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それぞれの戦い(エーゼル) 32

エーゼルが里に戻ると、里は混迷を極めていた。


外壁はゴーレムの自爆で吹き飛んだのだろう、穴が明らかに大きくなっている。


そして、迎撃をしていた警備部と狩猟部の面々は大小様々な怪我を負っている様子だった。


「皆の者、落ち付け!!」


エーゼルが声を張り上げると騒然としていた現場が嘘のようにピタリと収まった。


「誰か状況を端的に説明してくれ」


「若様、無事なようで良かった」


エーゼルの言葉に応えて狩猟部の長が横に立つ。


狩猟部の長は額から血を流してはいたが、大きな怪我は負っていない様子であった。


「そっちは大丈夫なのか?怪我をしているようだが?」


「石の破片が額かすめただけでさぁ、見た目はアレですが軽傷なんで気にしねえで下せぇ」


「そうか。時間が無い。手短に頼む」


「了解しやした。先刻、接着剤でガチガチに固めていたゴーレムが突然爆発して、外壁の一部を吹っ飛ばしました」


「被害は?」


「4人が気絶、命に別状はありませんが復帰には急ぎ治療が必要なのが5人、他は全員軽傷って所ですわ。そっちはどうでした?」


「敵術士に重傷を負わせ撃退はしたが、取り逃がしてしまった。ゴーレムの爆発は敵術士の撤退時の嫌がらせだ。済まない」


「なるほど、そりゃ今で良かったのかもしれませんな」


「と言うと?」


「敵の騎士がもっと迫って、壁側に皆が寄っている段階で爆発させられたのであればもっと被害が大きくなっていたでしょうからなぁ」


エーゼルがそれを想像すると少しゾッとした。


そうであったなら一網打尽も良い所だ。


「この程度で済んで良かったという訳か」


「ええ。皆最善を尽くした結果なのですから若様は気にせんで下せえ」


戦闘不能状態になった者が9人出たが、死者はいない。


正に不幸中の幸いというヤツであった。


「動ける者達は迎撃を継続!農耕部の者達は負傷者の搬出と共に神殿部に治療要請!……非戦闘員へ準備が出来次第即時撤退を伝達しろ」


『了解!』


「ここからが本当の正念場だ!皆の者、覚悟を決めろ!!」


『応ッ!!』


エーゼルが指示を飛ばすと先程の混乱が嘘のように収まり、全員が1つの生き物のように動き出す。


(あの怪我ではレイシィが動けるようになるまでに時間は掛かる筈だ。その間に騎士達を減らせるだけ減らしておきたい)


現状、里の周囲には聖樹の加護が満ちている。


里のエルフであるレイシィも加護の対象であるので回復速度が速まっているので決して油断は出来ないが、すぐに回復できるような負傷でも無い筈だ。


聖樹の加護のもたらす回復速度上昇では肉体欠損の修復は出来ない。


大本の種族がエルフであるので当然だ。


これがゴドリックのようなオークなどの生命力に長けた種族であれば話は別であろうが、エルフの身の上で欠損を修復するのであれば相応の寿命を削るか、死を覚悟するレベルの体力を要求されるだろう。


(……レイシィであれば寿命を削るぐらいのことは躊躇いなくやれるか。我と同じように自らの死さえも覚悟の上であれば)


それを踏まえて考えると時間はあまりないのかもしれない。


それにレイシィは術士だ。


魔力切れの心配が無いこの環境下では、仮に自らが動けなかったとしても何かしらの妨害行動に出る可能性は大いに有り得る。


それだけの力をレイシィは有している。


「間違いなく辛い戦いになる。それだけは皆覚悟しておいてくれ」


エーゼルはそれだけ言って、迎撃に加わった。


混乱を避ける為と、ミラフィアの立場をこれ以上悪くしない為にもエーゼルは敵術士の正体がレイシィである事を黙っていた。


(レイシィが正体を里の者達に明かさないでくれればいいのだが、それは期待薄だろうな)


そうと分かっていても僅かでも可能性があるなら、それを潰さないでおくエーゼルであった。


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