加速させ、騎士達の逃げ場を塞ぐ。これが第二段階」
里を放棄すると決めたのだ。
里そのものを巨大な籠罠とする事にも躊躇いは無い。
「最後に聖樹に蓄えられた余剰魔力を里に放出して貰い、我の魔力を起爆剤として里諸共連中を吹き飛ばす。聖樹には強力な防護結界を張ってあるので聖樹だけは残る手筈になっているのでそこは安心して欲しい」
エーゼルの最期の策は自爆を含む浄土作戦であった。
徹底的に敵に対して利を与えない。
そんなエーゼルのプライドが全面に出ている作戦だ。
(我が生きたまま捕えられた場合の策も考えてはいるが、それは飽くまでも保険だ。使う事はあるまい)
それについてはエーゼルでさえも『可能なら使いたくない』と感じる程に、えげつない代物だったりする。
作戦に関しての一番の不安材料はそこにレイシィが来るかどうかという点だ。
来たら巻き添えにできるのだが、来なければ撤退した面々は大きな危機に曝されるだろう。
だが、それを気にしていられる程の余裕が無いのも確かであった。
この件に関してレイシィの事は捨て置くと決めていた。
(集団に追われるよりも。個人に追われる方が逃げ切れる確率は高いだろう)
そう判断しての事だ。
レイシィがどれだけ優秀であっても1人でしかない。
撤退組がバラバラに逃げれば対処できる人数には限りがあるので、逃げ延びる目はある。
「最終確認だ。ここに残れば確実に里と運命を共にする事となる。命が惜しい者は今からでも構わん。我はそのことを決して軽蔑しないと誓おう。撤退組と合流して彼らに向かう危機を振り払って欲しい」
確実な死が確定した策を耳にして尚、残った面々に揺らぎは無かった。
「そりゃ今更ってモンですぜ、若様。ここに居る面々は最初の戦いから命を捨てる覚悟決めてたんだ。最後までお付き合いしますぜ」
エーゼルの最終確認を聞いて、狩猟部の長がそう言うと、周囲に居た面々も『そうだ。そうだ』と言って同調する。
「ここに残る覚悟を決めた皆に最大の敬意を表する。全く……我も貴様らも揃いも揃って大馬鹿だ」
「違いない!」
呆れたように告げるエーゼルの言葉に同意して皆が大きく笑う。
そこに不安や恐れというモノは一切感じられない。
「誇り高き馬鹿者達よ、我と共に未来の為にその命を使い尽くせ!!」
『オオオオッッ!!!』
この場に居る面々を見て、『エルフもまだ捨てたものではない』とエーゼルはそう感じていた。




